【チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石】レポート

【チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石】
武田 尚子 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/412102088X/

○この本を一言で表すと?

 チョコレートの伝来の歴史と社会とのかかわりについて書かれた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・どちらかといえば世界史と言うよりは経済史として、イギリスのチョコレート産業を軸に、その周辺も含めて現代に至るまでの企業や生産国の様子が俯瞰できる内容でよかったです。

・他の産物の世界史だと凄惨な歴史がクローズアップされることが多いですが、どちらかといえばポジティブな、生産者・労働者等に配慮されてきた歴史があることが意外だなと思いました。

序章 スイーツ・ロード 旅支度

・カカオが中南米原産であること、カカオ豆の品種は三種類の系統があり、最も味の良いクリオロ種は中米原産で病気に弱いため世界の生産量の1%程度しかなく、南米アマゾン川流域原産のフォラステロ種はポリフェノールが多いため苦みが強いが栽培が容易なため全生産量の85~90%を占め、クリオロ種とフォラステロ種を交配したトリニタリオ種は両方の良い点を備えた品種で全生産量の10~15%を占めているそうです。

・カカオの加工プロセスは、カカオ豆の胚乳部分(カカオニブ)を取りだし、焙炒してすりつぶしてカカオマスになり、圧搾してココアケーキとココアバターに分かれ、ココアケーキを粉末にするとココアになり、カカオマスにココアバター、砂糖、ミルクを混ぜ合わせて加工するとチョコレートになるのだそうです。

1章 カカオ・ロードの拡大

・アステカ王国ではカカオ豆が貨幣として使用されていたこと、すりつぶして苦い薬用の飲料として使用されていたこと、ヨーロッパのアメリカ侵攻後、砂糖とともに三角貿易の商品として取り扱われていったことが書かれていました。

2章 すてきな飲み物ココア

・ヨーロッパでも最初はココアが薬として位置付けられ、ココア用の食器が作られ、ココア職人が生まれるなど、文化的にも成熟していったことが書かれていました。

・コーヒー・ハウスでココアも扱われだし、ヴァン・ホーテンがココアの圧搾器を開発したことで工業化され、生産量が一気に増加したことが書かれていました。

3章 チョコレートの誕生

・イギリスのケースが挙げられ、重商主義体制において砂糖とともに取扱量が大幅に増加していったこと、自由主義体制になって関税が大幅に引き下げられたことで庶民にも流通し始めたことが書かれていました。

・固形のココアも食べられていたもののチョコレートには程遠く、カカオマスにココアバターを混ぜ、砂糖を加える方法をジョーゼフ・フライが考案したことでチョコレートが生まれたことが書かれていました。

・キャドバリー、ロウンタリーなど現在にもブランドとして残っているような企業の一家が良品質のココアを精製していったこと、スイスでミルクチョコレートが生まれ、同時期にベルギー地域でも様々な工夫を加えたチョコレートが生まれたことが書かれていました。

4章 イギリスのココア・ネットワーク

・キットカットを生み出したロウントリー家の話が詳しく書かれていました。
クエーカー教徒で小売業からスタートして、ココアの生産販売に進出し、当時はまだ珍しかった自動車で広告宣伝を打つなどしてメジャーになっていったことが書かれていました。

・クエーカー教徒は社会に尽くすことにも熱心なことから、奴隷廃止運動や成人教育、労働環境改善などを進めて成果を出していたというのは当時ではかなり先進的な取り組みだなと思いました。

5章 理想のチョコレート工場

・ロウントリー社がチョコレート工場を建設し、女性の雇用先として作業環境だけでなくイベントや学習の環境まで整えて、産業心理学にまで踏み込んでいたのはすごいなと思いました。

6章 戦争とチョコレート

・キャドバリー社、ロウントリー社の広告宣伝の対象が子供から女性、成人男性等に移り変わっていったこと、ロウントリー社のキットカットがチョコレートクリスプとしてどれだけ当時先進的な商品だったのか、その生産のための工夫と苦労について書かれていました。
当時から現在と似たような複層構造になっていて、それを量産品として実現していたのはすごいなと思いました。

・キットカットには赤色のパッケージと青色のパッケージがあることが口絵でもありましたが、青色のパッケージは戦時の正式ではないキットカットで、平和な時代になれば元に戻ること、平和を希求することが戦時の商品のテーマとされていたのは深いなと思いました。

7章 チョコレートのグローバル・ネットワーク

・戦後はチョコレートがグローバル製品として世界中で販売されるようになったこと、工業製品としての安価なチョコレートと、ベルギーチョコレートのような手作りの高級路線ブランドの二極化したパターンがはっきりしてきたことなどが書かれていました。

終章 スイーツと社会

・チョコレートはカカオが農業として生産され、輸出品として運ばれ、工場で製造されるという社会システムに組み込まれた、複数の利害関係者・プロセスが関わっているものだということが図で書かれていました。

○つっこみどころ

・クエーカー発のイギリスのチョコレート大手企業が倫理的な基準を持ち、生産国・製造国を含めて最初からフェアトレードが考えられていたような、ポジティブな面がクローズアップされていましたが、フェアトレードが今でも提唱されていること自体、現在は搾取されている生産地があるということの裏返しだと思います。
そういった面にはあまり触れられていなかったので、チョコレートの社会システムをこの本だけでは把握できないような気がしました。

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