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【武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新】レポート

【武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新】
磯田 道史 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4106100053/

○この本を一言で表すと?

 幕末から明治までを生き抜いた猪山家の家計簿を通した日常を描いた本

○よかった点

・この本を購入したときは映画化されたことが帯に書かれてあったので小説のような本だと思っていましたが、読んでみると、著者が手に入れた猪山家の家計簿や日記などから猪山家がどのように危機を乗り越えてきたのかということと、下級武士であった猪山家を通して当時の武士の収入・支出がどのようなものであったかが見事に書かれていて期待以上に面白かったです。

第一章 加賀百万石の算盤係

・算盤と筆で身を立てた猪山家と、算盤を重視していた加賀藩の背景が書かれていて面白かったです。算盤が小人のするものとして貶められながらも、藩主の近くで記録を取るという重職に位置づけられていたというのは建前と実用がうまく使い分けられているような気がしました。

・猪山信之が今の東京大学の赤門を建てることに尽力して領地を賜ることになったというのは現在にも残された象徴的な建築物に加賀藩の下級藩士が関わっていたということが今でも確かめることができて面白いなと思いました。

・武士が自分の領地がどこあるかすら把握していなかったという話には驚きました。

第二章 猪山家の経済状態

・猪山家が領地をもらうことで逆に収入が減ったという話は意外に思いましたが、俵当たりの米の量の違い、と一石の量との比率で考えてそうなると示されていてなるほどと思いました。

・現在価値(米の価格)と現在感覚(人間の賃金から見た価値)の二つの尺度で武士の収入がどれくらいであるかを現在の金額に置き換える試みは面白いなと思いました。

・猪山家は現在感覚で見ると世帯収入が1,000万円を超えるにもかかわらず借金に追われていること、その借金は商人からのものはほとんどなく、下級武士は親戚や領地の者から借りることがほとんどであることなど、借金の貸元まで追求していて面白かったです。

・なぜ借金が重なるかという理由について、武士は身分収入より身分費用がかなりかかることが、各儀式にかかった費用を猪山家が全て記録していたおかげで明らかになっていてなるほどなと思いました。

・藩の用事で費用が必要でも、金のかかる江戸詰めになっても、自分の収入から賄わなければならないというのは、会社員が海外出張だろうが旅行費用や宿泊費用は自分の金で賄えと言われるようなもので、なかなか大変な話だなと思いました。

・借金の利息だけで収入の3分の1が飛ぶような状況で、猪山家が一念発起して家財を徹底的に売り払い、貸元と交渉して借金の清算と利子の免除を成し遂げたのは、当時としてはすごい才覚だったのではないかと思いました。

第三章 武士の子ども時代

・武士の子どもにかかる費用が細かく書かれていましたが、生まれる前からお金のかかる儀礼があり、成人するまでに十を軽く超える儀礼を経なければいけないというのは、今の教育にお金をかける家庭よりも大変だったのではと思いました。

・猪山家が生活の糧として算盤と筆を生まれた男子に徹底的に学ばせて、成之が満十一歳七か月で働き始めることになったというのは、すごい話だなと思いました。

第四章 葬儀、結婚、そして幕末の動乱へ

・葬儀にかなりのお金をかけること、葬儀費用を賄う香典はほとんど親戚頼りであること、イトコ結婚が多かったこと、婚約から結婚までの中間時期が置かれることが普通だったことなど、当時の武士の生活が見えてきて面白かったです。

・幕末動乱期では有名な藩の動きしか知りませんでしたが、加賀藩が最初幕府側につこうとして、つく前に幕府軍が負け、半端な位置づけになってしまったこと、猪山成之が加賀藩の藩兵のための兵站を一手に担い、元加賀藩士の安達幸之助から推薦されて長州軍を率いた大村益次郎(村田蔵六)に推薦され、官軍の会計責任者になったというのはすごい話だなと思いました。

第五章 文明開化のなかの「士族」

・明治になって士族がどうなっていったか、猪山家とその分家の様子で興隆した家と没落した家に分かれたこと、その理由の一つとして、家柄や役職が世襲で食っていけたところが没落し、算盤などの実力で食っていけたところが興隆するところは、今の時代の学歴だけで食っていけるか、実力で食っていけるかに繋がるところがあるのかなと思いました。

第六章 猪山家の経済的選択

・士族が領地を持っていた立場であるのになぜ地主にならなかったのかが、領地買い取りの費用などの経済的な面で説明されていて説得力があるなと思いました。

・猪山家が財産運用に貸家を選択し、後に株式が安定してきた時にそちらにも投資し始めたというのは、会計で家を守ってきた一族の知恵だなと思いました。

・猪山成之が死ぬ前に家計簿を整理し、それが著者のところにしっかりまとまった形で手に入ることになったことも、これまで読んできた猪山家らしい話だなと思いました。