【ハンニバルに学ぶ戦略思考】レポート

【ハンニバルに学ぶ戦略思考】
奥出 阜義 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478015066/

○この本を一言で表すと?

 ハンニバルが採用していた原則とその実践を分析した本

○面白かったこと・考えたこと

・ハンニバルの行動原則を11に分類してどの戦闘にはどの原則が活用されたかがまとめられていること、我の行動方針と敵の行動方針を攻撃的か防御的かにわけて4つの組み合わせのシナリオを検討すること、マップ・マニューバー(兵棋演習、戦場のシミュレーション)を活用すること、などハンニバルの戦争以外に対する分析でも使えそうなシミュレーション方法がこの本の大半を事例として提供されていてイメージがしやすいなと思いました。

第1章 ハンニバルに学ぶ戦略力の原則

・戦略力の11原則が2つの主原則(目的、創造)、5つの軸原則(主動、集中、奇襲、機動、柔軟)、4つの補完原則(統一、簡明、保全、経済)に分けられているのは、各原則の中身を知ればある程度レベル感の区別として妥当性があるなと思いました。

・目的と創造を同レベルとして挙げているのは珍しいレベル感だと思いましたが、それ以外は孫子に出てきた内容そのままだとも思いました。
ハンニバルの方が孫子よりも後の人物ですが、著者が孫子の素養からハンニバルを評価した結果がこの11原則かと思いました。

第2章 ハンニバル戦略力の実戦

・ハンニバルが立てた第2次ポエニ戦争に関する戦略の壮大さと行き届き方がすごいなと思いました。
後段に行くほど、想定外のことがあることも考慮してか詳細な戦略からざっくりとした希望的観測も入った内容になっていますが、当時の国家・軍隊的に仕方のない部分かなとも思いました。
ハンニバル自身、100%の成功率を見込んでいたわけではないのだろうなと思います。

第3章 第1段作戦:アルプス越え

・当時の常識外であったアルプス越えを真剣に検討し、その後の戦闘のための物資の運送も含めて計画して成功させたというのはローマ側からすればそれは驚天動地だろうなと思いました。
構想してさらに実現まで結びつけるまでの詳細な計画を立てられるというのは、それだけの研究を重ねていたことと、考察を重ねていたのだろうなと思います。

第4章 第2段作戦:北イタリア・トレビア川の戦い

・水に濡れれば体の動きが悪くなるという生理的な事柄も戦略の検討に含め、イニシアティブを取ってローマ軍に渡河させて敵兵の力を弱めるというのは恐ろしいほど合理的だなと思いました。

第5章 第3段作戦:中イタリア・トラジメーノ湖の戦い

・地形を利用しての各個撃破は数の有利をできるだけ活かす方法として、その敵を割る方法も含めて重要だと思いました。

第6章 第4段作戦:南イタリア・カンネーの戦い

・第1段から第3段まで騎兵隊を温存し、カンネーの戦いにおいて初めて投入したというのは、この地に来るまででも大変だった中で、よほど後の事まで見えていないとできないことだなと思いました。
騎兵という兵種の強みを理解し、その強みを理解できていないローマ軍に切り札として使用としているのはハンニバルの勝負強さだと思いました。
また最初から最後までイニシアティブを持ち続けることの重要性から相手にとっての予想外の要素である騎兵を別にするなら主動の原則が一番大事だったのではと思いました。

第7章 カンネーの戦い以降:カルタゴの終焉

・戦略家としては優れていても政治家としては国内で主導権が握れていなかった者としてもハンニバルと山本五十六が重なるなと思いました。
人一人ではやはり限界があり、協力者や異なる能力を持つ者と提携することの重要性も教訓になっているなと思いました。

第8章 ハンニバルと現代のリーダー

・ハンニバルがソフトパワー(社会的知性、コミュニケーション能力、ビジョン)、ハードパワー(組織運営能力、策略家としての能力)、スマートパワー(広い意味での政治力、ソフトパワー・ハードパワーを複合的に使用する能力)に優れていたというのは部下に対するエピソードや実現した戦争の内容を見ても認められるなと思いました。

・元々カルタゴがあった現在のチュニジアはすっかりアラブの春の先駆けの国としてベン・アリー大統領や大統領夫人の汚職ぶりしか思い浮かびませんが、この本に書かれていたように教育レベルの高い国家だからこそアラブの春の先駆けになれたのかなと思いました。

○つっこみどころ

・ハンニバルに対して無批判に過ぎる気がしました。イベリア半島からローマまで攻め込み、カルタゴの地位を確立するという目的を達成できなかった結果について、一つの戦争だけではなく、国家としてのグランドデザインに関与できなかったのかなと思いました。

・ハンニバルの11の原則、ハンニバルの戦略を学んでいるかそうでないかで国家間の競争戦略が決まる、学べば国際的に有用な人物となれるという文章が「はじめに」や「おわりに」で書かれていましたが、なぜそういえるのかの根拠がなく、説得力がないなと思いました。

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