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【平成史】レポート

【平成史】
小熊 英二 (著, 編集), 貴戸 理恵 (著), 菅原 琢 (著), 中澤 秀雄 (著), 仁平 典宏 (著), 濱野 智史 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4309624502/

○この本を一言で表すと?

 政治を中心に平成に起こった出来事を見通した通史の本

○よかった点・興味深かった点

・昭和史の本は読んだので次は平成史・・・という軽いノリで選んだ本ですが、昭和に何があったかを前提として、それが平成ではどうなっているかが書かれていて、昭和から現代までの歴史的経緯を、この本で書かれている各分野について知ることができて良かったです。

・よく専門家、特に自称専門家の人たちが時代や潮流に応じて割と場当たり的に断言していたりすることを、その文献まで挙げて「時代や経緯はこうなっていたのに、この人はこんなことを主張していた」ということが書かれていて面白かったです。
いろいろな意見を主張するのは悪いことだとは思いませんが、責任ある立場にある人・著名な人が自分の発言に責任を持たないのはどうかと問題意識を持っていましたので、この本のように発言後のモニタリングができるようなものが出たことはいいことだと思います。

・各章末の註が充実していてよかったです。

・最後に添付されている「平成史略年表」はこの本を読んだ後に見るとよく整理されていて平成の出来事を一望できるなと思いました。

総説 「先延ばし」と「漏れ落ちた人々」

・イエスタ・エスピン=アンデルセンの「福祉レジーム」の三類型(自由主義、社会民主主義、保守主義)で日本は旧来の日本型工業化社会の構成部分は保守主義レジーム(共同体重視)、ポスト工業社会への変化に対応させられている部分は自由主義レジーム(自由主義と個人責任)が該当するという筆者の考えはうまく日本の状況と適合させているなと思いました。

・昭和の時代に問題がなかったのではなく、問題の認知が「周辺」において大きく遅れ、問題をどんどん「先延ばし」にして平成の時代に至り、メインストリームから「漏れ落ちた人々」が増大するというこの本全体のテーマがうまく書かれているなと思いました。

政治 再生産される混迷と影響力を増す有権者

・平成に入ってからの政治史は平成元年に自民党が参院過半数を獲得できなくなって連立が当たり前となり、平成五年に非自民の連立政権が誕生し、平成八年に小選挙区比例代表並立制が実施されて都市部が強くなり自民党の危機を迎え、平成十三年に小泉政権で自民党が巻き返し、平成十八年に小泉退陣から政権交代が続き、平成二十一年に民主党に政権交代、とかなり目まぐるしい動きだなと思いました。

・P.149の日本政治混迷の循環構造の図は現状をうまく表しているなと思いました。

・政策課題を先延ばしにする政治、というイメージはほとんどの有権者が持ち、だからこそ内閣も最初の威勢のいい状態では支持率がよくて、すぐに「また先延ばしか」と支持率が低下するのかなと思いました。

・支持率調査の手法はかなり恣意的なもので当てにならないのではと思っていましたが、手法を知ると、答えやすい・答えにくいのバイアスは残っているものの、自分が思っていたよりもまだ公平だなと思いました。

地方と中央 「均衡ある発展」という建前の崩壊

・地域政策の「空間ケインズ主義」「内発的発展」「都市圏立地政策」のレジーム区分は初めて知りましたが、なかなかうまく考えられた区分だなと思いました。

・日本は「空間ケインズ主義」で地域間の均衡ある発展が「信じられた」中で、実態は「都市圏立地政策」だったというのは、日本らしいやり方だなと思いました。
「表日本」「裏日本」という区分を名称だけは聞いたことがありましたが、人は表日本(都市圏)に集め、第一次産業や公害は裏日本(都市圏以外)に追いやると、国土政策に深くかかわった都市計画者伊藤善市が発言しているというのには率直過ぎて驚きました。

・夕張市の事例は前にも話を少し聞いたことがありましたが、事実関係を並べられると、なかなかとんでもない事例だなと思いました。
夕張市以降6年間、第二の夕張が出ると言われ続けて結局財政再生団体になった自治体はでていないということも、夕張市は突出した事例だったのだなと思い知らされます。
ただ、夕張市程でなくても似たようなことを小規模でやっているところはたくさんあるという筆者の言うことも同意できます。

・まちづくり運動の水脈の話の事例は、地域発展の解決策を全てこのような形で解決できるかどうかと言えば無理があると思いますが、志がある人が地域再生を成し遂げた事例があるという事実は何だか勇気づけられたような気がしました。

社会保障 ネオリベラル化と普遍主義化のはざまで

・日本の社会保障政策を生産レジーム(産業構造、労使関係、労働市場等)と再生産レジーム(家族形態、人口構造等)、ネオリベラリズム/普遍主義化、脱商品化/商品化、脱ジェンダー化/ジェンダー化、などの対立しあう概念を用いて説明されていて、どの政策にどれが当てはまるのかが俯瞰できてよかったです。

教育 子供・若者と「社会」とのつながりの変容

・日本の学校と企業を「何ができるか」より「どこに所属しているか(していたか)」を優先する「メンバーシップ主義」という概念で考えているのはわかりやすくてよかったです。
「学校と企業が成功しすぎた社会」という社会概念とそこからまだ抜け出せていない日本という表現も面白いなと思いました。
何年か前に就職・転職を支援する会社の人と話していて、「今でも企業はスキルを持っているよりも真っ新な新人を求めている」という話を聞いたことを思い出しました。

情報化 日本社会は情報化の夢を見るか

・情報化について取り扱ったこの章は、この本の他の章と比べて、少しトーンが違って面白い章だなと思いました。
もうちょっとこの分野についてのページを割いてくれてもいいのになと思いました。

・日本の情報化政策について、インフラ層とアプリケーション層に分けて考え、前者で成功し、後者で失敗しているとする著者の意見には全く賛成です。

・「タイムマシン経営」の話、「昼」の領域と「夜」の領域でインターネットはいまだ「夜」の領域に留まっている話をポスト工業化社会に対応できていないことと結び付けているのはうまいなと思いました。

国際環境とナショナリズム 「フォーマット化」と疑似冷戦体制

・「ピラミッド型」に対置するものとして「ネットワーク化」ではなく「フォーマット化」としているのは面白いなと思いました。
ネットワークのように繋がっているイメージではなく、アメリカの型を移植してもアメリカと繋がっているかはわからないというフォーマットの方が、実態に適合している気がします。

・古い考え方による兵器や人員に固執する今の防衛省の幕僚が、予算案を提出したときに「仮想敵国がどれくらいの兵器や人員を保有していると仮定しているか」を尋ねられて誰も答えられなかったという話は、確かに戦前の大本営と似たようなレベルだなと思いました。

・最近Yahoo!ニュースなどでよく見るネトウヨなどを含めた右派ポピュリズムについて、戦後三代目には戦争のリアリティが感じられず、「外交的配慮や現実性を欠いている」世代だとバッサリ切っているのは面白いなと思いました。

○つっこみどころ

・各章末の註が充実しているのはいいですが、註にも文献名だけではなくて各章に関わる内容が書かれていたりして、本文と註を行ったり来たりしてしまいました。
個人的には註を本文の下部やページ末に載せてくれていた方がよかったです(人によっては嫌がるであろうこともわかりますが)。

・「社会保障」の章はこれまでの政策を俯瞰できるところは良かったのですが、結論を要約すると「弱者のために政府は金を出せ」となっていて白けました。

・「教育」の章の対策について書かれている内容は、「漏れ落ちた人々」はどこまでも弱者だからとにかくうまくいくまでサポートしてあげなければならない、というように書かれていて、「そういった人たちをバカにしているのかな?」と思いました。