【菊と刀: 日本文化の型】レポート

【菊と刀: 日本文化の型】
ルース ベネディクト (著), 越智 敏之 (翻訳), 越智 道雄 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4582767931/

○この本を一言で表すと?

  戦前に日本「人」について研究した結果をまとめた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・これまで、この本が取り扱っている時代の本を日本人視点のものも、外国人視点のものもいくつか読みましたが、そのどれとも異なる姿が描かれているように思いました。
著者が一度も日本に来たことがないのに、これだけのことを書けるというのはすごいなと思いました。
日本人自身には書けない日本の姿というのは「逝きし世の面影」という本でも書かれていましたが、どのように観察したかではなく、文献や資料からどのように分析したかで、他にない姿を導き出したというのはすごいなと思いました。
出版された時の日本人がこの本に対して過剰反応したというのも納得できたように思いました。

第一章 研究課題―日本

・根本的な価値観がアメリカとは異なる日本という国がどのような考え方でどのように行動するかが第二次世界大戦時に重要になり、ドイツやイタリアなどの共通点の多い国とは違って未知の存在だったこと、その日本をどのように分析しようとしたかが書かれていました。

第二章 戦時中の日本人

・日本人の精神論の極端な例(すでに死んでいるのに報告するまで倒れなかった士官など)がクローズアップされていて、またそれが日本人らしいと思えるのが面白いなと思いました。

・降伏が許されなかったために、捕虜になった時の振る舞いを知らなかったこと、「お上が変わっただけ」という感覚で積極的にアメリカ軍に協力したことなどは有名な話だなと思いました。

第三章 「各々其ノ所ヲ得」

・日本人の「各々其ノ所ヲ得」という感覚、其の立場にふさわしい振る舞いをするという性質から、日本ではフランス革命等のような大転換が起こらなかったというのは、現代日本ではもうわかりづらい感覚ですが、どこか理解できる感覚のようにも思えました。

第四章 明治維新

・明治維新という大きな変革を遂げた後でも、日本人の性質は変わらず、上意下達で動く社会がそのまま残ったというのは、「逝きし世の面影」に書かれていた論旨とは正反対だなと思いました。
ある面では大きく変わり、ある面では変わらないということで、見る視点によってどちらがよく見えるかということかなと思いました。

第五章 過去と世間への債務者第六章 万分の一の恩返し第七章 「義理ほどつらいものはない」第八章 汚名をすすぐ

・過去に受けた恩をすべて負債として重荷を背負って生きるというのは、現代日本ではかなり薄くなっているものの、感覚としては理解できる内容だなと思いました。

・「罪」の感覚だと韓国や中国では過去の罪を現代の人間も当たり前に背負うという感覚だと本で読んだことがありますが、その感覚とは違い、自身の重荷として捉えているところがあるなと思います。

・「恩」や「義務」と「義理」を明確に区分して、あるべき振る舞いをしたかどうか、世間や周りが自分をどうみるかによる「義理」が最も重いとしているのは、日本人自身でも言葉にしづらい感覚をうまく表現できているなと思いました。
その「義理」が日本人にとって命よりも重くなることがあり、それを果たすために命を捨てるということも客観的に考えるとおかしなようにも思えますが、「日本人的感覚」としてなんとなく納得できるようにも思えるところが興味深いなと思いました。

第九章 人情の領域

・一般に「人情」と聞いて考えることとは違い、快楽を躊躇なく受け入れて実行することや、家族と性を明確に切り分けていることなど、悲劇を好むことなど、どこか陰りのあるところも「日本的」といえるのかなとも思いました。

第十章 徳のディレンマ

・「徳」や人としての「原理原則」というと、どれも高めて矛盾のないもので適切という西洋の感覚と、日本の相克の関係にすらある「徳」の感覚の違いというのは改めて考えると興味深いなと思いました。

・現代では西洋的な「徳」の方が、自己啓発書などの影響もあって主流になっていて、全く理解できないわけではないものの、かなり当時とは変わっているのだなと思いました。

第十一章 修養

・「修養」や「自己研鑚」と言われることについての話でしたが、表現こそ「無になる」「死に体になって行う」などと西洋ではありえないものかもしれませんが、それほどずれていないようにも思えました。「禅」の思想など、西洋でも人気のある分野についての西洋人的理解というのが興味深かったです。

第十二章 子供は学ぶ

・日本人の子供が甘やかされている問いのは「逝きし世の面影」でも書かれていましたが、また違った視点で書かれていたように思いました。

・子供の頃の自由さと大人になるにつけて身に着けていく枷の話と、アメリカ人の大人になるに連れて枷を外している話の対比はかなり対照的で面白いなと思いました。

第十三章 降伏後の日本人

・これまで述べていた日本人論を占領後の日本に合わせてどうなっていくかを予測していました。

○つっこみどころ

・かなり極端で一面的な見方で日本人が表現されていました。
資料だけ集めて机上で検討していた割には的を射ているところもありましたが、かなり尖った極端な日本観で書かれているからか、その分析から見た降伏後の日本の予測はあまり的確ではなかったように思いました。
1946年に出版されたそうなので、それより後に書かれた本より後付の記述がないと考えるべきかもしれませんが。

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