【物語 京都の歴史―花の都の二千年】レポート

【物語 京都の歴史―花の都の二千年】
脇田 修 (著), 脇田 晴子 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121019288/

○この本を一言で表すと?

 平安時代以前から現代までの京都の通史の本

○面白いと思った点・考えた点

・日本史の通史の本は主要な舞台を中心に書かれているので、一都市の視点での通史というのは珍しいなと思いました。
平安時代前からの京都について書かれていて、京都への遷都の理由がある程度理解できたように思います。

第一章 京都の移り変わり

・各時期における京都の地理的概要や発展している地域(条坊単位)の解説、後半は栄枯盛衰の様子が簡潔に説明されていて通史を少ないページ数の中で一望出来て良かったです。

第二章 平安京以前の京都

・平安京以前の政治の中心地となる以前の京都の位置づけが書かれていました。
古墳群から見ると前方後方墳などの東方からの流入もあったようであること、奈良政権時代の初期・中期でも行政上の単位である県(あがた)が設定されていたこと、渡来人系の秦氏や高麗人が勢力を揮っていたこと、最初に京都で設営された長岡京が最初から失敗の方向が見えていたことなど、平安京に至るまでの歴史が整理されていました。

第三章 平安京・鎌倉時代の京都

・平安時代や鎌倉時代の京都の情勢がさらっと書かれた後で、京都各地の寺社の成立や謂れについて資料を基にして詳しく説明されていました。
観光に行く前にまた読み返したいと思いました。

第四章 南北朝・室町・戦国の京都

・南北朝、室町の京都の情勢とその移り変わりが丁寧に書かれていました。
足利義満の時代に金閣や相国寺、五山等さまざまな施設を築いているのはその興隆ぶりが伝わってくるなと思いました。

・政所の長官である執事に伊勢氏が世襲し、その伊勢氏の家宰の蜷川氏がまた権力を持ったという構造は、実務を握る者が勢力を持つ他の事例とも似ているなと思いました。
蜷川新衛門がアニメ「一休さん」に出てくる新右衛門さんだと知って面白かったです。

・在野の宗教として浄土宗・浄土真宗・時宗・法華宗などが勢力を増していき一向一揆や法華一揆に繋がるというのは、当時の権力者や一揆の当事者である宗派側も把握しないままにボトムアップのその流れに乗っていったのかなと思いました。

・鎌倉中期から京都で商品経済が始まり、刀剣や扇や織物が商品として生産され、国内外に流通しているというのは今の京都ともイメージが繋がるなと思いました。
扇が日本の発明だったというのは初めて知りました。

・徳政一揆や徳政令、そしてその対象外とする徳政免除など、権利関係が複雑になっているものの、それぞれの利害関係者の動きがそれぞれのインセンティブに基づいているように思えました。

第五章 近世の京都

・よく「安土・桃山時代」と言われますが、その桃山は明治になってから言われ始めたそうで、当時の名称ではないそうです。

・水が豊富であったため上水道は早く整備されながらも、下水道は水の流れが悪く、京都の地理的な高さの偏りを利用して流しているそうです。

・京都の遊郭が「島原」と呼ばれていたことは知っていましたが、「島原の乱」の様子に似ているから名付けられたというのは初めて知りました。

・西廻航路の開発などにより京都の経済的地位が下がってから「京都は始末でもって立つ」と言われるような経済状況になり、その中でも文化では主流として立ち続けているのは首都としての立ち位置によるプライドのようなものかなと思いました。

第六章 近代以降の京都

・明治になって宗教界の動揺と、教育界で宗教界由来の学校が多く出たというのはなかなか興味深いです。
宗教との関わりが特に大きい都市だからこその現象でしょうか。
その特徴的な京都が近代以降は主役の座を降りて他の地域と同じように軍隊を出し、特別扱いを受けていないことが印象的でした。

○つっこみどころ

・夫婦の共著で夫が書いた第一章の後半、第五、第六章と、妻が書いた第一章の前半と第二章~第四章で夫が経済や政治に、妻が文化や宗教に偏り過ぎていて若干記載のバランスが悪いなと思いました。

・第四章と第五章、特に豊臣秀吉に対する人物判断が端的に極端な批判をしていて違和感がありました。
明を攻める過程で朝鮮を攻めるというのは土地の報奨を与えることが必要な暫定的なトップとしてある程度は採らざるを得ない戦略の一つだったのではないでしょうか。
もしその方策を採っていなければ織田信長とおなじように有力な部下を潰していく方向に走っていたように思います。

・第三章では摂関政治から院政への移り変わりなどの結構メイントピックになりそうなところが節も作られずにさらっと書かれて飛ばされていました。
著者の研究対象でないところはあまり触れないようにしたのでしょうか。

・誰もが興味を持ちそうな幕末の京都の情勢にはあまり触れられていませんでした(数ページだけ)。
他の本でよく触れられているので敢えて書く必要がないと考えたのでしょうか。

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