【免疫力を強くする 最新科学が語るワクチンと免疫のしくみ】
宮坂 昌之 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065181771/
○この本を一言で表すと?
免疫のしくみとワクチンのしくみについて詳細に解説された本
○よかったところ、気になったところ
・まず人体の感染症を防ぐ仕組みの説明から、ワクチンの仕組み、ワクチンに関する言説について、ワクチンの現状と問題点、免疫記憶の仕組み、がん免疫療法、最新のワクチン研究が説明され、最後に「免疫力を強くする」ことについて書かれていました。
・反ワクチン論者の近藤誠氏とその著作「ワクチン副作用の恐怖」の内容に対しての批判がかなりの頻度で出てきました。
事実と相違する内容が多く、接種すべきワクチンまで忌避させるような内容で許せないそうです。
・個別の感染症に関する記述や、免疫反応についての記述などが盛りだくさんで情報量の多い本だと思いました。
第1章 病原体の侵入・拡散を防ぐからだのしくみ
・自然免疫と獲得免疫の二段構えの防御機構があり、双方の総和で免疫の強さは決まり、病原体の強さより免疫の強さが勝れば感染症は起こらない、ということになるそうです。
獲得免疫は初めての病原体が相手だと抗体を作るのに時間がかかり、一度交代ができると二度目は迅速に対応できるために感染症を防ぐことができる「二度なしの原理」で守っているそうです。
・主な病原体は細菌、真菌、ウイルスに分かれるそうです。真菌はカビ等によるもので、核膜のない細菌に対して真菌は核膜を有するという違いがあるそうです。
細菌・真菌とウイルスに対する免疫反応は少し違っていて、細菌・真菌が侵入してきたときは細胞外でマクロファージが細菌・真菌を食べて撃退し、樹状細胞やリンパ球に知らせて獲得免疫機構が働くようになる、という順序だそうです。
ウイルスが侵入してきたときは細胞に侵入されてからⅠ型インターフェロンが作られて、樹状細胞やマクロファージが活性化され、それからリンパ球に知らせて獲得免疫機構が働くようになる、という順序だそうです。
・病原体の感染先は、感染先のウイルス受容体、細菌の細胞膜上のリン脂質と結合する鍵穴、毒素が結合する鍵穴等が病原体と合う場所で、合わない場所には感染しないために特定箇所・特定部位にのみ感染するそうです。
・マスク、手洗い、うがいの有効性について検討されていました。
マスクは防ぐ意味ではかなり有効性が低く、うがいは諸説あるものの、軽い感染症なら予防効果はあるもののインフルエンザ等の疾患では予防効果はないのではと述べられていました。
手洗いについては感染のリスクを2割減少する程度だと述べられていました。
・人間の体には1000兆個もの細菌が棲みついていて、常在細菌叢を形成し、この常在細菌叢が体の表面や内腔を防護していて病原体から守られているそうです。
そのため、病気で抗菌薬を投与すると常在細菌叢を乱すことに繋がり、感染症が悪化することもあるそうです。
第2章 ワクチンとはなにか
・ワクチンの仕組み、初期の状況について書かれていました。
「vaccine」は牛由来という意味で、ジェンナーの牛痘から来ているそうです。
ジェンナーの牛痘を自分の息子に接種した話が有名らしいですが、実際には使用人の息子に接種していた話があり、著者も事実を知って驚いたことが書かれていて面白かったです。
また、ジェンナーの牛痘に関する論文が科学専門誌で不採択にされ、自費出版してメジャーになったという話も驚きでした。
・インフルエンザ菌がインフルエンザ感染症と関係ない話は興味深かったです。
19世紀のインフルエンザ大流行で原因菌と報告されてこの名前がついたものの、違うことが分かったそうです。
インフルエンザとは別のヒブ感染症を引き起こすのだそうです。
・ワクチンの種類について書かれていました。
病原体を弱らせた生ワクチン、病原体の感染能力を失わせた不活性ワクチン、病原体の毒性を除去したトキソイドなどがあり、それぞれメリット・デメリットがあるそうです。
・ワクチンの注射は日本では皮下注射が主ですが、海外では筋肉注射が主だそうです。
注射の痛さは場所よりワクチンの種類によるそうで、インフルエンザはあまり痛くなく、ヒブや子宮頸がんはかなり痛いそうです。
・ワクチンの開発期間について書かれていました。
ワクチンを開発し、市場に出るまでには通常10~15年かかるのだそうです。
基礎研究から動物による前臨床試験を終えた後、第一相から第三相の臨床試験を経て承認申請し、生産体制を整えて検査を受け出荷するまでのプロセスでそれぞれかなりの時間がかかるそうです。
第3章 ワクチンを摂取する前に知っておきたいこと
・ワクチンには定期接種と任意接種があり、定期接種は予防接種法により接種対象や回数が定められたもので自治体により全部または一部が負担されるもので、任意接種は定期接種以外のものだそうです。
・複数のワクチンを同時接種することは危険と日本ではよく言われるそうですが、海外では普通に行われていて特に危険というデータもないそうです。
「リンパ球が同時に働くため混乱する」という言説があるそうですが、リンパ球はそれぞれ1種類の病原体にしか反応しないため、ほとんど考えられないそうです。
・「ワクチン有効率」の定義がよく間違われるそうですが、「(1-接種者罹患率)÷非接種者罹患率」で、「非接種だった人がもし接種していたら罹患していなかった確率」を表すのだそうです。
・ワクチンの効果持続期間は種類によって大きく違っていて、数十年続くものもあれば、百日咳のように3年以内、インフルエンザのように4ヶ月以内と短期のものもあるそうです。
・集団免疫の仕組みが解説されていました。
集団免疫閾値は「(1-1÷基本再生産数)」で、基本再生産数は「1人の感染者が免疫のない人のうち何人に感染させるか」だそうです。
疾患によって算出される集団免疫閾値を超える免疫保有者がいれば、感染収束とみなせるそうです。
・ワクチンの副反応と有害事象の違いについて書かれていました。
ワクチンが直接引き起こす反応が副反応で、ワクチン接種後に起こった好ましくない事象を有害事象と呼ぶのだそうです。
安全と言われるワクチンでも極稀に重い副反応を引き起こすことがあり、ワクチンの特性として健康な人に接種させることから少数であっても健康被害があると社会的に大きな影響を与えるそうです。
ただ、「ワクチン接種より自然感染のほうがいい」というよく出回る言説については、通常自然感染の方がワクチンの副反応より圧倒的に被害が大きいことが多く、殆どの場合が暴論だそうです。
・ワクチンによる副反応・有害事象があった場合の補償は、定期接種は国家により、任意接種はPMDA(医薬品医療機器総合機構)により行われるそうですが、認定の基準が厳しすぎてほとんど認められないそうです。
第4章 感染症別―ワクチンの現状と問題点
・主要なワクチンの現状と問題点についてそれぞれ解説されていました。
インフルエンザ
・インフルエンザと風邪は同じようなもの、症状の強さの違いだけと思われがちだそうですが、症状や合併症等も大きく異なっているそうです。
・季節型インフルエンザと新型インフルエンザの違いについて書かれていました。
季節型インフルエンザは抗原ドリフト(小さな変異、表面抗原の型は変わらない)で、毎回少し異なることが多く、既存の免疫がある程度効いて、ワクチンも既存のものの組み合わせでできるそうです。
新型インフルエンザは抗原シフト(大きな変異、表面抗原の型も変わる)で、既存のものと大きく異なっていて、ほとんどの人に免疫がなく、パンデミックに至る可能性もあるものだそうです。
・インフルエンザワクチンはその有効性が他のワクチンと比較して低く、年齢が高くなるにつれ更に低くなり、高齢者では20%程度だそうです。
ただ、高齢者への接種は死亡率を半減させるというデータがあるそうで、接種する意味はあるそうです。
・抗インフルエンザ剤は高価な上に副作用が強く、よほどの症状でない限りは不要だそうです。
インフルエンザ感染かもしれないと思って病院に行くと、病院に感染者が多数いるので病院で感染することも多く、水分をとってよく休むほうがいいそうです。
子宮頸がん(ヒトパピローマウイルス感染症)
・子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウイルス)が原因だと明確に分かっているそうです。
HPVに感染していても9割は症状が出ないものの、一部の人はウイルスを持ち続ける持続感染という状態になるそうです。
2000年代に東京都内の25~44歳の女性の感染状況を調べたところ、25~30%はHPV陽性だったという結果になり、かなりの人が症状が出ていなくても感染していると考えられるそうです。
子宮頸がんは発症すると3割が命を落とすという危険性があるそうです。
・HPVはおとなしくて増殖が遅いために免疫反応の対象とならないことがあり、宿主細胞に感染後にインターフェロンの産生や活動を抑制するため、免疫機構を回避するそうです。
・HPVワクチンは既に感染してしまった人には効果がなく、若年層に接種させる必要があるそうです。
ただHPVの副反応・有害事象が大きく取り上げられ、定期接種の対象から外されてしまったことでワクチンの接種が著しく下がっているそうです。
子宮頸がんにより毎年約3,000名がなくなっているため、著者は定期接種をすべきだと考えているそうです。
麻しん(はしか)
・麻しんは日本では毎年数百名程度が感染しているそうで、重症化することが多く危険な感染症だそうです。
世界全体では麻しんにより10万人以上亡くなっているそうです。
ワクチン接種で強い免疫を得られるものの、一部「日本では麻しんのワクチン接種はもう不要だ」という言説があり、ただ日本では麻しんの免疫を持たない人もかなりいるため、著者は絶対に定期接種が必要なワクチンだと考えているそうです。
風しん(三日はしか)
・風しんは妊婦が感染すると胎児が「先天性風しん症候群」になる可能性が高く、一時期ワクチンの接種が行われていない可能性のある世代も存在し、2012~2013年には日本でも大流行したそうです。
2回の接種で95%の人が免疫を獲得できるそうです。
水痘(水ぼうそう)
・水痘は帯状疱疹と同じヒトヘルペスウイルス3による症状で、空気感染する感染力の強い感染症だそうです。
病気が治っても体から追い出されずに神経細胞に入り込んで潜伏するため、体の免疫力が落ちると再活性化して帯状疱疹を引き起こすそうです。
日本人は約9割がこのウイルスを持っているので、50歳ころから帯状疱疹になる人が増え始め、80歳までに3人に1人が帯状疱疹になるそうです。
2016年から帯状疱疹予防の目的で50歳以上の人がワクチンを接種できるようになったそうです。
百日咳・ジフテリア・破傷風・ポリオ
・百日咳・ジフテリア・破傷風・ポリオは四種混合またはポリオ抜きの三種混合でワクチン接種されることが多いそうです。
・百日咳は百日咳菌という細菌によって感染し、感染力が強く、1950年代は日本でも約1万人の死者が出たそうです。
百日咳ワクチンの出現で死者は激減したものの、今でも年間3,000人ほどは罹患しているそうです。
・ジフテリアはジフテリア菌という細菌によって感染し、第二次世界大戦直後には日本でも約1万人の死者が出たそうです。
その後死亡者数は激減し、1999年を最後に日本での感染事例はないそうです。ただ、海外ではジフテリアの発生が見られ、ロシア、スペイン、ブラジル、ハイチ、ドミニカ、ベネズエラなどで患者発生した実績があり、また日本で発生する可能性も考えられるそうです。
・破傷風は土壌中の破傷風菌によって感染し、体内に入った破傷風菌が毒素を放出し、重篤な症状になると約3割の人が命を落とすそうです。
日本では毎年100人程度が感染して数人が命を落としているそうです。
・ポリオはヒトのみに感染するポリオウイルスによって感染し、小児マヒ等の麻痺症状を引き起こすそうです。
日本では1960年に大流行があって約6,500名の患者が出たもののその翌年以降ポリオ生ワクチンが普及して激減し、1981年以降は野生型ウイルス(自然界のウイルス)による患者はいなくなったそうです。
ただ、生ワクチンだったために免疫が弱っているヒトにポリオの症状が出たことがあり、不活性ワクチンに置き換わったそうです。
今でも中東やアフリカ等でポリオ感染が見られ、日本にまた入ってくる可能性はあるようです。
おたふく風邪
・おたふく風邪はムンプスウイルスによって起こる病気で、小児によく見られる病気だそうですが、1,000人に1人以上でムンプス難聴が起こり、この難聴は治りにくい病気だそうです。
おたふく風邪のワクチンは数万人に1人が無菌性髄膜炎になることがあるそうで、任意接種だそうですが、おたふく風邪を発症すると1~10%の割合で無菌性髄膜炎を発症するそうで、ワクチンを接種したほうがよく、著者は定期接種に組み入れられるべきだと考えているそうです。
B型肝炎
・B型肝炎はHBV(B型肝炎ウイルス)の感染によって起こる病気で、急性肝炎と慢性肝炎があるそうです。
慢性肝炎は持続感染している人が発病するケースのようですが、日本では2002年で100万人程度の感染者がいて、2016年からワクチンが定期接種になったので改善したそうです。
世界では約20億人の感染者、3.5億人の持続感染者がいて、日本で減少しても海外との往来でまた流行する可能性があるそうです。
ヒブ感染症
・ヒブ感染症はインフルエンザ菌のb型(ヒブ)の感染によって起こる病気で、こどもに感染することが多く、髄膜炎を発症することが多いそうです。
アメリカではヒブワクチン導入で1980年代後半から10年間でこどもの感染症の頻度が100分の1になったそうです。
日本では2013年から定期接種の対象となり、毎年1,000人くらいが細菌性髄膜炎にかかっていたところから今ではほぼゼロになっているそうです。
肺炎球菌による肺炎
・肺炎球菌(肺炎連鎖球菌)による感染症は乳幼児や高齢者に多いそうですが、乳幼児の半数、成人では10%程度で症状を起こさずに上気道粘膜に定着しているそうです。
細菌の外側に莢膜という厚い膜を持っていて自然免疫から逃れているそうです。
・肺炎球菌による敗血症は発症すると乳幼児で15~20%、高齢者だと30~40%が死亡するそうですが、肺炎球菌が93種類存在するのに対し、ワクチンは23価のワクチン(23種類に対応)と13価のワクチン(13種類に対応)の2種類しかなく、耐性菌が増加しているそうです。
・肺炎球菌の23価のワクチンは乳幼児にはほとんど効果がないため、13価のワクチンが定期接種の対象になっているそうで、5年程度しか効果が続かないものの、肺炎球菌由来の髄膜炎や敗血症はかなり防げているそうです。
高齢者に対してはあまり効果が見られず、23価・13価の両方のワクチンが定期接種の対象となっているものの、その費用対効果から再検討した方がいいかもしれないと著者は考えているそうです。
ロタウイルス感染症
・ロタウイルス感染症は乳幼児に急性胃腸炎を起こし、ほぼ5歳までに世界中のすべてのこどもがこのウイルスによる急性胃腸炎を経験する、というほど頻度の高いものだそうです。
ロタウイルスは何種類かあるものの、交差免疫を示すため一度感染すると他の種類の感染にも免疫ができるそうですが、弱くて持続時間も短いそうです。
・ロタウイルスに効く抗ウイルス剤はまだ存在せず、根本治療ができないため、水分補給や点滴等の対症療法が中心になるそうです。
・ロタウイルスワクチンは感染の症状がひどくなることを防ぐ効果があり、2020年10月から定期接種に含まれることになったそうです。
このワクチン投与で小児が発症するⅠ型糖尿病の発症が減少した、という思わぬ効果も出ているそうです。
ただ、ロタウイルスワクチンは数万回に1回程度の割合で腸重積を発症することがあるそうで、リスクと成果の検討が必要なように思いました。
結核
・結核は結核菌の感染によって起こる病気で、9割は肺結核として、1割は肺以外の臓器で病巣を作るそうです。
日本では既に過去のものであるかのように語られることがありますが、日本でも2018年時点で約17,000人の結核発病者がいて、世界では毎年約1,000万人が発症しているようです。
・結核菌は非常に感染力が強く、世界総人口の4分の1が既に感染しているものの、生涯で発症する可能性が5~15%くらいだそうです。
・日本ではBCG接種でかなり効果が出ていますが、BCGはなぜか赤道付近では効果を発揮しないそうで、理由はまだわかっていないそうです。
日本脳炎
・日本脳炎は日本脳炎ウイルスによって起こる病気で、日本では水田や池に発生する蚊(コガタアカイエカ)がブタから人に媒介し、人から人には媒介しないそうです。
大部分の人は感染しても無症状で、日本脳炎を発病するのは100~1,000人に1人だそうです。
・広範なワクチン接種で発症する人は年間10人以下になっているそうですが、2018年7月時点の調査で、東日本のブタでは抗体陽性がほとんどゼロだったものの、西日本では調べたブタの80~100%が陽性だったそうです。
第5章 免疫記憶とはなにか?
・免疫機構のしくみが詳しく解説されていました。
・自然免疫系の細胞は細胞表面や細胞質内等のさまざまな場所に異物センサーを持ち、パターン認識で大まかに識別しているそうです。
獲得免疫系細胞は抗原レセプター(Tリンパ球はTCR、Bリンパ球はBCR)を細胞表面に持ち、細かいところまで識別して特定の抗原にのみ識別しているそうです。
・自然免疫系の異物センサーが識別する対象は病原体特有のPAMP(病原体関連分子パターン)と細胞囲われた時に放出される物質のDAMP(傷害関連分子パターン)の2種類だそうです。
・獲得免疫系の細胞は初めて抗原に反応した場合には時間をかけて対応し、また細胞が一定するに達するまでも時間がかかりますが、抗原に出会ったことを記憶しているメモリー・リンパ球は対象の抗原に出会うとあっという間に増殖してBリンパ球では抗体を大量生産するそうです。
・Tリンパ球では抗原提示を受けなければ反応せず、この抗原提示をするものがMHC(ヒトの場合はHLAとも呼ばれる)で、MHCのクラスⅠ分子は体中のすべての細胞にありヘルパーTリンパ球に提示し、クラスⅡ分子は樹状細胞が主体となる抗原提示細胞に発現してキラーTリンパ球に提示しているそうです。
このMHCにより提示された抗原とTリンパ球の抗原レセプターが一致し、その上でヘルパーTリンパ球だとCD4、キラーTリンパ球だとCD8に結合し、そこまで結合したあとでTリンパ球が活性化して免疫反応が始まるそうです。
第6章 がん免疫療法は「不治の病」を克服できるのか?
・正常な状態でも人間の体では変異細胞が生まれているものの、免疫系でがんになるのを防いでいるそうです。
この免疫系を活用する治療法についていくつか紹介されていました。
・Tリンパ球は抗原の提示とCD28という補助刺激分子に刺激を受けることで活動するそうですが、Tリンパ球にはCTLA-4、PD-1という免疫を弱めるシグナルを伝える補助刺激分子(免疫チェックポイント分子とも呼ばれる)があり、がんは免疫チェックポイント分子に作用して免疫を抑制することがあるそうです。
・免疫チェックポイント療法では免疫チェックポイント分子をブロックしてがんが免疫を抑制する作用を発現させないことで免疫を働かせるそうです。
・がんワクチンを投入しても、投入されたヒトのMHC分子が抗原を認識できなければ免疫を認識できないそうです。
がん細胞は元々の細胞にない抗原(ネオ抗原と呼ばれる)があるため、このネオ抗原に作用するワクチンを投入するという治療法が確立されていっているらしいです。
・患者のTリンパ球、樹状細胞、NKT細胞(ナチュラルキラー細胞とTリンパ球の両方の働きを併せ持つ細胞でごく少数しか人体に存在しない細胞)などを取り出してネオ抗原で刺激したあとで体に戻す治療法、人工的に作成したキメラ抗原レセプターを導入したT細胞を体内に戻すCAR-T療法など、さまざまな治療法が確立されていっているそうです。
・「免疫増強食品」について、その効果は微妙だそうです。
β-グルカンが免疫力をアップさせるとよく言われているそうですが、根拠論文を見るとマウス実験のみで、しかも大量に投与した結果だったりするそうです。
第7章 「夢の新型ワクチン」研究の最前線
・DNAワクチンやRNAワクチンが実用可能なレベルになれば、安価で効果の高いワクチンができるそうです。
・まだ効果を検証しているレベルですが、高血圧やアルツハイマー病の原因に対してそれを抑制する研究が進んでいるそうです。
・花粉症の原因となる自己免疫系細胞のマスト細胞の表面にあるIgE抗体の産生を抑える試みが始まっていて、アメリカでも日本でも臨床試験に入っているそうです。
・注射針を必要としないワクチンが既に実用化されているそうです。
医療従事者が注射針を自分に挿してしまう針刺し事故が結構な数で発生していて他者からの感染のリスクがあるそうですが、そのリスクがなくなるそうです。
ワクチンの液を高圧・高速で発射して薬液が筋肉内に到達するしくみで、痛みは注射針より軽いらしいですが、注射後の腫れや痛みなどは若干大きくなるかもしれないそうです。
第8章 「免疫力を強くする」のウソ・ホント
・免疫力をアップする、という商品はほとんどが眉唾ものだそうです。
効果が出ているのもプラセボ効果がほとんどではないかとのことです。
・そもそも免疫は自然免疫系、獲得免疫系やその他の要因が複雑に絡んで働いているため、「免疫力」として測定するのは困難で、あまり意味がないと述べられていました。
・免疫力を増強することは可能だそうです。
ワクチン接種は間違いなく免疫力を上げる方法だそうです。
ただ、ワクチンは特定の病原体に限定して免疫力を上げるもので、総合的な免疫力を上げるワクチンはまだ存在しないそうです。
・血流やリンパ流がよくなれば体全体の防衛力が上がるそうです。
ストレスのない形で血流やリンパ流を良くすることが望ましく、ウォーキングやストレッチ等の負担をかけない運動が勧められていました。
また食事はバランス良く、ゆっくり摂るべきで、急いで食事してすぐ寝る等は身体の老化が進み、よくないそうです。
・ストレスが免疫力を落とす要因であることは研究でも明らかになっているそうです。
・免疫力は高ければ高いほどよいというものではなく、免疫が慢性炎症を引き起こすこともあるため、ほどほどに働く程度なのがいいそうです。
○つっこみどころ
・主題が「免疫力を強くする」、副題が「最新科学が語るワクチンと免疫のしくみ」ですが、免疫力を強くするという話はごく一部で、ほとんどがワクチンと免疫のしくみの話だったので主題と副題が逆の方がよかったのではと思いました。
他のレーベルの新書ならわかりませんが、ブルーバックスならその方が売れそうに思いました。