【植物はなぜ薬を作るのか】レポート

【植物はなぜ薬を作るのか】
斉藤 和季 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4166611194/

○この本を一言で表すと?

 植物が作る成分の植物にとっての意味と人間にとっての意味について説明した本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・植物の成分が人間にとっての薬になる、ということが不思議に思えていたことがあったので、それに対する回答を得られてよかったなと思いました。
植物にとって自身の生存戦略として備えた機能であるものの一部が、たまたま人間にとっても有用で植物にとっての有用さと関係ないところで有用だったりするのは納得できるなと思いました。

・化学式や図が豊富に掲載されていて、内容が分かりやすくなるように工夫されていてよかったです。

第一章 植物から作る薬

・薬の発見は偶然による、ということが書かれていましたが、偶然の発見の蓄積で、生薬・漢方などが今に至って使われているのは納得できるなと思いました。

・後漢の時代、今から1800年以上前に著された「神王本草経」が現在の漢方でも参考にされる文献となっているのは興味深いなと思いました。
この「神王本草経」の基になっている知識の蓄積はどうなっているのかも興味があります。

第二章 薬になった植物成分

・植物成分と人間の体内で生産されている成分の類似点が化学式で説明されていて分かりやすかったです。

・カフェインにも中毒性があるという話は、ないという話を含めて何度も聞いたことがありましたが、実際には存在し、2015年にカフェイン入り清涼飲料水を飲み過ぎて死亡したケースで初めてカフェイン中毒死の事例となったことなど、日頃からカフェインに頼っている身としては気を付けないといけないなと思いました。

第三章 植物はなぜ薬を作るのか?

・植物としては人間の役に立とうとして植物成分を備えているわけではないことが初めに説明されていました。

・植物は動けないからこそ、多様な対応策を予め備えておかないといけないということは、別の生物学についての本で、人間よりも植物の遺伝子の方がかなり情報量が多いという話で知っていましたが、生存のための植物成分生成能力を備えておくこともその一部なのだなと思いました。

第四章 植物はどのように薬になる物質を作るのか?

・植物が植物成分を作り出す経路が概ね4経路とその組み合わせの5種類だということが書かれていました。
個人的には植物成分の種類が膨大なので、もっと多様な仕組みで生み出されているものと思っていましたが、勉強になりました。

第五章 植物の二次代謝と進化のしくみ

・植物自体にとっても毒性のある物質を生成しながら、その植物自体がなぜその影響を受けないのかが書かれていました。
動物でも同じような話がありそうですが、隔離するパターンと、その物質の攻撃対象となる自身の成分を変化させるパターンなどがあるようです。

・トウガラシの辛み成分カプサイシンについて、鳥だけは平気な理由が記載されていました。
「トウガラシの世界史」の序盤に書かれていた内容と整合しているなと思いました。

第六章 バイオテクノロジーと植物成分

・科学系の本でよく出てくる言葉の末尾「オーム」と「オミクス」の違いと意味に触れていて勉強になりました。
「オーム」は全てという意味で、「オミクス」は網羅的研究という意味合いだそうです。
ゲノムとゲノミクスなど、科学系の本ではゲノムとゲノミクスのように似たような言葉が出てくるなと思っていましたが、新しい用語が出てきてもある程度意味合いを理解できそうだなと思いました。

・遺伝子研究が進み、特定の植物に依存していた成分を微生物など別のものから生成できるようにする研究が進んでいるそうで、実現していくと確かに世の中が変わりそうだと思いました。
中国で主に輸出されている甘草の例が出ていましたが、この技術で国際情勢にも影響が出そうだと思いました。

第七章 人類は植物とどのように相互共存していくべきか?

・植物成分のうち、研究できているものは1割にも満たず、その未研究の植物が気象の変化や人間の活動で絶滅する可能性があり、生物の多様性を維持することの重要性について、実利面からも触れているのが興味深かったです

○つっこみどころ

・コラムの数が多く、また挿入されている場所が本文の途中で内容が紛らわしく、コラムをまとめて掲載するか、本文の文章に混ぜて記載するかをしてくれた方が読みやすかったと思いました。

・第四章での「植物は自然を汚さない」という表現には違和感がありました。
ある植物が繁殖することで他の生物が絶滅することなどもあると思いますし、人為的に育てられた植物がそのようになるケースもあって、自然を汚す可能性が0ではなく、極端な表現だと思えました。

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