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【フィンテック 金融維新へ】レポート

【フィンテック 金融維新へ】
アクセンチュア株式会社 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532356997/

○この本を一言で表すと?

 金融機関を対象として書かれた大手コンサルティング企業のフィンテック解説と自社宣伝の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・金融機関やその周辺産業に所属している人をメインターゲットに据えて書かれた本だと感じました。
IT技術の内容そのものには踏み込み過ぎず、金融機関の内部の処理とフィンテックによる変化等を厚めに書かれていた印象です。
2部構成で前半はフィンテックの内容と今後の方向性についての説明で、後半はフィンテックに金融機関がどう対応すべきかという内容でまとめられていました。

・各章ごとに著者が違い、さらに執筆協力で複数の人間が参加して書かれている割には、全体として整合性が取れている内容だと感じました。
「はじめに」で簡潔に全体像の説明や各章の概要が述べられていて、またこの本全体を通して念頭に置かれているフィンテックに対応するための4つのキーワード(デジタル化、顧客価値、エコシステム、オープンイノベーション)にも触れられていて、監修者が全体を把握してうまく統合させたのだろうなと思いました。
つっこみどころで指摘した残念な点がなければ、監修者が素晴らしいという感想になっていたと思います。

第1章 現在:フィンテックとは何か

・2015年までのフィンテック企業の起業状況や進出している分野、資本投資規模や取扱金額規模についてざっと説明されていました。
ここ数年の数値的な伸び率もすごいですが、分野の開拓もすごい勢いだなと改めて思いました。

・金融業が現在に至るまで装置産業だったということ、今後フィンテックの領域拡大、既存領域への侵食によりIT産業に変化するということが書かれていました。
装置産業と言ってもそれもITの一種ではありましたが、ハード中心からソフト中心に変わるというのはその通りだと思います。

・SMACSという用語についての説明があり、初めてそのような言葉があることを知りました。
Social Media(ソーシャルメディア)、Mobile(モバイル)、Analytics(アナリティクス)、Cloud(クラウド)、Sensor(センサー)の5つの頭文字をとったものだそうです。
コンサルティング企業や経営学系の雑誌が好みそうな略語のつくり方だなと思いました。

・IT産業化の発展の基点となる技術としてAI、API、ブロックチェーンの3点が挙げられていました。
APIはプログラミングで昔から使われていた用語ですが、ここではもう少し広い意味で、プログラムをオープン化して他社がそのプログラムの機能を利用したプログラムを作ることができ、相互利用が促進される、ということらしいです。
他のフィンテックの本でも同じ意味で使われていました。IT業界の人とAPIの話をするときはその前提を話しておかないと誤解を招きそうだなと思いました。
これらの技術や仕組みの組み合わせで既存の金融機関の領域に非金融機関が参入しているそうです。

・章の最後で国家としてのフィンテックへの対応で、欧米と日本について触れられていました。
日本でも金融審議会で規制緩和に取り組んでいるらしく、この本では楽観的に見ているようですが、まだワーキンググループの報告程度で、銀行法改正等の法制度面での対応が追い付いていないことを考えると厳しそうだなと思いました。
イギリスのように政府主導で取り組むくらいの動きを見せるところには対抗できないのではと感じました。

第2章 未来:フィンテックは何をもたらすか

・フィンテックによる変化が「アンバンドル(解体)」「リバンドル(再構築)」「エンハンス(強化)」の三段階で述べられていました。
このアンバンドル・リバンドルという用語は他の本でも見ましたが、フィンテックを語る上での共通用語なのかなと考えました。

・アンバンドルの説明では、金融の機能が分解され、その要素ごとに非金融機関も競合となって参入してくるということが述べられていました。
特に顧客に近いインターフェース周りでその動きが強いそうです。

・リバンドルの説明では、金融の機能の各要素だけでなく、それ以外の小売業等の分野の要素を含めて統合されるということが述べられていました。
今でも楽天やイオンのような小売大手が金融サービスに参入しており、金融とそれ以外の機能の結びつきの強さは証明されつつあるとのことでした。

・エンハンスの説明はブロックチェーンでどう変わるかという内容に絞られていました。

第3章 機会:いかにフィンテックを捉えるか

・既存の金融機関がフィンテックに対応しなければ、預金・決済・融資・資産運用の各プロセスにおいて収益がフィンテク企業に奪われ、将来的には金融機関が金融の中心でなくなるというリスクがあり、フィンテックに対応できれば新たな局面で優位に立てる、という両刃の剣であるということが述べられていました。

・フィンテックを取り込むことで成功したポーランドのmBankが例として挙げられていましたが、成功要因としてビジネス戦略面で金融業の同業他社ではなく業種を問わず先進企業をベンチマークしたこと、組織・人材面で分業隊背のままではなく別ブランド立ち上げと新ブランドへの逆吸収を行い、ビジネス・IT・顧客体験デザインの専門家が融合した1チーム体制で取り組んだこと、テクノロジー活用面でフィンテックをビジネスモデル実現のための一手段として導入したことなどが挙げられていました。

・伝統的な金融機関であれば、戦略の再構築、テクノロジーとの付き合い方の見直し、マネジメントの再構築の3つの壁を超えないとフィンテック対応は成功しないとして、以後の3章に話を繋げていました。

第4章 戦略:いかにフィンテックに立ち向かうか

・国内金融機関のフィンテックへの取り組み方を「情報収集型」「テクノロジー主導型」「ビジネス主導型」に分類し、ビジネス主導型以外は成果に繋がりにくいと切って捨てていました。

・「金融機関の次世代戦略フレームワーク」という枠組みが、顧客ニーズを「顧客体験(顧客サービス企業)」「商品・サービス(社会インフラ企業)」に、サービス内容を金融と非金融に分類して、どこをターゲットとするかを検討するツールとして挙げられていました。
そのフレームワークの選択が3パターンに収斂するとして、「製販一体型金融機関(特定分野の事業のサービス開発から顧客提供までを担う)」「顧客体験型金融機関(サービス開発をする・しないはともかく、顧客のニーズ対応は一括して担う)」「商品・サービスプロバイダー型金融機関(サービス開発専業として、顧客対応は外部に任せる)」が挙げられていました。

第5章 技術:いかにフィンテックを取り込むか

・ITの位置づけが「基盤としてのIT」から「創造するIT」に変わる必要があるとして、「実績を探す⇒可能性を探す」「統合する⇒分解する+組み合わせる」「まず品質を確保する⇒まず世に出す」と対応を変えなければならないと指摘していました。

・金融機関が過去に築いてきた「基盤としてのIT」は競争優位に繋がるどころか重荷になりかねず、システムインフラについては「コネクティド:外と柔軟につながること」「アナリティクス:ビッグデータをビジネスに活かすこと」「カスタマイズド:パーソナライズできること」「スピーディー:迅速なビジネスローンチができること」の4要件を満たすべきと主張されていました。

・目指すべきシステム構造の方向性としてシステムをコンポーネント化し、採用するビジネスモデルに応じてどれを強化すべきか検討すべきとも述べられていました。

・「守りのIT」と「攻めのIT」で、既存の金融機関は「守りのIT」の余力で「攻めのIT」に取り組む傾向があるが、マルチスピードITとして「ペーシング:アジャイル型のプロセスを導入して柔軟に開発ペースを定める」「ディカップリング:疎結合アーキテクチャ・APIを活かして分離・組み合わせを最大活用する」「フレキシビリティ:柔軟性の高いオペレーティングモデル、インフラの採用」を進めるべきと述べられていました。

第6章 変革:いかにイノベーションを創出するか

・イノベーションに触れられている経営学の本に書かれていることがまとめて述べられていました。

○つっこみどころ

・「維新」「黒船来航」「幕政改革」「開国」「文明開化」など、無理やり幕末・明治の状況に即してフィンテックを表現しているのは無理があり過ぎるなと思いました。
「はじめに」でかなりアピールされて、他の章では章末で少し触れられている程度だったので監修者の趣味でしょうか。
序盤にいきなり陳腐なキーワードが頻出していたので先を読み進めるモチベーションが少し下がりました。
チームのトップに立つ人の趣味で、タイトルにまで「維新」とつけられても反対できなかったのだろうなと、コンサルティング企業の上下関係の悲哀を感じました。

・コンサルティング企業が自社サービス、自社の能力の宣伝の意味でも出版しているので仕方ないことだと思いますが、我田引水と感じる記述が散見されました。
もう少し抑えていればそれほどひっかからずに読めたと思いますが、そういった意味合いである程度内容を割り引いて考える必要があり、その点はマイナスに感じました。

・この本の軸の一つであるフィンテックによる変化の三段階「アンバンドル」「リバンドル」「エンハンス」で、最後のエンハンスは実質ブロックチェーンの説明で、ブロックチェーンがリバンドルの後にくるこの順序で並べる必然性を感じませんでした。
無理に段階を3つにしたような印象です。第2章でのこの三段階の説明を受けて、第6章でもブロックチェーンが最後の変革として扱われていましたが、そこも違和感がありました。

・都度独自の専門用語として出てくるが、内容は既存の別の用語と変わりないような言葉が頻出しているのも、コンサルティング企業にありがちですが、単純な話を難解にしているだけのように思える箇所が散見されました。

・本の装丁が悪いのか、妙にページをめくりにくい気がしました。1ページずつめくるのに、油断すると数ページ、下手すると数十ページがバサバサと一緒にめくれてしまったりしました。
ページ数が多いのにソフトカバーになっている本だとありがちですが、この本はそれほどページ数が多いわけではないので余計に気になりました。