【日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る】レポート

【日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る】
播田 安弘 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065209579/

○この本を一言で表すと?

 科学的アプローチで、特に船舶技術の面から歴史を分析している本

○よかったところ、気になったところ

・ブルーバックスで歴史の本が出たと知って興味を惹かれて購入した本でしたが、読んでみると確かにブルーバックスらしく科学的なアプローチで歴史を分析していて面白かったです。

・著者は船舶の設計に関する専門家で、当時の技術から製造可能な船舶を設計し、当時の状況に照らし合わせて分析していて、複数の視点から歴史上の出来事を見直しているところが興味深かったです。
蒙古襲来と戦艦大和は船舶が大いに関係しますが、秀吉の大返しもそちらから分析しているのは意外で驚かされました。

第1章 蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか

・蒙古襲来の第一弾、「文永の役」について様々な視点から検証されていました。
通説となっている上陸場所が当時の水深や「蒙古襲来絵詞」の記述などから否定できることなど、複数の視点で検証されると説得力があるなと思いました。

・元が高麗に船舶準備の命令を出した時期とその準備期間、当時の技術と高麗の建造能力などから、著者がCADで設計することでどのような船舶を建造したかを推定し、朝鮮半島から日本に来るまでの海流や波の高さなどからどれほど揺れるのか、どれほど酔い易いのかなども推定し、待機場所と上陸場所の距離からどのように上陸していったかなども推定し、日本に到着した時点でどれだけ疲弊していたかを明らかにしていました。
馬を船に乗せるだけでどれだけ大変か、頭数から発生する廃棄物の量だけ見ても相当のものになり、戦線までの兵站の苦労も数値化されるとより実感できるなと思いました。

・日本刀の品質・性質やその他の装備により接近戦に強い日本側が善戦したことをランチェスター第一法則で説明しているのが興味深いなと思いました。
その帰結として蒙古軍が想定外の被害を受け、撤退したところで強い北西風に遭い、遭難したと結論付けられていて、なるほどと思いました。

第2章 秀吉の大返しはなぜ成功したのか

・「秀吉の大返し」がどれほどの難事業であったのかを、当時の地形・天候とその行軍の困難さを現代の行軍演習で実証されている数値と照らし合わせて検証していました。
現代の行軍演習と異なり、装備面や環境面での辛さもあり、悪天候の中の野営などで使用する機材なども想定すると、兵站面で事前に相当の準備をしていないと不可能で、準備が整っていてもほぼ実現不可能と思える内容になるそうです。

・「秀吉の大返し」が途中で船舶を利用したと考えると、想定が変わってくるそうです。
ただ、船舶を利用するにしても2万人という軍隊全部を船舶で輸送したとは考えにくく、著者は秀吉本人を含めた少数のみ船舶で移動して、本軍を置いて協力者の軍のみで前線を構築したのではという仮説を立てていて、面白いなと思いました。

・物理的、科学的にどうすれば「秀吉の大返し」が可能かということの計算・仮説・検証のプロセスが面白いなと思いました。

第3章 戦艦大和は無用の長物だったのか

・著者は「アルキメデスの大戦」という漫画の映画化における製図監修を担当し、戦艦大和についての検証も行っていたらしく、戦艦大和の性能についてかなり細かく検証されていました。
当時の戦艦として最大規模で、スペックも最高レベルにあった戦艦だったそうです。

・戦艦大和と同時代の艦船について、弱点面も分析されていたのが興味深かったです。
アメリカではボイラー室とタービン室を交互に配置し、日本ではまとめて配置していたため、日本の艦船は一部を攻撃されただけで航行不能になっていたこと、日本ではアメリカやイギリスでは撤廃された縦隔壁を入れていたため、転覆しやすい構造になっていたこと、設計上のミスが大戦の最後まで修正されず、実際の戦果でもその影響が大きく出ていることが検証されているそうです。

・戦艦大和はアウトレンジ戦略の中核として温存され続け、大戦最後に投入されましたが、運用次第では効果を出せたのではないかと考察が述べられていました。

○つっこみどころ

・第一章の蒙古襲来の検証では歴史的な資料と科学的な分析のバランスが良く、筋の良い検証だなと思いましたが、第二章の秀吉の大返しでは可能だと考えられる一つの仮説とその裏付けのみになり、第三章の戦艦大和では仕事で関わって思い入れがあるからか極端な大和贔屓な内容になっていてよくある架空戦史のような内容になっていました。
第一章に感心させられただけに、後になるほど質が落ちていくようで残念に思いました。

・第一章の日本刀や第三章での戦時の造船技術と、日本のものづくりそのものを結びつける内容が随所にあり、終章ではその観点からの提言が述べられていましたが、それほど説得力が感じられないなと思いました。

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