【激変! 中東情勢丸わかり】
宮田 律 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4022733977/
○序章 中東に翻弄される日本
・中東に原油輸入の9割近くを依存している日本。ペルシア湾の出入口であるホルムズ海峡(幅50キロにも満たない)を封鎖されると深刻な打撃を受ける。
・日本の対外方針は昔から場当たり的で定まっていない。(例えば、日本の対アフガン支援は軍閥に着服されていて政治腐敗の温床に)
⇒第一次石油危機(1973年)でもアラブ産油国から「友好国」とみなされず制裁措置が取られた。この時に日本のとった外交姿勢は「アラブへのアブラ外交」と揶揄された。
⇒第二次石油危機(1979年)では三井グループが手掛けていた石油化学プラント事業が撤退となった。
⇒日本のバブルは湾岸戦争(1990年)による原油価格高騰がきっかけで崩壊した。
・中東の激動は10年周期で起こるが、日本はどのタイミングでもうまく対処できていない。
・日本のイメージはそれほど悪くないが、米国重視などで若干悪化している。
・アラブ諸国では古い伝統を持つ日本の皇室に対して畏敬の念を持っている。(アラブの王室は20世紀に成立するなど歴史が浅い)
○第1章 中東社会の地殻変動
・イスラム教義が人口増加をもたらしている。(避妊の禁止。女性の社会進出の少なさ。子沢山が美徳(少なくても4人くらい))
⇒1990年代前半からイスラムの聖職者も避妊を訴えざるを得ない状況に。
・食えない不満が爆発⇒食料価格の高騰にインフレ率が追い付いていない。社会主義経験のあるエジプト等では所得格差による不満も問題に。
特にエジプトは農地面積が国土の3%で食糧需給率が5割程度。小麦は補助金を付して供給している。
・アブダビのマスダールシティ・・・「アブダビ計画2030」の一環。自動車がなく、CO2やゴミを排出しないことを目的とし、再生可能なエネルギー開発の研究注力する「マスダール工科大学」も設立される。
・イランのエネルギー構想・・・これまでガソリンを安価に供給するために政府補助金を付していた(2010年度は1000億ドル以上)⇒国内の交通手段は自動車、タクシー、バスしかないため。
・イスラム主義は資本主義を否定しないが、裕福なものが貧しいものに与える考えがある。(「喜捨(ザカート)」)
⇒政府がこうした配慮を欠いていると見られていることが民主化運動の重要な背景となっている。
⇒イスラム国家の放蕩な王族が特にイスラム主義から逸脱している。
エジプトの最後の王ファルーク王・・・他人の者でも欲しがる「バカ殿」⇒チャーチルの時計も盗んだ。さらに贅沢しまくって即位当時やせ形の体型から超肥満になって45歳で死亡。
イランの最後の王モハンマド・レザー・シャー国王・・・カジノやリゾートの経営。莫大な予算を使った式典を開催。
サウジアラビアのファハド前国王・・・2億ドルのヨット、1.5億ドルの自家用ジェットを保有。一夜にして数百万ドルカジノで負ける。スペインの保養地では1億8500万ドルで豪遊。
サウジアラビアのアブドラ国王・・・イギリスへ数百人の政府関係者と30人の妻とその関係者を連れて豪遊。
アブドラ国王の息子バンダル王子・・・兵器取引で賄賂。娘の新婚旅行に25万ポンドを取引先に払わせた。
取引先のBAEシステムズは10年以上にわたってバンダル王子に年間2.4億ドルを支払っていた。
チュニジアのベン・アリー大統領夫人・・・国外逃亡時に6500万ドル相当の金塊を持ち逃げ。
国内に50以上の豪邸を持ち、ドバイ旅行1回につき数千万円を消費。一族ごと特権を得て甘い汁を吸う。
⇒イスラム擁護者も腐敗している。
イランの革命防衛隊の幹部もカスピ海沿岸に豪華な別荘を構えたりスイス銀行に口座を持ったりしている。
またイラン経済を支配し、バザール商人の権益を脅かしている。
・欧米のご都合主義的「中東民主化」・・・民主化を唱える国は関係が円滑でないところ(イラク、イラン、シリア等)
独裁的なエジプトのムバラク政権や腐敗しているサウジアラビア王家は擁護していた。
・中東の政治指導者は武力で既存政府を打倒している⇒自分がまた打倒されることを恐れ、自己の安全確保に走る。
⇒また軍事知識は豊富でも政治の知識には疎い。⇒民衆の生活への意識が希薄。
○第2章 王政がドミノ崩壊を起こす?
・王政を揺るがすシーア派とスンニ派の対立
スンニ派がイスラム世界全体の9割を構成している。
但し、イラン91%、バーレーン70%、クウェート30%、UAE17%、サウジアラビア15%
・バーレーンはシーア派が多数だがスンニ派の王族が支配。王族はサウジアラビアの首長でスンニ派優遇。
湾岸諸国ではシーア派台頭を懸念する国家が多く、バーレーンのシーア派のデモに対する弾圧が強化されつつある。
・過激派が台頭するイエメン
2000年代からイスラム過激派による暴力事件が頻発。首都サヌアのホテルの入口でセキュリティーチェックも
サーレハ大統領の評判は悪い⇒アラブ諸国で最も貧しい国であるにもかかわらず豪邸に住む。
「アラビア半島のアルカイダ」が台頭。サウジアラビアで取り締まりが厳しくなり、イエメンに流入
海洋国家であり、「アフリカの角」ソマリアからも過激派が流入。
南北に分かれていて、統一された後に北が実権を握ったため、南で分離運動も。
サーレハ大統領はイスラム過激派をつかい、無宗教の社会主義者を暗殺。
・「砂漠の狂犬」リビア
1951年に亡命していたイドリース1世が帰国し、リビア連合王国を創始。
1969年にカダフィ大佐のクーデター、イスラム社会主義を掲げ、イスラム的方策を採用。
カダフィ大佐は「緑の書」を著してリビア国民全員に読むことを強制。
各地でテロを起こすなどの活動をしていたが、湾岸戦争以降には欧米との融和政策をとっていく。
・王政の奢侈に対する反発―サウジアラビア
18世紀にワッハーブ派(原始イスラムへの回帰を求める教理)とサウード家が手を組み、アラビア半島の統合。
基本法はシャリーアであり、国王の行為も適用対象となる。⇒イスラム主義により批判を受けやすい両刃の剣。
サウジアラビアの政変は世界の石油事情に大きな影響を与える。
・中東の風見鶏国家―ヨルダン
母親がイギリス人でイギリス育ちの国王による親欧米路線。国民の7割がパレスチナ人であるヨルダンがイスラエルと和平を結んでいることで国内だけでなく他のアラブ諸国からも非難を受ける。
○第3章 イスラム原理主義を超えたネット主義
・モスクからインターネットへ・・・普及率がそれほどでもない国でも若者の中に習熟している者が増えてきた。
・中東で頻繁に利用されるのは携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)。ネット普及率がまだ低いエジプトでも携帯普及率は高い。
・インターネットは規制が難しいメディア・・・政府の知恵より国民の知恵が上回る。
・インターネットが現代のイスラム共同体を構築・・・ムスリムの同朋意識を強める媒体に。
アラブの上位150サイトのうち宗教に関するものが50入る。
・衛星放送が中東で何千万人もの人たちに視聴されている。
・世界に影響力をもつアルジャズィーラにより国境を越えて情報が発信されている。
⇒インターネットや衛星放送により若者を中心に自国の矛盾を知ることができている。
○第4章 イラン VS イスラエル・アメリカ
・イランとイスラエルの対立状況悪化⇒イラン戦争が起これば国際的なテロがさらに助長される。
アメリカはイランに対する経済制裁を強化しているが、UAEのドバイが湾岸の闇経済のハブになり、対イラン制裁が空洞化されている。
・アメリカの対外援助額においてイスラエルに次いで多い第二位の国であるエジプトの政権崩壊によりアメリカの中東政策は不透明に。
また、エジプトかがパレスチナのガザ地区への物資輸送を制限していたが、それも解かれる事態に。
・アメリカのネオコン系シンクタンクである「イラン政策委員会」は圧倒的武力によるイラン攻撃を頑なに主張している。
・アメリカの軍事産業の上得意であるサウジアラビア・・・湾岸戦争時には軍事費が国家予算の70%に。
・イラン戦争が起これば、イランは機雷や戦闘用ボートの自爆攻撃、潜水艦の対艦ミサイルや大陸間弾道弾による攻撃等の手段を取り得る。
○第5章 日本と中国、存在感の差
・日本は石油の国内消費の9割を中東湾岸に依存している。(世界の原油生産に占める中東のシェアは4割)
⇒理由は地理的に最も近いこと。また硫黄の含有率が高いためその除去技術が必要となるが、日本は元々その除去技術が整備されており、割安で購入できること。
・日本のイランからの原油輸入は3位か4位で推移していたが、2010年に6位に転落した。(経済制裁のため)
⇒中国は経済制裁を歯牙にかけず、イランと提携。日本が開発していた油田も国有会社が獲得することに。