【新型コロナ 7つの謎 最新免疫学からわかった病原体の正体】レポート

【新型コロナ 7つの謎 最新免疫学からわかった病原体の正体】
宮坂 昌之 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065218632/

○この本を一言で表すと?

 新型コロナウイルスに関わるトピックを免疫学的に解説した本

○よかったところ、気になったところ

・免疫の専門家によって、新型コロナウイルスに関わるニュース等で話題になっている内容について、免疫学的に現在わかっていることや免疫学の基本について解説された本でした。
専門的な内容がわかり易く解説されていました。
現在わかっていないことや研究中である内容についてもその前提で触れられていて、現状がよく分かる本だと思いました。

・著者の長女がイラストを書き、長女の夫が微生物学者の視点で原稿をチェックし、著者の妻が一般人の視点でアドバイスしてできた本だそうです。
家族でこういった作業に取り組めるのは面白そうだなと思いました。

第1章 風邪ウイルスがなぜパンデミックを引き起こしたのか

・パンデミック、エピデミック、エンデミックという似た言葉の意味の違いが説明されていました。流行規模の違いだそうです。
エンデミックは特定の地域で限定的に流行する感染症で季節性インフルエンザが該当し、エピデミックは短期的に拡大して国を超える規模になる可能性のある感染症でSARS・MERSが該当し、パンデミックは複数の国や大陸を超えて世界的な流行に繋がる感染症のことだそうです。

・20世紀以降の代表的なパンデミック、エピデミックの表がありましたが、20世紀と比較して21世紀の多さが顕著だなと思いました。
環境破壊により野生動物と人間の距離が近くなっていることで野生動物に感染しているウイルスが人間に感染しやすくなっていること、地球温暖化によりウイルスに適する地域が拡大していることが挙げられていました。
人間の移動速度・移動距離には触れられていなかったのが印象的でした。

・ウイルスの抗原ドリフト(小さな変異)と抗原シフト(大きな変異)があることから、新型コロナウイルス以降もまたパンデミックが起こることは間違いないそうです。

第2章 ウイルスはどのようにして感染・増殖していくのか

・ウイルスと細菌の違いと、その違いによる感染の仕組みの違い、対処法の違い等が述べられていました。
細菌は単独で生存・増殖できる単細胞生物で、光学顕微鏡で見える大きさなのに対し、ウイルスは生物としての条件を満たさないもので自己増殖できず、宿主細胞に寄生することで増殖でき、電子顕微鏡でないと見えない大きさという大きな違いがあるようです。
ウイルスと細菌ではその構造から対処法が全く異なり、抗ウイルス剤は細菌に、抗菌剤はウイルスにほとんど影響ないそうです。

・ウイルスは特定の細胞に侵入するための鍵に該当するタンパク質を持っており、細胞の鍵穴に該当する酵素等が適合する細胞にのみ侵入できるそうです。
新型コロナウイルスはACE2という酵素があると侵入できるようで、ACE2が上皮細胞に存在する気道、肺、腸に感染するそうです。

・新型コロナウイルスは細胞に侵入後、自身のRNAを複製し、ゴルジ体でウイルスの体に該当する部分を作成させ、増殖するそうです。
抗ウイルス剤はこの経路のどこかに作用するもので、作用が異なる抗ウイルス剤が同じ症状に対して多数存在するそうです。

・ウイルスに対する代表的な3つの検査について説明されていました。
PCR検査はウイルス遺伝子を増殖して検査するもので、感度・特異性が極めて高く、診断法としての信頼性も高いのだそうです。
ただ、発症しているかどうかは確かめられず、増殖するのに時間がかかり(数時間程度)、高価であるというデメリットがあるそうです。
抗原検査はウイルスに対する抗体をプレート上に固相化してウイルスが存在すれば抗体が反応する、という検査方式で、PCR検査より感度は低いものの、安価で迅速にできるそうです。
抗体検査は抗体の有無を検査するもので、過去に感染したかどうかを調べられるそうですが、新型コロナウイルスについては抗体の生成が遅く、また抗体の減少が早く、信頼性が低いそうです。

第3章 免疫vs.ウイルス なぜかくも症状に個人差があるのか

・新型コロナウイルスとインフルエンザの違いについて述べられていました。
新型コロナウイルスは呼吸器系以外にも感染し、死亡率や後遺症が残る確率がインフルエンザより高いという特徴があるそうです。
また感染してすぐに症状が出るインフルエンザと異なり、新型コロナウイルスは感染しても無症状の人が多く、症状が出るまで時間がかかることも多いため、感染者が自由に行動し、他社に感染させる可能性が高いという特徴があるそうです。
インフルエンザは毎年流行するために社会の中にある程度集団免疫ができているのに対し、新型コロナウイルスは免疫を持つものがほとんどいなかったために感染が広がりやすいという特徴もあるそうです。
新型コロナウイルスによる死亡者は病気の中で世界3位となるそうで、インフルエンザの倍近い数が死亡するそうです。

・自然免疫と獲得免疫の二段構えの防御機構があり、生まれたときから持っている自然免疫は皮膚や粘膜による物理的・化学的なものと侵入後の異物センサーによる排除があるそうです。
獲得免疫は特定の抗原を学習して対処する仕組みで、抗体を放出するB細胞と感染細胞を殺すT細胞があり、最初の対処は遅いものの二度目以降は迅速に対処する仕組みになっているそうです。
抗体によく注目されますが、獲得免疫は抗体だけでなくキラーT細胞による感染細胞自体を殺す仕組みがあるため、抗体を持つ人の数で免疫を調査するのは不十分なのだそうです。

・自然免疫と獲得免疫はそれぞれ独立した別の機構というわけではなく、自然免疫機構で抗原を感知してサイトカインを生成し、獲得免疫機構に伝える仕組みがあり、自然免疫が働けば獲得免疫機構も迅速に対応できる仕組みがあるそうです。
風邪の症状はこのサイトカインによるものが多く、鼻水・喉の痛み・発熱等は生体の防御機構を働かせるためのものでもあり、それを抑える薬は風邪を長引かせることにも繋がるそうです。

・自然免疫は繰り返し防衛することで鍛えられるということも最近提唱され始めているそうです。

・人それぞれ異なる抗原提示機能を持つHLAを持っていて、この型によって対応できる抗原とそうでない抗原が変わるそうです。
人によって同じウイルスに感染しても症状が異なるのはこの違いによることがあるらしいですが、日本人の感染数が欧米に比べて少ないことは、今の所HLAを理由としては説明できないと述べられていました。

第4章 なぜ獲得免疫のない日本人が感染を免れたのか

・日本人が欧米に比べて新型コロナウイルスの感染率・死亡率が低い理由について、色々検討されていました。
自然免疫により防げているという説があるそうですがこれは根拠薄弱で誤りであるそうです。
BCG接種によって自然免疫が強化される訓練免疫による可能性については、特定のBCG株についてあるかもしれないものの、地域によってBCG接種率と比例しないところもあり、確定的ではないそうです。
新型コロナウイルスに似たコロナウイルスへの免疫による交差免疫の可能性はあるそうですが、まだ日本では検証されていないそうです。
民族、血液型、生活習慣では優位な差がみられないようで、未知の要素による可能性が高いのではないかという結論でした。
生活習慣は歴史から考察した本などでよく取り上げられているので、否定されていることが意外に思いました。

第5章 集団免疫でパンデミックを収束させることはできるのか

・集団免疫という言葉がよくニュースでも出てきていますが、実際の定義や集団免疫に関する言説が取り上げられ、わかりやすく説明されていました。
6割集団免疫説などは根拠が薄く、仮に6割が免疫を得たとしてもそれで感染が止まるとは思えないそうです。
新型コロナウイルスについては感染後に免疫が陰性になるまで早いこともあり、集団免疫で収束できるのかどうか自体怪しいそうです。
第2波の感染率が低かったことからウイルスが変異して弱毒化した説などもあったようですが、それもあまり考えられないそうです。

第6章 免疫の暴走はなぜ起きるのか

・新型コロナウイルスが免疫を暴走させ、サイトカインストームを引き起こす原理について詳細に説明されていました。
新型コロナウイルスは初期には炎症性サイトカインであるインターフェロン産生を抑制し、その後抑制せずに過剰にインターフェロンが産生され、炎症反応が過剰に進むそうです。
初期にインターフェロンを散布することで症状が抑えられた事例が紹介されていました。

・免疫系が疲弊することで様々な症状に繋がることが多く、高齢者はもともと免疫系が弱っているので重症化しやすいのだそうです。

・慢性炎症性疾患を有している人は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが格段に高くなるそうです。
慢性炎症の原因は炎症性サイトカインの過剰産生であり、そこに新型コロナウイルス感染により産生された炎症サイトカインが働くことで重症化するそうです。

第7章 有効なワクチンを短期間に開発できるのか

・抗体には善玉抗体・悪玉抗体・役なし抗体の3種類があり、ワクチンの効果によっては悪玉抗体の生成を増進させることもあり、また炎症性サイトカインを生成する細胞を刺激することもあるため、ワクチン作成は難しいのだそうです。

・ワクチンを開発し、市場に出るまでには通常10~15年かかるのだそうです。
基礎研究から動物による前臨床試験を終えた後、第一相から第三相の臨床試験を経て承認申請し、生産体制を整えて検査を受け出荷するまでのプロセスでそれぞれかなりの時間がかかるそうです。

・数千人規模で実施する第三相試験を経なければ、ワクチンの副反応を十分に確かめられないそうです。
ワクチンの副反応によって重篤な状態になった人が出た場合には反ワクチン運動などが起こり、世に出回らなくなる可能性などが考えられるそうです。

・様々なワクチンの種類が紹介され、最後に人工抗体がゲームチェンジャーになるのではないかと述べられていました。

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