【2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ】レポート

【2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ】
ピーター・ディアマンディス (著), スティーブン・コトラー (著), 山本 康正 (その他), & 1 その他
https://www.amazon.co.jp/dp/4910063137/

○この本を一言で表すと?

 画期的な技術群とその融合が変える世界の姿について書かれた本

○よかったところ、気になったところ

・どのような技術がどのような分野に影響を与え、どうなっていくかが、かなり広い範囲で紹介されていて、部分的に知っていることや知らなかったことが結びついてどのようになっているかが描かれていて興味深い内容でした。

第1部 「コンバージェンス」の破壊力

第1章 「コンバージェンス」の時代がやってくる

・「空飛ぶ車」が実現に向かっていることを中心に、いままで構想されていただけで実現できていなかった様々なことが近いうちに実現される方向に向かっていることが書かれていました。

・バラバラに存在していた「エクスポネンシャル・テクノロジー(指数関数的なテクノロジー)」の波が融合しつつあり、様々な実現のための壁を次々と乗り越えているそうです。

・空飛ぶ車に必要な三つの条件は「安全性」「騒音」「価格」で、前二つはDEP(分散型電気推進力)、膨大なデータを処理して電気モーターと航空機の制御面をリアルタイムに連携させる処理能力、ギガビット単位の情報を同時に処理できるセンサー、新世代のリチウムイオン電池で実現できるそうです。
最後の「価格」は設計面、材料面、製造速度面でそれぞれイノベーションが起きなければまだ難しいだろうとのことでした。

・イーロン・マスクがロサンゼルス―サンフランシスコ間の鉄道建設の高価さと遅さに激怒して「ハイパーループ」構想を打ち出し、最大時速1,200kmで走行する商業用ジェット機を上回る速さの高速輸送システムが検討されているそうです。
イーロン・マスクがベンチャーキャピタリストのピシェンバーに「ハイパーループ」の話をした乗り気になって、ピシェンバーが動いてハイパーループ・ワン社が設立されたそうです。この発送から動き出して形にしていくスピード感はすごいなと思いました。

・イーロン・マスクが渋滞にイライラしてトンネルを掘るとツイートして、その7ヶ月後には政府から地下ハイパーループの認可を受け、建設を開始したそうです。

・ヒトは未来を見通すことが苦手で、未来の自分を考える時は他人について考えるときと同じ脳の動きをしているそうです。
2030年までに世界が激変し、ついていけない企業や人は大変なことになるため、すぐ先に待ち受けている未来を見通すことが重要なのだそうです。

・さらっと書いていましたが、離婚率が高い理由として、結婚制度が4000年以上前にできた制度で、当時は10代に結婚して40歳までには死んでいたので20年程度の結婚生活が前提になっていて、今は半世紀も続くようになったからだ、という話があり、面白いなと思いました。

第2章 エクスポネンシャル・テクノロジー Part 1

・量子コンピュータの説明が章の最初にありました。
ムーアの法則は限界を超えていて、トランジスタ同士の距離が5nmに近づくと電子が飛び移るようになって演算能力が阻害されるそうですが、量子コンピュータにはそういった制約はなく、文字通り桁違いの性能を発揮できるそうです。

・エクスポネンシャル・テクノロジーの六つのステージについて説明されていました。
「デジタル化(Digitalization)」「潜行(Deception)」「破壊(Disruption)」「非収益化(Demonetization)」「非物質化(Dematerialization)」「大衆化(Democratization)」で、デジタル化が加速のスタートになり、指数関数的なので最初は潜行してゆっくり進み、既存の製品・サービス・市場・産業を破壊するようになり、コストが消滅して、製品そのものが消え、当たり前のものになっていくそうです。

・AIの能力は単純な処理、特化した処理から、「見る」「聞く」「読む」「書く」「知識の統合」といった分野に広がって、かつ身近なものになりつつあると述べられていました。

・ネットワーク、センサー、ロボティクスなどの進化も指数関数的に進んできたことが簡潔に述べられていました。

第3章 エクスポネンシャル・テクノロジー Part 2

・VR、AR、3Dプリンティング、ブロックチェーン、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、など近年の技術の紹介と状況について説明されていました。

第4章 加速が「加速」する

・加速を「加速」させる七つの力として、「時間の節約」「潤沢な資金」「非収益化」「『天才』の発掘しやすさ」「潤沢なコミュニケーション」「新たなビジネスモデル」「寿命を延ばす」が挙げられていました。

・「『天才』の発掘しやすさ」の話は興味深いなと思いました。
階級、出身国、文化の犠牲者となっていた圧倒的天才が世に出やすくなっていることと、脳そのものの開発、脳コンピューティング、記憶強化などで底上げできることがその根拠として書かれていました。

第2部 すべてが生まれ変わる

第5章 買い物の未来

・シアーズ、ウォルマート、アマゾンという流れの小売業のトップの動きが書かれていました。

・小売業で3Dプリンタによってオンデマンドで作成して販売できるというのは興味深い未来だと思いました。

第6章 広告の未来

・SNSマーケティングが急速に発展しているものの、10~12年程度で消滅すると書かれていました。
空間的広告、パーソナライゼーション、そして注文する前にAIに先読みされて届く時代がくるのだそうです。

第7章 エンターテイメントの未来

・ネットフリックスが1999年に創業してDVDレンタルをインターネットで受け付けて郵送するモデルで成功し、2007年にストリーミング・サービスへ転換したというのは既存の事業とその地位を潰す意思決定も含めてすごいなと思いました。
その後自社での独自コンテンツ作成に取り組んでいるのも興味深い動きだなと思いました。

・VR等の没入型のエンターテイメント、ARコンタクトレンズ、BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)など、既に始まっているものから将来的なものまで紹介されていました。

第8章 教育の未来

・VRとAIによって画一的な教育からパーソナライズされた教育に置き換わっていくことが示唆されていました。
ARで現実と組み合わせた教育というのも興味深い内容だと思いました。

第9章 医療の未来

・現代医療自体が既にいろいろ対応できない面があり、モバイル医療、遺伝子解析によるパーソナル医療、ロボット医療、3Dプリンティングによる臓器の作成などの新技術に置き換わっていくそうです。

第10章 寿命延長の未来

・老化を克服するための技術について、老化を止める方向と若返りの方向で研究が進んでいて、人間の生存期間を延ばすことは「できるかどうか」から「いつできるか」の問題に移っているそうです。

第11章 保険・金融・不動産の未来

・コーヒーハウスで生まれた保険がどのような仕組みであるかの概略が述べられ、テクノロジーがその前提を崩し、予測と予防の時代になることが述べられていました。

・金融市場にも変化があり、貧困国では銀行の利用もできない状況から携帯電話の通話時間を通貨とする「エムペサ」が状況を変えていったこと、ブロックチェーン技術による暗号通貨の流通、クラウド融資、キャッシュレス化の進行など、現状起きていることについて述べられていました。

・不動産市場ではVRとAIによる住居選び、水上都市という立地の創造などについて述べられていました。

第12章 食料の未来

・食料の生産量を遺伝子工学で光合成能力を高めるなどして向上させる技術、果物や野菜の表面の角皮素を人工的に作成してコーティングする腐らない技術、都市部で農業を実践する垂直農法、バイオテックとアグリテックを混合した細胞から培養する食肉の開発などが紹介されていました。

第3部 加速する未来

第13章 脅威と解決策

・世界経済フォーラムの2018年の「グローバル・リスク・レポート」で挙げるトップ5のリスクは、「水危機」「生物多様性の喪失」「異常気象」「気候変動」「環境汚染」の環境面の5点だったそうです。
この5つのリスクに対して、水を利用に可能にする技術、自然を利用する効率的かつ安価な発電技術、蓄電技術、水陸両方での再生・改革技術、ドローンを使った森林再生等のテクノロジーで解決する方法があり、イノベーションとコラボレーションでなんとか出来る見込みがあるそうです。

・「自動化」によって過去の産業革命と同様に、より多くの新たな雇用が生まれると述べられていました。
労働者の教育能力開発等に活用できるテクノロジーも後押しするとのことでした。

第14章 五つの大移動がはじまる

・人の移動が世界を進歩させるとして、移民がイノベーションの原動力となり、起業して多くの雇用を生み出してきたことが述べられていました。

・今後100年で5つの大移動があるとして、気候変動による7億人の移住、世界的な都市人口への移行、バーチャル世界への移住、宇宙への移住、個人からクラウドベースの意識の移行が挙げられていました。

○つっこみどころ

・全体としてかなりオーバートーク気味に書かれているようにも思いました。
出てくる技術や人物で知っている内容について、一部をとりあげてオーバーに書いていたところが何箇所もあり、気になりました。

・盟友であるイーロン・マスクへの取り組みへの称賛、テスラ等の事業が取り組んでいる内容の肯定的な記述は、無批判すぎて著者二名の投資先に対するポジショントークになっているようにも思えました。

・かなり成功している投資家である著者二名が書いているからか、かなり上流階層にしか体験できなさそうな未来でもあるように思えました。
少なくともこの本の未来に備えられるようなリテラシーを持つ人は限られそうに思います。

・所々に日本の事例が出てくるので調べてみたら大げさに書かれていることもありました。(AIの書いた小説が日本の有名な文学賞で最終選考に残った→唯一人間以外の参加を認めている星新一賞の一次審査を通過しただけ)

・第5章で、シアーズがウォルマートに打倒されたのは確かだと思いますが、アマゾンとウォルマートは業態が異なり、またウォルマートもネット販売等への対応を進めていてまだ決着はついていないようにも思いました。

・第5章で、3Dプリンティングがあれば卸売業者、メーカー、物流業者が不要になると書かれていましたが、原材料の生産・物流・販売は残り、形を変えて残りそうにも思いました。

・第13章で、「自動化」がよってさらに雇用が生まれると書かれていましたが、その根拠は歴史上の産業革命前後の話でした。
物ではなく複製可能な情報・データ等がメインになる経済で新たに生まれる雇用に比べて、自動化で仕事を失う人の方が量的には圧倒的に多く、雇用が生まれる根拠が薄いなと思いました。

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