【アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界】レポート

【アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界】
堂目 卓生 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121019369/

○この本を一言で表すと?

 アダム・スミスの2大著作全体の説明とその関連性をわかりやすく説明した本

○この本を読んで興味深かった点

・この本で解説されている「道徳感情論」を本屋でざっと内容をみてみたり、「国富論」を読んでみたりしましたが、かなり難解で理解が難しそうだと思いました。
その難しそうな内容がかなり分かりやすく説明されていてページ数当たりの情報量もその分かりやすさも秀逸な本だと思いました。

・「アダム・スミス」と言えば「神の見えざる手」、レッセフェール、とにかく自由経済、というような印象を持っていましたが、「道徳感情論」に書かれている内容や「国富論」で書かれている自由経済の前提などを知ることができ、かなり誤解していたなと思いました。
アダム・スミスは経済学者というより前に哲学者だったのだと思いました。

序章 光と闇の時代

・アダム・スミスが生きていた時代の光の部分と闇の部分の概略とアダム・スミスの経歴が書かれていました。
変動の大きな時代に、影響を与えるような人物と交流が持てる環境で生きていたこともアダム・スミスが『道徳感情論』『国富論』のような大著を世に出すことができた理由になるのかなと思いました。

<Ⅰ 『道徳感情論』の世界>

第一章 秩序を導く人間本性

・他人Aが他人Bに対して行うことを見て自身が感じる「同感」と、自分が他人Aに対して行うことを見て他人Bが見て感じる「同感」と、それらの経験から培われて公平な感覚で感じる「胸中の公平な観察者」の形成、世間の称賛・非難と「胸中の公平な観察者」の称賛・非難のどちらを優先するかで「賢人(Wise man)」と「弱い人(Weak man)」に分かれることなど、一般に道徳とか良心などと言われることの根拠やその発生についての説明としてかなり具体的で面白いなと思いました。

・快さをもたらす慈恵と憤慨をもたらす正義について、どちらも有用ながらも、慈恵は良いものではあるが社会の基本にはなりえず、正義こそが社会の基本になることをうまく説明されているなと思いました。

第二章 繁栄を導く人間本性

・悲哀に対する同感と歓喜に対する同感について、歓喜に対する同感の方が望ましいこと、貧困や低い地位が悲哀に繋がること、富裕や高い地位が歓喜に繋がることから、人は皆前者に対して同感することを避けたがり、後者に対して同感することを望むという話は、実際の感覚では少し違うような気もしますが、野心と競争の起源とそれらによる発展を考える上で、面白い見方だなと思いました。

・富と幸福の関係の図(最低水準を満たせばあとは幸福量は変わらないという賢人の見方と富を増すほど幸福量が増えるとい弱い人の見方)と、財産への道と徳への道の二つの道についての話はかなり説得力があるなと思いました。
賢人でもある程度は財産への道で一定基準に達していないと幸福量が低いというのは現実的で面白かったです。

・野心や競争が社会の繁栄に死するということの条件に「フェア・プレイ」の精神が必要である、というのは道徳的な話だけでなく、繁栄のためにも必要ということでその重要性がよく分かりました。

第三章 国際秩序の可能性

・個人間の関係だけでなく、国際関係についてもそれぞれの国における「公平な観察者」があり、国ごとに一致する点と一致しない点があること、過ぎた愛国心と他国への偏見が理想的な状態からずれていく要因であること、「フェア・プレイ」の前提があれば貿易はそれぞれの国家にとっても有益であることなど、シンプルなモデルに整理されていて分かりやすかったです。
理想状態であって実現が困難であることは分かっていながらも、実現すると確かに戦争の意味もなく、平和な世界になりそうだと思いました。

<Ⅱ 『国富論』の世界>

第四章 『国富論』の概略

・「国富論」の各編の概略が書かれていてどのような内容が書かれているかのガイドラインに良い章でした。

第五章 繁栄の一般原理(1)―分業

・「交換」があるから「分業」が可能になる、というのはシンプルながら深いなと思いました。親族やごく狭い友人関係など以外でもそれぞれに利益がある「交換」が、「同感」によってその履行が担保されているというのは、しっかり根拠になるところから考えられていて興味深いです。

第六章 繁栄の一般原理(2)―資本蓄積

・資本蓄積により投入した資源よりも大きな成果を上げ、それを再投入する仕組みが生まれ、繁栄に繋がるというのは分かりやすい流れだなと思いました。
生産労働と不生産労働の分け方は極端とも思いましたが、かなり話が分かりやすくなる分類だとも思いました。

・個人の浪費と国家の浪費で、圧倒的に国家の浪費が繁栄を阻害するというのは、そのインセンティブからも確かにそうだなと思いました。

第七章 現実の歴史と重商主義の経済政策

・「フェア・プレイ」による経済こそが繁栄の源で、それを邪魔する独占や制限などが繁栄の邪魔をすること、その邪魔をすることで「フェア・プレイ」でなく他者を侵害してでも利益を得ようとする流れに植民地化や帝国主義、重商主義があったというのは、シンプルですが分かりやすい仕組みだと思いました。
図で本国・植民地・諸外国との関係が表されていて、どのように阻害されるかも分かりやすいなと思いました。

第八章 今なすべきこと

・アダム・スミスが国家間の関係はどうあるべきかにまで踏み込んで考えていて、イギリスと植民地アメリカとの当時の関係とあるべき関係の説明も具体的で明快な意見を持っていたのはすごいなと思いました。

終章 スミスの遺産

・理想論だけでなく、また悲観論だけでもなく、現実の関係性などを客観的にも主観的にも考えて見事な著作を世に出したこと、それは今直接理解にはできなくてもこの本を通してそのエッセンスに触れることができた私にとっても実りあるものだったなと思いました。

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