【黄禍論と日本人 – 欧米は何を嘲笑し、恐れたのか】
飯倉 章 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121022106/
○この本を一言で表すと?
日本を表した諷刺画で近代を語る本
○面白いと思った点・考えた点
・諷刺画から日本を見ることで、国家レベル・政府レベルではなく、民間レベルでどういう考え方が受け入れられ、ウケていたのかがわかり、面白い視点だなと思いました。
第一章 諷刺画の中の日清戦争
・日清戦争前後では日本と清が一緒に皮肉られ、チビの日本人がデカい弁髪の清人をやっつけて、その周りでヨーロッパ諸国が観戦しながら漁夫の利益を得ようとしている図が多く、格下同士で序列が決まったという印象を持って書かれているなと思いました。
第二章 黄禍の誕生
・黄禍思想(黄色人種が白色人種をいつか脅かすことになる恐れ)はドイツ皇帝ヴィルヘルム二世が提唱し、日本だけが真に受けて他の国では笑いの種にされていたというのは面白いなと思いました。
ヴィルヘルム二世もドイツの権益のために東西両面に敵をつくらないために日本とロシアを対立させていという考えがあり、当時はドイツ国民が日本に対して悪い印象を持っていないこともあり、政治的な意味も込めて皇帝自身が主導して「黄禍の図」を作成したというのは、なかなか複雑な背景があるなと思いました。
第三章 「黄禍の図」のパロディと国際関係
・「黄禍の図」がいろいろな形でパロディの図が作られ、対立構造とその片側もしくは両側を皮肉ることに使われているのは面白いなと思いました。
第四章 疑似人種戦争
・「義和団事件」については、中国の民衆が立ち上がって清政府がそれに乗っかって列強がそれを潰したというように認識していましたが、欧米諸国からすればキリスト教徒迫害に対する報復というイメージを持っていて、日本も中国におけるキリスト教の保護者として位置付けられていたというのは初めて知りました。
第五章 異人種間の同盟成る
・国際的には孤立していた立場からイギリスと同盟を締結し、アメリカとも友好関係を持ってロシアと対立するという構図がうまく書かれた諷刺画がありました。
やはりイギリスとアメリカは強国で日本はそれに付随するオマケ国というように描かれています。
第六章 黄色人種と白色人種の戦い
・日露戦争後に日本の印象が大きく変わり、日本にも学ぼうとする姿勢の絵と、日本を怪物として見る絵があって、それぞれ日本に対する見方の典型的なパターンだったのかなと思いました。
第七章 移民紛争から戦争論へ
・アメリカにおける日系移民排斥運動はアメリカ全体としての態度を表しているようなイメージを持っていましたが、それは日本でそういう解釈をされていただけで、アメリカ側ではサンフランシスコだけでそういう強硬な姿勢があり、アメリカ政府としてはその仲裁を試みて失敗していたり、日本で過剰に解釈されることになった原因は東洋人向けの学校への集約(日本人も中国人もまとめる)が原因だったというのは、単純で感情的な経緯が大きく膨らんだような経緯だなと思いました。
第八章 甦る黄禍のイメージ
・第一次世界大戦における日本の参戦とドイツが租借していた山東半島への侵略が火事場泥棒として受け止められている絵や、アジア地域におけるイニシアティブを握った日本に対して欧米諸国が媚びている絵、日本が中国の権益を一人占めに仕様としている絵、日露戦争直後に日露同盟を締結した日本を揶揄する絵など、欧米諸国の日本に対するイメージがわかるような気がしました。
全体として、日本がある意味では欧米諸国と国力の上では対等であるように見られているような印象を受けました。
第九章 人種平等への萌し
・国際連盟における五強国の一国となった日本が国際連盟の規約に人種差別撤廃条項を盛り込もうとして受け入れられなかったことが、欧米諸国で諷刺画にされているのは、ある意味では日本の言い分にも一理はあると認められているような印象を受けました。
○つっこみどころ
・タイトルや帯から「異形の日本観」「虚像と実態のギャップ」などが衝撃的に書かれているものと期待して読みましたが、そこまで目新しいことが書かれているわけでもなく、この本に対する虚像と実態のギャップを味わいました。