【銀の世界史】レポート

【銀の世界史】
祝田 秀全 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480069127/

○この本を一言で表すと?

 銀の動きを軸に世界史を考えた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・銀以外のことも多く取り上げながら、銀が歴史の中で重要な要素であったことが述べられていて、銀を中心に考えられた世界史の本としてうまく結論付けられている本だなと思いました。

第一章 東西ヨーロッパの「棲み分け」

・インド航路を拓いたヴァスコ・ダ・ガマが商人ではなく騎士だったというのは他の本でも読んだことがありましたが、その騎士道的観点でかなり強圧的に各地を侵略していったということと結びついているのだなと思いました。

・ポトシ銀山の開発で銀が大量にヨーロッパに流入するようになってから価格革命が起きたものと思っていましたが、その開発の20年ほど前から人口爆発があり、大都市が成立したことで食糧不足となって穀物が高騰していたこと、そこに銀の流入が重なったというのは初めて知りました。

・西欧で毛織物産業が発達し、工業部門の資本主義的経営が進展して、東欧では穀物の高騰から農場経営に注力することになり、はっきりと「棲み分け」が行われていたというのは、その影響が現在に至るまである程度続いているように思え、興味深いなと思いました。

・スペインが銀を大量に産出する体制を構築できたのに国家財政が火の車だったというのは「帳簿の世界史」でも述べられていましたが、国土が広く、様々な国家と国境を接して戦争が続き、自国の産業を発展させることができなかった国は、銀だけあったとしても成り立たないということが印象的だなと思いました。

第二章 銀と国際政治が「世界のオランダ」をつくった

・イギリスのロンドンとオランダのアントウェルペン(現在はベルギー)の毛織物貿易と、流通のタイムラグを活かした穀物貿易による銀の流入等がオランダを強くしたこと、ハプスブルク家のスペインがオランダを掌握しようとし、アントウェルペンがスペインに占領されたこと、オランダが独立に動いたこと、スペインがイギリスやフランスと戦争を始めたことなどが重なって、アムステルダムに富が集中することになり、新大陸で産出する銀の75%がオランダに集まるようになったことなど、オランダが興隆する様子が述べられていました。

第三章 十七世紀のグローバル化と開かれた日本

・ポルトガルの植民地をオランダが奪っていき、オランダ・インド・インドネシアの貿易ラインを構築し、スペインはフィリピン・アカプルコの貿易ラインを構築し、支配地域間の貿易関係が十七世紀に構築されていったそうです。

・日本も銀の産出地として有名で、明の生糸等と日本の銀を交換していく貿易関係が当時あったそうです。

・日本に布教していたポルトガル・スペインとオランダの日本での縄張り争いについても書かれていました。

・日本が銀の輸出を禁止してからオランダの香辛料貿易は弱くなり、代わってイギリスの綿布貿易が強くなったそうです。

・オランダの強みだった穀物貿易も人口停滞期に入り、新大陸のトウモロコシやジャガイモなどが入ってきて低調になり、イギリスの航海法でオランダの海運も低調になり、オランダの衰退が決定的になったそうです。

・ドイツでジャガイモが本格的に主要な食糧として栽培され始め、ジャガイモのスピリッツも作られ、それがドイツ資本主義に発展していったそうです。

・黒人奴隷の需要と供給がアフリカとアメリカとヨーロッパを結び付け、プランテーションによりグローバル化が進んでいったそうです。

第四章 イギリスを頂点に押し上げた大西洋交易圏

・イギリスの黒人奴隷・砂糖・綿織物の三角貿易が全てイギリス主導だったことで破綻しなかったこと、自国で完結していなければすぐに破綻していたであろうことが書かれていました。

・スペイン継承戦争の講和でスペインとアシエント(黒人奴隷要求契約)を独占的に締結して利益を確保していたのも抜け目ないなと思いました。

・イギリスが毛織物から元々縁がない綿織物に主要産業を切り替えていった理由として、アジアやアフリカとの貿易で毛織物にそれほど需要がないことがあったそうです。

・イギリスのインド進出で、インドの藩王等との戦いで勝利を収めて東ベンガル地域で徴税権を得て、インドの銀を確保できるようになったことが、銀を流出する一方だった貿易関係の改善に繋がったというのはなるほどと思いました。

・馬が人と同じものを食べることから、馬が増えると人の食べるものが無くなる、ということが産業革命、機械革命の動機になったというのは、もちろんそれだけではないでしょうが一理あるなと思いました。
木材の枯渇から石炭にエネルギー源を移していったこと、融解熱の低く製鉄に使えない石炭をコークスにする技術等が生まれていったことなど、いろいろタイミングが合った、ニーズとシーズがマッチングした時代だったのだなと思いました。

・英仏の対立でイギリスが優位にあったのは国債発行能力が決め手だったという点、貿易で敗北したオランダが金融面で取り返し、イギリスと連携していた点などは、興味深いなと思いました。

第五章 大英帝国の平和がアジアにやって来る

・毛織物が主要な交易品だったイギリスで、東インド会社に毛織物の販売を義務付けて失敗し、東インド会社以外の商人が台頭することになったこと、地方貿易商人との為替取引で東インド会社が銀を確保したことなど、仕組みづくりの巧みさが際立っているなと思いました。

・清への銀の流入を食い止めるためのアヘン貿易が、当初は清も賛成だったというのは初めて知りました。
その流れの中でアヘン貿易の取締り策を考えて清の皇帝の考えを変えさせた林則徐はすごいなと思いました。

・アヘン貿易が自由貿易の始まりだったということ、インドで栽培したアヘンを清に輸出することで銀をインドに流していくというのがアヘン戦争の重要な理由の一つだったことは、なかなか興味深い考え方だなと思いました。

・アヘンと綿が両輪としてイギリス貿易の軸になるほどアヘンが重要だったこと、世界を移動するために必要な石炭が豊富だったことが、イギリスが進出できた大きな理由だったことなども興味深いなと思いました。

第六章 近代日本の銀はどこから来たのか

・幕末の日本では清の情報から西洋各国に対抗する必要があると考えられていた話は幕末について触れた本や小説でよく述べられている話ですが、清の華夷秩序から離れられない考え方、清の属国という立ち位置のままでは西洋から主権国家として認められないリスクなど、当時の日本では結構ギリギリなパワーバランスを読んで動いていたのだなと改めて思いました。

・日清戦争が西洋各国の監視下で行われたこと、黄禍論や利権の問題から三国干渉が行われたこと、日清戦争の賠償金を銀で受け取らずにイギリスのポンドで受け取るようにして日英関係を考慮したことなども当時の厳しい日本の立ち位置でうまく動いているなと思いました。

・清が西洋各国から借款を得て賠償金を支払ったことから、各国が清国内で利権を得ていったことも、世界の中でのパワーバランスを変えていったのだろうなと思いました。

・賠償金の受け取りから金本位制がスタートしたこと、それまでの銀本位では価値の暴落等のリスクがあったこと、兌換紙幣の発行等、経済が現代のものに近づいていったことなどが書かれていました。

第七章 本書のエキス―中心・周辺と世界史のダイナミズム

・中心と周辺が結ばれて初めてグローバル経済が動くということ、イギリスが巨富を得た理由は、黒人奴隷貿易・インドでの徴税権確保・清国アヘン貿易の3つが大きな要因だったこと、19世紀から始まった電信線による接続が世界市場を繋げていったこと、資本主義の分業システムが近代の世界史を動かしていたことなどが述べられていました。

○つっこみどころ

・全体的に、因果関係を一本化して単純化して述べられているところが見受けられました。
考察の一つとして面白いとは思いますが、そこまで単純ではないだろうなと思いました。

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