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【文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)】 レポート

【文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)】
ジャレド・ダイアモンド (著), 楡井 浩一 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4794214650/

○この本を一言で表すと?

  人類が文明を崩壊させてきた歴史と現代の状況について述べた本

○面白かったこと・考えたこと

第9章

・存続した文明の特徴としてボトムアップ方式とトップダウン方式の両極であることを挙げ、前者の例を小規模なニューギニア高地とティコピア島、後者の例を大規模な江戸時代の日本としていました。
中規模の環境はどちらの方式も取れずに失敗してしまったとのことです。規模の大小は社会がどのように構築されるか(上下のない共同体社会、上下の身分が定められた社会など)に関係していると思いますが、崩壊を回避した大きな要因は、ブタが非効率な家畜として排除したティコピア島や森林の保護を指導した日本の幕府のリーダーシップであったように思いました。

第10章

・ルワンダの大量虐殺は単純にフツ族とツチ族の民族紛争だと思っていましたが、それだけでなくフツ族間の格差による紛争でもあったことを初めて知りました。
人口増大が食料生産増大を越えるマルサス的問題が、実際に実現したときに起こり得る凄惨な一つのケースが今から20年も遡らない時期に起こったというのは、これまでの過去の崩壊した文明との差異がそれほどないのではないかと考えさせられます。
フツ族のみが居住するカナマ・コミューンで調査をして所有する土地の広さ、副収入有無などによるフツ族の格差、相続対策としての寡婦に対する差別的扱い、親子・兄弟間の争いなどを明らかにしたベルギー人経済学者はすごいなと思いました。

第11章

・同じ島に存在するハイチとドミニカ共和国が支配国の違い(ハイチはフランス、ドミニカはスペイン)や民族構成の違い(ハイチは黒人奴隷中心、ドミニカはスペイン人中心)により分かれ、同じ島内(同じ環境)であったにも関わらず、ハイチでは環境破壊が進み、ドミニカでは冷酷な独裁者バラゲールによる環境保全がうまくいき、現在では2国の環境が大きく異なるということは、グリーンランドでのノルウェー人とイヌイットのように同環境でも異なる集団が異なる対応をすれば大きく分岐するということが証明されているように思いました。

・バラゲールの環境保全のために軍隊を動員して環境破壊をする者を制圧するやり方は圧制者の態を為していますが、それが結果として国家の繁栄に繋がっているわけで、簡単に善悪に分けられないなと思いました。
なお、参考文献で書かれていましたが、バラゲールは妹の影響で環境保全家になったそうです。人の人に与える影響は時として大きく歴史の流れを変えるなと思いました。

第12章

・中国の環境破壊の現状と大人口の中国人の生活の先進国化が脅威として書かれていました。
黄砂にみられる土壌侵食や空気汚染は世界的に見てもかなりのものだそうです。

・文明崩壊の要件にほとんど当てはまる書かれようですが、人口抑制政策をトップダウンで実施して成果を上げていることについては文明維持にプラスとして著者は評価しているようです。
国際情勢系の本では少子化による経済への影響がよく取り上げられていますが、視点によって評価も異なるのだなと思いました。

第13章

・オーストラリアが元々土壌等の点で貧困であったということを初めて知りました。
一部の都市と砂漠以外は農業や牧畜が盛んで農作物を大量に輸出しているイメージでしたが、農業に適した場所がアデレード近辺のみで他地域は地力がないために大量の肥料でカバーしていること、ほとんどの地域で牧畜に向いていないこと、イギリスからキツネやウサギが持ち込まれたせいで生態系が狂っていること、国際的な地理と国内の地勢から輸送費だけでもかなりかかってしまうことなど、「搾取されるオーストラリア」という章タイトルがまさに似合う状況が書かれていました。

第14章

・環境問題の予期、感知、対応のそれぞれの段階で破滅的な方向に流れてしまうことが書かれていました。
何が起こるかを予期できず(外来種の導入による環境変化、交易環境の変化等)、何かが起こっていても感知できず(土壌の塩性化、有毒物質の流出等)、適切な対応が取れず(企業利益追求、民族的価値観固持、対策ミス等)、と環境破壊に至る道を避けることの難しさを思わされます。
その中でピッグズ湾事件の失敗(反革命軍支援によるキューバ転覆失敗)の教訓からキューバ危機を乗り越えたケネディ大統領と顧問団の対応は人間が学び、対応できることを示唆していて少しだけ楽観的な気分になれました。

第15章

・石油、石炭、鉱業、林業、漁業の業界構造から当然のように発生するモラル・ハザードは企業利益と公共の利益が相反するなかでは解決しがたい問題だなと思いました。
この解決しがたい問題に対して、これらの業界の企業に直接アプローチするのではなく、小売業や関係団体にアプローチし、環境に貢献する活動が企業利益にも貢献する(または環境に貢献しない活動が企業損失に繋がる)状況を作り上げるという、ホームデポと林業の事例や、デュポンと鉱業の事例は興味深い事例だなと思いました。

・パプアニューギニアのクツブ油田やモンタナのプラチナ・パラジウム鉱山のように、企業利益と地元の利益が一致するような事例がより多ければいいですが、こういった環境に優しい技術という方面では日本が活躍できるのでは、とも思いました。

第16章

・十二の環境問題(自然の生息環境、野生の食糧源、生物の多様性、土壌、エネルギー、真水、光合成能力、毒性化合物、外来種、温室効果ガス、人口増加、ひとり当たり環境侵害量)は上巻のP.16~20で書かれていた環境を害していく過程の12の要因と微妙にずれているなと思いました。

・著者が長く暮らすロサンゼルス(ある程度安定している地域)でも環境問題はかなり発生しているという話は第1章のモンタナの環境問題ともリンクして、環境問題がないところはほとんどないということを思わせます。

・環境問題から目を背ける定説(「環境と経済の兼ね合いが肝心」「科学技術がわたしたちの問題を解決する」など)を一つひとつ論破しているのは面白いなと思いました。
どの定説も何となく納得してしまいそうですが、大して根拠はなく誤魔化しているところがあるところに気付かされました。

・過去と現在の相違と相似の話で、相違しているところは技術力の違いであり、その違いは環境を破壊する方向により強力に働くこと(石の鑿と人の筋力からブルドーザーや原子力などの技術)、昔は閉じた地域内で起こった文明の栄枯盛衰が今では世界中が一つの環境であること(アフガニスタン、ソマリアで起こったことがアメリカに影響)という話はより深刻な話として受け止めないといけないのだなと思いました。

・最後に書かれていた昔と今の相違点で良い方向の面である「過去の情報や他地域の情報から学ぶことができること」は確かに大きなプラスですし、その点をうまく活用できるように「賢く」ならなければいけないなと強く思いました。
「知ること」とそこから教訓を掴みとること、そして確度の高い行動を起こすこと、これはだれでも研鑽できることですし、自分も研鑽していこうと思いました。

参考文献

・巻末の参考文献を見て、著者の「他者の研究を理解し、それらを組み合わせて自分の考えを打ち出していく能力」の凄さを感じました。
歴史学、化学、生物学、社会学、環境学、民俗学などさまざまな分野を理解し、そこからさらに先に進めて考えることができるということは誰にでもできることではないと思いました。

○上下巻を読み終えて

著者の前作「銃・病原菌・鉄」とは全く異なった本だなと思いました。
前作は環境決定論寄りの考え方で歴史を掘り下げ、どの要因によってある集団が他の集団に勝利したかが書かれていた本でしたが、今作は環境を前提としながらも滅亡と存続を分ける意思決定が存在し、同環境でも勝敗が分かれ、過去の文明と現代の文明の共通点から、今まさに生きている私たちに対する将来の警鐘までが書かれた本でした。