【脳には妙なクセがある】レポート

【脳には妙なクセがある】
池谷 裕二 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4594065252/

○この本を一言で表すと?

 脳に関する最新の知見を身近な話を例にして解説した科学エッセイ

○よかった点

・小難しい話がほとんどなく、脳がどういうときにどう反応するのかを楽しく読めました。

・歳をとって「脳が老化した」と錯覚するのは実は体力が低下して集中力が低くなっているというのは納得できる気がします。
自分が歳をとっても体を鍛えていれば集中力を維持でき、「脳が老化した」ようには感じないというのは朗報だと思いました。(P.25~27)

・幸せな気分に浸っている時に安易に物事を判断する傾向があるというのはとても納得できます。
高額商品を勧誘などではこれを利用したテクニックが使われているように思います。(P.42,43)

・私は薬指より人差し指が短いですが、それが株のトレーダーに適性があるというのは面白いなと思いました(実際には一度FXでお金をスッています)。
人差し指が短いのは誕生前にテストステロンを多く浴びた証拠なのだそうで、そういう人は自信に満ちたタイプ、危険を好む、粘り強く調査する、注意深くなる、反応や動作が早くなるなどの傾向があるそうですが、イマイチ自分には当てはまらない気がします。(P.52~55)

・テストステロンとオキシトシンの話は人類発生から現代に至るまでの危機とそれを乗り越えてきた話を書いた「ヒューマン」という本でも出てきました。
テストステロンは闘争本能を生み出し、オキシトシンは平和を望む感情を生み出すそうです。(第4章)

・後知恵バイアスはどの国でも見られるようで、「やっぱり」という言葉はいろんな言語で存在するそうです。
避けようとしても避けることは難しいそうなので、そういう傾向があることを自覚しておかないといけないなと思います。(P.64~66)

・「所持効果(所有することにより、そのモノへの主観的な価値が高まる心理的傾向)」は、いろいろなところで実例を見かけます。
高額商品を購入してしまった人や、マルチにハマってたくさん商品を購入してしまった人の自己弁護の元はこれだったのだなと思いました。(P.66~68)

・脳の自己満足効果は確かにあるなと思いました。
差があるものに対しては選択後も価値は変わらないが、同じくらい価値のあるものから選んだ場合にそれ以外のものの価値を低く感じるようになるとは、うまくできた仕組みだなと思いました。(P.82~84)

・左側が好ましく感じる「シュードネグレクト効果」の話はなるほどなと思いました。
P.93ページの「左半分が微笑んでいて右半分が悲しんでいる表情」と「右半分が微笑んでいて左半分が悲しんでいる表情」では前者の方がより微笑んでいるように見えました。(P.92~95)

・恋愛で脳の処理能力が上がるという話は面白いなと思いました。
恋人の名前などをサブリミナル表示されると統計的に有意な差で処理能力が上がったそうです。(P.96~99)

・母親の経験が子供に遺伝する「エピジェネティクス」という考え方があることを初めて知りました。
まだネズミなどでしか検証されていないそうですが、母親の環境がよく、能力が高められた場合にはその子供も能力が高くなるというのはとても興味深いなと思います。(ちなみに父親は関係ないそうです。)(P.99~102)

・人間は映像で説明されると受けいれやすい「ニューロレアリズム」という癖があるそうです。
プレゼンなどで映像を含めると説得力が向上しそうで、よく使われそうだなと思いました。(P.109~112)

・笑顔を作るから楽しいと感じるという心理効果の話は別の本で読んだことがありますが、そこでは異説扱いだと解説されていました。
顔の表情が動き、それから脳が反応するという流れが検証されているのは興味深いなと思いました。(P.128~137)

・五感のうち嗅覚だけは視床を通らずに直接大脳に届くという話は面白いなと思いました。
アロマテラピーやコーヒーの効果、寝ている間にバラの香りを嗅ぐと記憶力がアップするなど、かなり実用的な話だと思いました。(P.152~158,285,286)

・入力より出力の方が脳に記憶が定着するというのは「書いて覚える」ことと繋がっていて脳の仕組み的にも正しかったのだなと思いました。(P.160~163)

・赤色が士気を奪う色という話は面白いなと思いました。
赤色は心理的に回避的な傾向を生み、警戒心を高め、青色は積極的で好戦的な傾向に促すそうです。
イメージ的には赤が興奮、青が冷静ですが、逆なのが面白いなと思いました。
温かいコーヒーを持たされた人と冷たいコーヒーを持たされた人で前者の人を温かい人だという印象を受けるという実験は面白いなと思いました。
いろいろな国で心が「温かい」「冷たい」という表現が存在するというのも納得です。(P.168~174)

・言語自体にその発音があるかどうかで聞き取れるかどうかが変わるというのは興味深いなと思いました。(日本人の「L」と「R」、韓国人の「Z」と「J」)(P.176~178)

・音程感覚と空間処理能力は関連しているそうです。
私は音程感覚はそれほど悪くないと思っていますが、空間処理能力はイマイチですが、そういう傾向があるだけで例外ももちろんあるということでしょうか。(P.179~183)

・アメリカで20歳以前まで高かった幸福感が20代で一気に落ち込み、40代から50台で最低になってそれから85歳まで徐々に上昇する、という話は面白いなと思いました。
加齢に従って「ネガティブバイアス」が弱まっていくそうです。
年寄りが楽観的な儲け話でお金を失うのもこの当たりが原因かなと思いました。(P.184~189)

・妊娠中に飲酒した場合に子供がアルコール中毒になりやすいという話が実験で確かめられているのは興味深かったです。
ネズミでの実験ですが、アルコールの嗜好度が高まるのではなく、アルコールへの忌避度が低まるという結果になったそうです。
人間の「好み」も無意識に形成される部分が大きいことが提唱されているそうです。(P.195~198)

・脳自体を鍛えるより、脳へ栄養を送る胃腸を鍛えることで脳の力を鍛えることになるそうです。(P.203~207)

・ちょこちょこ耳にする「不安を書き出すことで解消する」という手法が実験で検証されているのは面白いなと思いました。(P.218~219)

・DNAで調べた血統によると白色人種と黄色人種はネアンデルタール人の要素が1%ほどあるそうです。
黒色人種だけはネアンデルタール人の要素がないとか。(P.222~226)

・「FOXP2」という遺伝子の二ヵ所の変異が人間に創造的能力をもたらしたそうです。
これをマウスに組み込むという実験が行われ、マウスの脳が変化することが確認されたそうです。(P.227~229)

・言語が思考ツールであり、その言語に単語が存在するかどうかで認識自体も左右されるという話はなるほどと思いました(ロシア語では「明るい青」と「暗い青」という単語があり両者を素早く識別できる、など)。
新しい単語が導入されることで社会観や生活感そのものが変化していくというのも分かる気がします。(P.229~231)

・ユーモアやジョークを楽しむ動物は人間だけ、そのユーモアも文化的な産物というのはその通りだなと思いました(P.237のイギリスの世界で最も面白いジョーク1位は私もイマイチだなと思いました。)。
その面白さを感じる脳の部位が人によって異なるというのは不思議な気がしました。(P.233~237)

・人間の直感が働かないケースとして目の錯覚と数値の見積もりが挙げられていましたが、後者は特にそうだなと思いました。(P.244~249)

・人間は自分の意志でほとんど動いておらず、行動や活動パターンは環境や刺激、普段の習慣に左右されるという話はなるほどなと思いました。
「こちらにしよう」と「決める」より前に脳が反応しているという、自由意志の否定の話も理屈では納得できる話です。
意識している自分がほとんど自分の行動を管理できていないという話は怖いなと思いましたが、著者の「経験により反射力を鍛える」という姿勢はさっぱりしていていいなと思いました。
「7つの習慣」などの自己啓発本では自分の自由意志の大事さを述べるものが多く、私もそうだと思っていますが、自分で意思決定できる部分がほとんどないのであれば、そのわずかながらの意思決定できる部分に集中すればいいのだなと思います。(P.250~)

・朝早く起きて勉強するより夜遅くまで勉強する方ですが、寝る前に学習したことの定着率が高いということで自分のやり方が肯定されたような気がしました。(P.277~280)

・「集中する」ということが動物にとって不自然なことという話はなるほどと思いました(シマウマが食べることに集中したら肉食獣の餌食、など)。
仏教僧は瞑想で素人では出せないガンマ波を出せるそうです。(P.302~304)

・計算する能力は眼球を左右に動かす運動がもとになっているなど、運動に関する能力から脳の複雑な能力に繋がっているという話は面白いなと思いました。
P.317の「身体感覚⇒脳⇒身体運動⇒フィードバック⇒身体感覚・・・」から脳の内輪ループになった図も分かりやすいなと思いました。
「眠いから寝る」ではなく「寝る体制になったから寝る」だという話も、グータラしている自分がしょっちゅう寝ていることが想起され、大いに納得しました。(P.310~)

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