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【言語の社会心理学 – 伝えたいことは伝わるのか】レポート

【言語の社会心理学 – 伝えたいことは伝わるのか】
岡本 真一郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121022025/

○この本を一言で表すと?

 言語の用途を社会学的、心理学的に日常に照らして分析した本

○面白かったこと・考えたこと

・タイトルからすると、言語学・社会学・心理学を複合した難しい本かなと思いましたが、平易な文章で「言語」を分析することで人間関係やコミュニケーションを分析するという考え方が説明されていて、読みやすく、そして面白い本でした。

第1章 「文字どおり」には伝わらない

・コミュニケーションには道徳的コミュニケーションと自己充足的コミュニケーションがあり、前者は情報を伝えて目的を遂行するためにするもので後者は感情を表明することが目的となるもの、そして実際にはどちらのコミュニケーションの意味も含めて行われ、その配分の違いであるというのは分かりやすい話だなと思いました。

・チャネル(コミュニケーションの個々の手段)には言語と非言語のものがあり、言語チャネルには恣意性(音と表す者の間の関係が恣意的に決められる)、二重の分節性(語と音に文節している。分節性があるから全ての言葉を丸暗記せずに、組み合わせでコミュニケーションが取れる)、生産性(二重の分節性により、これまでに言語で表現したことがないことを表現できる)、意図の介在(内容を伝えようとする意図「情報意図」と情報意図があること自体を伝えようとする「伝達意図」)があるというのは、当たり前に使っている言語の性質をより深く知ることができたように思いました。

・非言語チャネルの種類の多さと、非言語チャネルがチャネル全体の93%という誤解(元になったメラビアンの法則は矛盾した感情を伝える場合かつ特殊な実験状況で言語が7%になったもの)についても整理されていて分かりやすかったです。

第2章 しゃべっていないのになぜ伝わるのか

・共通の基盤があることによるコミュニケーションのショートカットについての話、グライスの会話の協調の原則(量の格率、質の格率、関係の格率、様式の格率(不明瞭な表現を避け、曖昧さを避け、簡潔にして、順序立てる))、3つの推意の話「Q推意(限定推意)」「I推意(拡張推意)」「M推意(様式推意)」などの話はどれも分かりやすく、自分自身も周りも使っていることが整理されていてよかったです。

・P.56のコードモデル(受け手の伝達したい内容⇒コード化⇒メッセージ⇒コード解読⇒伝達される内容)はよく知っていて人に説明することもありましたが、P.57の推論を含んだモデルはコードモデルで説明できていない共通の基盤や事態、受け手から送り手への意図の推論が含まれていてより現実に即しているなと思いました。

第3章 相手に気を配る

・ポライトネス理論のポライトネス(礼儀正しさ)を決める式「Wx=D(S,H)+P(H,S)+Rx」(Sは話し手、Hは聞き手、D(S,H)は話し手と聞き手の距離、P(H,S)は話し手より聞き手の方が勢力がある程度、Rは文化的行動の影響)はかなり分かりやすい式だなと思いました。相手の呼び方、お礼、謝罪、挨拶などにこのポライトネスの程度が影響していることを分析して結果を出していて、国ごとや事例ごとにこういった分析ができるというのはかなり有用だろうなと思いました。

第4章 自分に気を配る

・自己開示の対象となる自己の種類を「精神的自己」「身体的自己」「社会的自己」に切り分けて考えているのは確かに自己開示する側・される側のそれぞれの関係によって、開示するそれぞれの自己が違ってきそうだなと思いました。

・自己開示の一部として扱われる自己呈示の手法の中で、「自己宣伝」「取り入り」「栄光浴」が紹介されていますが、自分が所属する団体やその団体に所属する他人の栄光から自分も栄光を受けたように感じる「栄光浴」が、自分が不利な立場に置かれた時ほど出やすいというのは人間の心理としてわかりやすいなと思いました。

・「セルフ・ハンディキャッピング」の原理は前にも聞いたことがありますが、「主張的セルフ・ハンディキャッピング」と「獲得的セルフ・ハンディキャッピング」という分類は初めて知りました。「主張的セルフ・ハンディキャッピング」は予め自分にハンディがあることを主張すること、「獲得的セルフ・ハンディキャッピング」は自分にハンディを実際に作り上げてしまうことと切り分けているのは分かりやすいなと思いました。どちらもよく目にしますが、「獲得的セルフ・ハンディキャッピング」は本当に非建設的だと思います。本人は自己防衛策として重宝しているのかもしれませんが。

・コンピュータを介したコミュニケーションの話はいかにも新しい分野だなと思いました。電子上の自己開示、自己呈示と体面上のそれとの違い、電子上の「自己創出」という話は、インターネットに触れている身としてよく分かる気がします。

・自己卑下についての分析は日本人とイギリス人の比較でいかにもな日本人らしさが実証されているなと思いました。

・共通語と方言で与える印象の違いを分析し、その結果が有意に出ているのは面白いなと思いました。

・余分な情報をつけ加えることで逆に情報の信頼性が疑われる話、意見を押し付ける人の話は、事例も分かりやすく、周りでよく目にするのでこれまた分かりやすかったです。

第5章 対人関係の裏側

・フラストレーション(人が何か目標を達成したいのにそれを邪魔された状態)で攻撃的感情が生まれ、攻撃的行動をとることで攻撃的感情が解消される(カタルシス)という「フラストレーション―攻撃仮説」は分かりやすい話だなと思いました。その攻撃方法(直接伝える、遠回しに伝える、ゴシップなど)も日常に溢れていて分かりやすいです。

・皮肉をコミュニケーションの不誠実性(プラスの行為をマイナスの意図で行う)としているのは構造的にわかりやすくなっていいなと思いました。

第6章 伝えたいことは伝わるのか

・誤解の種類が分かりやすく挙げられていました(聞き間違い、意味や概念の取り違え、数量の曖昧さ(少し、たくさん、など)、指示語(それ、あれ、など)、推意、対人配慮)。誤解の大きな原因として「透明性錯覚(自分の感じていることや考えていることが、実際以上に相手にわかっている、と推測する錯覚)」があると書かれていて、自分も含めてこの透明性錯覚は常に存在し、伝わっている・伝わっていないの誤解、伝わっている程度の誤解などが多く生まれそうだということが実感として納得できます。

終章 伝えたいことを伝えるには?

・第1章~第6章の基礎的な話から、日常にどう応用するかということがまとめられていました。共通基盤を予め明確にすること、相手からのフィードバックに非言語的チャネルを利用すること(ただし、うなずきを理解している証拠と思いこまない)、専門用語の使い過ぎに気を付ける、易し過ぎる言い方も誤解を招く、人を待たせる時間は長めに言う、ため口には丁寧に対応することで自覚を促す、自分の「なわ張り意識」に気を付ける、怒りはためこまずにうまく表現する、謝罪はまとめて行う、余計な弁解はやめる、透明性錯覚を避けるために立ち止まって相手の立場を考える、など。最後の透明性錯覚を避けるために、相手の立場に立ち、時間をかけて熟慮をすることの必要性は、自分にとって大事な人が相手だと殊更に必要なことだと思いました。