【自由論】
ジョン・スチュアート ミル (著), 斉藤 悦則 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334752500/
○この本を一言で表すと?
19世紀に書かれた「自由」についての定義の本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・法学や憲法などの本や歴史の本などでもよく紹介されているミルの著作を読めてよかったです。
「自由論」を書いて自由主義の重要な位置づけにいて、徹底的に自由主義的なことを尊重しているようなイメージを持っていましたが、元々イメージしていたのとは異なり、自由の限界など、社会に具体的に適用される場合にどういう制限を設ければ最もうまくいくかなどが突き詰められていた本で、大きく印象が変わりました。やはり直接読んでよかったなと思いました。
・内容がわかりやすく、論旨が明快だなと思いました。
持論に対する反論をしっかり検討して反論側についても詳細に述べられ、中盤で書かれていた異論がなければ正論が錆びついてしまうこと、人間・社会が完全でない限り意見の多様性が望ましいことなどをこの「自由論」の中でも実践しているのかなと思い、興味深かったです。
・ところどころにどういった事件があり、どういう風に解決されたのか(またはうやむやにされたのか)などが書かれていて面白かったです。
・巻末の「ジョン・スチュアート・ミル略年譜」で一家がジェレミー・ベンサムの隣に住んでいたり、父親の友人に経済学者のリカードがいたり、若い頃から様々なことに触れる機会があり、現代においても著名な人物と交流する機会があり、その流れにいながら自身の意見で著名人の意見と反する内容を書いていたりして、かなり知的に刺激があり、かつ自主性にも富んだ人生を生きていたのかなと思いました。
第一章 はじめに
・最初にこの「自由論」で語る自由の定義から始まっていて、最初からイメージを切り替えて固めることができました。
個人の自由を制限しないことを効用で語ると述べていて、実際に第二章以降を読むとその通りに効用について厚く書かれていて、親切な序章だと思いました。
第二章 思想と言論の自由
・とても一般的で自明にも思える「思想と言論の自由」について、制限することとしないことの効用の差異を根拠として書かれていて面白いなと思いました。
・多数派に封じられている意見が正しい場合も間違っている場合も、それが封じられない方が社会にとって効用が高く、よって封じるべきではないということを、反対意見をかなり掘り下げて例示列挙も含めて書かれ、それを論破している形式が興味深かったです。
・最後にこの章の要旨がまとめられていてわかりやすかったです。
・「思想と言論の自由」を守るべき根拠として、「封じられた意見が正しいものかもしれないこと」「封じられた意見が間違っていても、一部は真理を含んでいる可能性があること」「間違った意見であっても、正しい意見について活発な論争をするきっかけになること」が挙げられていました。
第三章 幸福の要素としての個性
・今でも「個性が大事」と言われながら、その「個性とは何か」についてあまり考えられていないような気がしますが、その大事さに続けて社会にとっての効用まで述べているのは興味深いなと思いました。
・欲望や衝動というエネルギー自体が悪いのではなく、それをコントロールするための良心が弱いことが悪い、というのはわかりやすく、「7つの習慣」などの自己啓発書でも書かれている通りで納得できる意見だなと思いました。
自己啓発書の方が「自由論」から引用したのかなと思います。
・19世紀のイギリスでも同調圧力が強く、個性や天才などが認められにくいということは、どの時代・どの国でもそういったことがあったのかなと思いました。
・欲望や衝動が元になる個性、他者と異なる天才こそが社会を活性化させる効用が高いという考えは明快で面白いなと思いました。
第四章 個人にたいする社会の権威の限界
・社会、政府、国家、他人などから「されない自由」について書かれていました。
この辺りは法制度をどのようにするかの話と直結していて実社会との関連が強い話だなと思いました。
・理論的には個人の自由は無制限であることが望ましいとしても、ある個人の行動が別の個人を害したりする場合、社会としてはどこまで許容し、どこまで制限するのか、「すべきではない」ことを制限することが許されるのか、などの話は現代の法制度の議論でも大いにあると思います。
・極端な例としてアルコールが人間にとって害があるから禁酒法を定める、休日の労働を禁止する、という議論は賛成側・反対側の双方に言い分があり、どちらが絶対的に正しいとは言えない話で、現代ではあまり禁止されてはいないと思いますが、過去には禁止されていた地域もあったので、なるほどと考えさせられました。
・章の最後でモルモン教の一夫多妻制の話が例として挙げられていて、そもそもこの時代からモルモン教があったのかということに驚き、著者がそれに反対ながらも、その考えそのものを制限するのは許されないと考えていることが、「自由論」の要旨通りとはいえ、時代背景を考えるとすごいなと思いました。
第五章 原理の適用
・毒物の取り扱い、アルコール、売春、賭博、家族としての義務の法規などを「すべきでない」として国家・政府が制限することについて、それぞれ論じていました。
・今でも階級社会と言われているイギリスで、労働者を子ども扱いすべきではない、などの意見をこの時代に述べているのは興味深いなと思いました。
○つっこみどころ
・読んでいてミル自身の意見と、ミルが反対の立場に立って述べる意見を混同してしまう場合が結構あり、もう少し分かりやすく書き分けてくれた方が助かったなと思いました。
特に、第二章でキリスト教徒を弾圧したマルクス・アウレリウスを例として挙げた時に「彼はキリスト教が世界にとって善でしかありえないこと、悪ではないことが見てとれなかった。」という文章があり、キリスト教を全肯定した上での論議で、以降もそれが続くのかなと誤解しました。
全部読めば大体の本旨はつかめる本だと思いますが、途中で挫折した人は誤解したままに終わりそうだなと思いました。
・巻末の「ジョン・スチュアート・ミル略年譜」で、友人ジョン・テイラーの妻ハリエット・テイラーと知り合い、すぐに恋愛関係になり、ジョン・テイラーが亡くなった2年後にハリエット・テイラーと結婚・・・というのはどう捉えていいのかなと思いました。
義理の娘が「ミル自伝」を出版したくらいなので、字面で読むほどドロドロしていなかったのかもしれませんが。
ミルが自由論の「他者を侵害しない限り、自由。他者を侵害するなら制限が許される」という主張にテイラー夫妻の件は抵触しないのか、ミルの中でどういった結論になっていたのか気になりました。