【日本の地方政府 1700自治体の実態と課題】
曽我 謙悟 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121025377/
○この本を一言で表すと?
日本の地方政治について多面的に分析した本
○よかったところ、気になったところ
・ページ数がそれほど多いというわけでもない新書ですが、あとがきで最初の草稿から分量を落として三分の二ほどにしたと書かれていたとおり、情報量が詰まっていて1.5倍の厚さでもおかしくない本だと思いました。
・「はじめに」で敢えて「地方政府」という言葉を使った理由が書かれていて、興味深かったです。
地方にも「政治」があり、中央政府と地方政府という関係は、海外の政治形態との比較でもわかりやすくなっているなと思いました。
序章 地方政府の姿―都道府県・市町村とは
・地方政府の全体像が数字とともに説明されていて興味深かったです。
数、予算、権限等がわかりやすい図で説明されていました。
・「政治制度」「地域社会・経済との関係」「中央・地方関係」「行政機構と住民」「地方政府間の関係」という五つの視点が提示されていて、この本の全体像が示されていました。
第1章 首長と議会―地方政治の構造
・日本の地方の首長と議会の関係を、首長が公選制であり、解任は議会が可能であることから、首相公選制・議会不信任つき大統領制とみなせること、議会による解任は首長による議会の解散をセットにできることから首長がかなり強いことが述べられていました。
・首長にも条例提案権があり、予算提案権は首長だけが持つため、アメリカの大統領よりも首長よりの権限配分なのだそうです。
第2章 行政と住民―変貌し続ける公共サービス
・首長による政治任用職が極端に少ないため、首長が外部のリソースに頼ることが多く、トップマネジメントが難しい組織になっているそうです。
・NPO法人の活用、PFIの利用等、公共サービスにおける民間の活用が進んでいるそうです。
第3章 地域社会と経済―流動的な住民の共通利益
・人口中心に語られる文脈が多い地方では、移動が制限されていないため、引っ越しや勤務先が居住先と異なる地方政府に属することで、納税先と公共サービスの提供元が不一致になったり、過疎化・過密化による偏りが問題になるそうです。
第4章 地方政府間の関係―進む集約化、緊密な連携
・地方政府間の合併や連携が進むものの、地方政府、特に市町村が担う業務で連携したほうが効率的でも設置場所に負担がかかるゴミ処理場等は住民の反対があったり、困難も多いようです。
・大都市制度が2012年に法制化されていたことを初めて知りました。
これがあったから大阪都構想などが住民投票まで持っていけたのだなと理解できました。
もし実現していたら日本のあり方も変わっていたのかも知れないなと思いました。
・指定都市は都道府県の権限をかなり移譲されているものと思っていましたが、それほどでもなく、また分野も限定的だなと思いました。
・市町村が先進事例への視察等で横並びになりがちというのはデメリットばかりではないものの、新たな動きをするには障害が多そうだなと思いました。
第5章 中央政府との関係―国家との新たな接続とは
・「機関委任事務」については2009年発売の行政法の本でも触れられていて、ほとんどが「法定受託事務」として残っていることが書かれていましたが、その経緯がわかって興味深かったです。
・中央・地方関係が明治以降様々な変遷を経てきたこと、変わらず残っていることもあること、小泉改革の影響が大きかったことなど、現代に至るまでの歴史的経緯は興味深いなと思いました。
・地方分権化が進むと同時に地方間格差の是正機能が弱まっているというのは、制度設計の問題でもあると思いますが、解決の困難な話なのだろうなと思いました。
終章 日本の地方政府はどこに向かうか
・著者の提示する考えるべきポイントの一つで、地方政府、特に市町村は政党政治が根付いていないために中央とのコミュニケーションが取れていない、としているのは興味深いなと思いました。
正常に機能する政党の効用が大事ということでしょうか。
・人口という量だけでなく質の面も考慮することが大事と書かれていました。
年齢層・経済層等が偏ることの弊害はわかりやすいですが、それでも大枠では人口という量で語られやすいのが問題なのだろうなと思いました。
・税の決定を地方政府が免れていることが問題としているのは、その問題認識すらあまり持たれていないような気がしますが、重要そうに思いました。
ただ、それを担う土台が今でもあまり築かれていないようにも思いました。