【多数決を疑う 社会的選択理論とは何か】レポート

【多数決を疑う 社会的選択理論とは何か】
坂井 豊貴 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4004315417/

○この本を一言で表すと?

 多数決を含む様々な社会的選択理論の知見を紹介した本

○よかったところ、気になったところ

・様々な社会選択理論についてわかりやすく説明されていて読みやすく、面白かったです。

・個人的に多数決で物事を決めることに違和感を覚えることが多く、一般的に唯一の決定方法だと認められていることから何となく納得できない感覚がありました。
この本を読んで多数決が妥当である条件や多数決以外の決定方法などを知って頭の中が整理され、いろいろ自分の中で納得できました。

第1章 多数決からの脱却

・自分の中での1位にのみ投票し2位以下には一切投票できない多数決というルールについて、アメリカ大統領選挙で三人目の立候補者が出たときには意見の似ている既存候補と票を食い合ってそれ以外の候補者の有利になること等、投票した者の意図とは異なった結果になることについてわかりやすく説明されていました。

・多数決の投票者の意図と結果の乖離に対する代替案の一つとして、スコアリングルールで全ての候補について点数をつける考え方があり、その中でも最も合理的なルールとして数学的に証明されているボルダルールが紹介されていました。
任意配点であれば1位に全てを投入することが有利になってしまうことから、任意の配点ではなく配点が固定されていることが重要なのだそうです。

・ボルダルールによる投票の結果を歪める方策として、「クローン問題」が挙げられていました。
候補を複数出すことで順位による配点の結果を歪めることができ、実際にボルダルールを採用している選挙でクローン政党を設立して自身の有利に繋げた例があるそうです。

・弱点はあるのかも知れませんし、常に導入できるわけではなさそうですが、ペア敗者基準(2者間で敗者である場合はその敗者は全体の勝者にならない)を満たすボルダルールは分かりやすく、導入しやすいルールであるように思えました。

・ボルダルールを日本の国政選挙に導入した場合は、小選挙区制では候補者を増やし、比例代表制ではダミー政党を設立することで最大与党に有利になりそうだと思いました。
政党政治には向かないルールかもしれないなと思えました。

第2章 代替案を絞り込む

・コンドルセがボルダルールがペア勝者基準を満たさない(2者間では勝者であるのに全体の勝者にならないことがある)ことを批判し、コンドルセの著作で主張し、ヤングが最尤法として再発見した「最も尤もらしい手法」として、正しい可能性が低い選択肢を棄却する手法が述べられていました。
「正しい可能性」の定義とそれによる選別などのデータ上の処理が大変そうですが、それなりに有効な手法であるように思えました。

・様々なルールが、それによってどのような結果になるかを含めて様々な基準で比較されていました。
棄権防止性や中立性なども考慮するとボルダルールが最も様々な基準を満たすと結論付けられていました。

第3章 正しい判断は可能か

・多数決の結果が正しい確率は、多数決に参加する人が多くなるほど高くなるという陪審定理が紹介されていました。
前提として「情報が適切に開示され、偏見や思い込みで判断しないことでコイントスよりも高い確率で正しい判断ができること」「投票者が独立した自分の意志で判断すること」が必要なようで、ある程度緩和できるとしてもなかなか難しそうだとも思えましたが。

・陪審定理とルソーの一般意志を結びつける考え方が述べられていて興味深かったです。
集団の一般意志に沿った結論が出ることとその手段が多数決であること、多数決で採用されなかった方に投票した者が「自分の投票は一般意志と違えていた」と多数決の結果に納得できることなどは理解しやすく思えました。
ただ、多数決の結果に納得ができず、多数決をよい方法と思えないのはこういった前提が満たされていないからなのだろうなとも思えました。

・ルソーが批判した代表民主制が民衆の意志に沿わない政策ミックスになってしまうことは、アメリカの選挙で民主党か共和党のどちらかの政策ミックスしか選べず、一部には賛成だが一部には反対する者の意志を満たせないことなどで実例があるなと思いました。
代表民主制と一般意志との噛み合わなさは、多数決の不適合さにも影響していそうに思えました。

・情報通信技術の発展から、ネット投票などで直接民主制の制度を導入できないかと考えたことがありましたが、国民全員が政治参加できるようになったときに、陪審定理の2要件を満たせるとはとても思えず、難しいものだなと思いました。

第4章 可能性の境界へ

・単峰性と中位ルールの話は感覚的に納得しやすく、参加者の意見の間を取るような「妥協」は多く見られそうだと思いました。

・アローの不可能性定理で、「二項独立性と満場一致性を満たす集約ルールは、独裁制のみである」というのは悲観的にも思えますが、理論的にどのような場合にも良いと思えるルールを理論的に設立することが困難ということが現れているなと思いました。

・コンドルセ・ヤングルールで棄却する必要のあるサイクルがない多数決の結果は63.2%を賛成が満たすことだと数学的に証明されているそうです。
日本の憲法改正の条件はこの63.2%を満たさず、改憲のハードルが低いと述べられていて意外に思いました。

第5章 民主的ルートの強化

・小平市の都道328号線問題を例として、住民投票の結果が過半数に満たないとして無視されたことを、立法権を代表者に預けてしまって大多数の人間が関われないことと、関係者の利害を総計した場合の結果が異なること、行政権・執行権力の強さなどから検討されていました。

・公共財供給メカニズム自体が再検討されていました。
都道328号線問題のように、無関係と思う者が大多数の中で投票すれば明らかに現状が動かない、現状が再検討されないことから、金銭面や環境面などの複数の便益を比較衡量してプラスになるかどうかという検討を加えるクラークメカニズムがよいのではと提案されていました。
クラークメカニズムを採用する手間や客観性・妥当性の担保が難しそうですが、現在の仕組みよりかなり良いように思えました。

○つっこみどころ

・第3章で多数派が少数派を抑圧した例としてルワンダ大虐殺が挙げられていましたが、ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊」などではフツ族間の格差による紛争でもあり、そちらの要因が大きかったと書かれていました。
フツ族によるツチ族の弾圧・虐殺という面もあると思いますが、一面的な採り上げ方だなと思いました。

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