【2100年の科学ライフ】 レポート

【2100年の科学ライフ】
ミチオ・カク (著), 斉藤 隆央 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4140815728/

○この本を一言で表すと?

 現在の科学的知見から未来の生活における科学の発展・普及について予測した本

○いろいろ考えた点

・100年先まで予測するとなると、ジョージ・フリードマンの「100年予測」でのかなりSFチックで滑稽な科学技術予想を思い出しましたが、現在の科学に関する発見から、科学者が「あと何年あればこれが実現する」と予測していることについて書かれているので、「100年予測」の科学技術予想に比べるとかなり地に足がついた話が書かれているなと思いました。

はじめに―来る100年を予言する

・著者が偉大な科学者に憧れて高校生の時に粒子加速器をつくったという話はすごいなと思いました。
それ以上にそれをつくることを許可した著者の母親の器の大きさがすごいなと思いました(家の全電力を使われて家のヒューズが全部飛んだりしたのに)。

・19世紀にジュール・ヴェルヌが「二十世紀のパリ」「月世界旅行」という小説で現代のパリの姿をかなり正確に描写したり、インターネットの存在まで予言したり、月旅行の詳細(発射する場所、宇宙飛行士の人数、船内の無重力、到達するまでの時間)を詳細に当てたりしたこと、その前提にヴェルヌが当時の科学的知見の記録を集め、科学者に質問を浴びせていたことがあり、この本の著者の立場と似ていることを主張しているのは面白かったです。

・「穴居人の原理」により、10万年前の人類と同じ性質(物の証拠を求める、直接会いたがる、など)を現代の人類ももっていることから、技術がどれだけ発展してもある程度は現代の延長になるという話はなるほどなと思いました。

1 コンピュータの未来

・ムーアの法則が光の速さが上限となっていずれ成立しなくなるが、立体構造の半導体の可能性がまだ残っているという話が「サイエンス入門」で書かれていましたが、立体ゆえの冷却のための表面積の小ささがネックとなっていることは初めて知りました。

・近未来に実現しそうなことはMITメディアラボの研究などが基になっていて著者がしっかり調べたことがわかるなと思いました。

・万能翻訳機は今すぐにでも実現してほしいツールだなと思いました。リアルタイムで自分には自分の母国語で伝わり、相手には相手の母国語で話が伝わるというのは、まるっきりドラえもんの「ほんやくコンニャク」だなと思いました。

・fMRIという機器があることは知っていましたが、脳の構造が立体的にスキャンできることから、思考を読み取ることができ、心が物を動かすということに繋がるという話はなるほどと思いました。

2 人工知能の未来

・人工知能を人間並みに持っていくことが難しいという話は聞いたことがありますが、具体的にどこまで進んでいるかが分かった良かったです。
一つの方向(チェスの技術、計算など)では人間より優れたものをつくることができても、人工知能に常識を備えさせることの困難さ(常識の量だけでなく、適用の速さも)を乗り越えるのはかなり難しそうです。

・生物の本を読んで人間の脳の伝達速度が意外と遅いなと思ったことがありましたが、実際にコンピュータとは比べものにならないほど遅く、なのにコンピュータとは比べものにならないほど判断が速いことの要因として並列処理がすごいという話は面白かったです。
人間と同じだけの並列処理をさせようとすると原発なみの電源設備(1ギガワット)が必要なのに、人間の脳は200ワット程度で動いているというのは脳の性能についてあらためて驚かされます。

3 医療の未来

・ヒトゲノムの解析が終わってからDNAの調査が容易になってきているという話は聞いたことがありますが、携帯電話サイズでDNAを検査できるお手軽な機器がお手軽な価格でいずれ作られ、いつでもチェックできるようになるというのはすごいなと思いました。

・遺伝子治療から遺伝子改良に繋がっていく可能性は倫理的なことから難しそうではないかと思いましたが、「倫理」も時代によって変わっていくことで当たり前になるかもしれないことと「穴居人の原理」からそれほど進まないということと、どちらになるのかなと思いました。

・不老不死になるための研究や恐竜復活の研究が真面目に考えられていること、そしてそれが思っていたより進んでいることに驚かされました。
遺伝子改良の技術が細菌改良に転用されて兵器化されるという話はイメージしやすいだけに本当に実現しそうだなと思いました。

4 ナノテクノロジー

・ナノマシンの研究が思っていたより進んでいて驚きました。量子コンピュータの話も実現はまだ糸口も見つかっていないような話が「サイエンス入門」に書かれていたので、思ったより実現に近づいていることに驚きました。

・ナノサイズのものをどうやって操作するのかなと思っていましたが、その手段の一つとして、細菌をくっつけて細菌を動かすことで操作するというのはなるほどと思いました。

・「ターミネーター2」の敵役として出てきた人型になったり液体になったりする殺人ロボットのような技術がインテルで「カトム」として開発されつつあることに驚きました。
プログラム可能な物質というのは「FREE」「MAKERS」の著者クリス・アンダーソンの言う「アトムの世界」と「ビットの世界」が近づいている話の延長にあるものかなと思いました。

・原子レベルで操作できるようになり、それをいろいろ応用できるようになった先で「レプリケーター」という何でもつくれる技術が生まれるかもしれないという話は、今では考えにくいですが、科学技術の発展の先に存在するということは現実的に思えてきました。

5 エネルギーの未来

・地球温暖化の影響の話で、危険な昆虫が北上してくることで熱帯病も北上してくるという話が載っていて、言われてみればなるほどなと思いました。

・二酸化炭素が地球温暖化の主要因という考えには疑問があると思いますが、きっかけの一つとなって地球温暖化が進み、ツンドラの氷が溶けると閉じ込められていた植物から大量のメタンガス(二酸化炭素の数十倍の温室効果を持つ)が放出され、温暖化が暴走するということ、温暖化が進み、国土の海抜が低い国はどこも危機に陥り、パキスタン・インド・中国などの核保有国が少なくなった耕地を争うという話もそう繋がったら怖いなと思いました。
物事の因果関係は深いなと改めて思います。

・地球温暖化の技術的な解決策で、今まで知らなかった策も載っていて面白かったです。
「1991年にフィリピンのピナツボ山が噴火したときに地球の平均気温が下がったことを参考に、汚染物質を大気に打ち上げる」とか、「鉄をベースとした化学物質を海に投入して藻類を大繁殖させる」とか、「遺伝子工学で二酸化炭素を大量に吸収する生物を開発する」とか。

・「核融合」という言葉はよく聞くのでどこかで実現されているものと思っていましたが、科学者のハッタリがほとんどでまだ利用可能な実績がないということを初めて知りました。
発表のつど大騒ぎになって、ついには誰も反応しなくなったというのはまるっきり「狼少年」だなと思いました。

・超伝導が高めの温度で可能になることがエネルギー革命に繋がるというのは面白いなと思いました。
液体窒素(摂氏マイナス196℃)が牛乳と同じくらいの値段というのも初めて知りましたが、理論上これよりも高い温度で超電導になるセラミック超伝導体が考えられているそうで、これが実現したら電力から磁力の時代が来るというのはあり得なくもないのかなと思いました。
さらに進んで常温超伝導体が発明されたらエネルギーの構造が一新されるというのも分かる気がします。

・「100年予測」でSFチックに書かれていた宇宙発電衛星とその送電がここでも真面目に取り上げられていて、本当の話だったのかと驚きました。
日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱電機がこの開発に関わっているという話はワクワクしました。

6 宇宙旅行の未来

・エウロパという木星の衛星に生物が存在するかもしれない可能性については前に聞いたことがありましたが、氷とその下の水の存在と、地球の海底に住んでいる火山の熱水噴出孔の熱エネルギーを利用して生きている生物の発見からそう考えられていることは初めて知りました。
生物が生息可能な環境があることと、生物が発生することの間にはかなり大きな隔たりがあると思うのですが、そこには触れていないようでした。

・有人宇宙旅行で惑星に着陸することでコストが増大する理由に、もう一度離陸することのコストが考えられていることを初めて知りました。
考えてみれば軌道上を航行するスペースシャトルの発射するときのエネルギーが宇宙旅行のそれ以外のコストの何十倍にもなる(エネルギーの大部分は重力を抜けるために消費)ことを考えるともういちど離陸するのは確かにコストが大きそうだなと思いました。

・火星旅行の可能性と、火星のテラフォーミング化(地球化)の可能性が検討されているのはなかなかスケールの大きな話だなと思いました。
火星に旅する仮定で宇宙船で数百日過ごすミッションを終えたことニュースが2011年にありましたが、本格的に進んでいるのだなと思いました。

・宇宙旅行を採算性の面で検討するとかなり事業化が困難という話はそうだろうなと思いました。
何かを採取するにしてもコストに見合うだけのリターンが見込めない以上、しばらくは金持ちの道楽としての事業以外は考えられないというのは残念ですが仕方のないものかもしれないなと思いました。

・ナノテクノロジーの発展で鋼鉄よりもはるかに頑丈なカーボンナノチューブ繊維が開発できれば宇宙エレベーターができるかもしれないという話はすごいなと思いました。
子供の頃、「月くらいなら月まで届く橋を作ったらいい」と、自転も公転も知らないときに考えたことがありましたが、似たような発想が本気で考えられているのは嬉しく思いました。

・結論として、2100年になっても人類は地球以外には移住していないという話は技術発展の可能性を楽観的に見ても不可能ということで仕方がないとは思いますが、少しがっかりしました。

7 富の未来

・科学者視点で未来を予測する本なのに、歴史上の話が出てきて意外に思いました。
西暦1500年頃のヨーロッパの相対的な地位の低さとその後隆盛した要因の分析はニーアル・ファーガソンの「文明」の分析に似ているなと思いました(参考文献に載っていなかったので同じ分野の別の本からの引用かもしれません)。

・科学の発展で職を失う者と失わない者の区別で、エンターテイメント分野の者は生き残ると書かれていて、その根拠の一つで人類の顔の認識能力はかなり鋭く、CGなどではまだまだ現実に追い付けず、そのCGも実物をサンプルに作成しているという話はなるほどなと思いました。

・資本主義への影響、発展途上国での一足飛びの技術導入などの話はBOPに触れた別の書籍でも書かれていましたし、特に全体として目新しい点はなかったですが、結論として書かれていた、先進国での優秀な人材が科学以外の分野に行ってしまう(金融関係など)という話は、日本でもそうですし、日本だと理系の優秀な人はほとんど医学部に行ってしまうことを考えると結構深刻だなと思いました。

8 人類の未来

・第二次世界大戦後に惑星規模の文化が初めて成立し始め、技術の発展でいろいろな分野に広がっているという話はなるほどなと思いました。
民主主義国家同士の戦争はこれまでにほとんどないということ、民主主義が広まっていくにつれ戦争の性質も変わっていくということは改めて考えるとなるほどなと思いました。

・技術発展に伴って国家の力が弱くなっていくという話はよく聞きますが、国家が無くなるわけではないというのは納得できる結論だなと思いました。

・アメリカ建国者の一人、ベンジャミン・フランクリンが1780年に今後人間の者を支配する力が強まれば1000年後には、病気や老化から免れているかもしれないと述べていて、それよりもかなり早い段階でそれが達成できそうというのは、人類の進歩の凄さを感じました。

9 2100年のある日

・2100年のある日を描くことでその世界観を描くという手法は、リンダ・グラットンの「ワーク・シフト」でもあったなと思いましたが、イメージがしやすくなって面白いなと思いました。
老化を克服して望むならいつまでも青春を味わえ、何度も一から職業人生を歩みなおせるというのはとても魅力的だなと思いました。

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