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【流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則】レポート

【流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則】
エイドリアン・ベジャン (著), J. ペダー・ゼイン (編集), 柴田裕之 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4314011092/

○この本を一言で表すと?

 熱力学から物理学、生物学を統合する理論を打ち出し、それを人文系にも展開した本

○よかった点、興味深かった点

・物理学、生物学、デザインなど多岐に渡る分野をコンストラクタル理論という一つの理論で説明するというのはかなり野心的な取り組みで壮大だなと思いました。

・自然の川や稲妻などと肺の構造や樹木などが似ていることは見た目では結構な人数の人がそう思っていそうですが、それを理論立て共通する必然性を実際に見出しているのはすごいなと思いました。

・全てのものが効率性に沿うため、樹木構造を選ぶという例が物理的な根拠とともに説明されていてなかなかの説得力だと思いました。

第一章 流れの誕生

・著者が熱力学を工業デザインに活かそうとする分野を専門としている背景と、そこからエンジンや水の流れの構造を説明していました。

・閉鎖系や開放系のシステムの話や水の流れの中の流木が受ける力の話など、物理学に詳しくなくても何となく理解できる(気がする)内容が書かれていて勉強になりました。

第二章 デザインの誕生

・著者が取り組んだエンジンの冷却について、その冷却効率を追求しているとコンストラクタル法則に行きついたというのは、実践が理論を導き出し、理論が実践を保証する、「開発」の流れに沿っていて面白いなと思いました。

第三章 動物の移動

・飛ぶ動物、走る動物、泳ぐ動物の動きを物理的に解析している図はかなりわかりやすくて面白かったです。

・飛ぶ鳥が落ちながらまた上がっていて、決してまっすぐ飛んでいないということと、走る動物もほとんど同じというのは図で示されてようやく納得できる内容だなと思いました。

・エネルギーを供給する機関とエネルギーを使用して動く機関の相関関係、効率を追求する性質はよく納得できる内容でした。

第四章 進化を目撃する

・スポーツ選手の属性を足の長さと胴の長さで考えて、陸上スポーツに向いているか、水泳に向いているかを分析し、足の長さと陸上スポーツの記録、胴の長さと水泳の記録の相関関係が統計的に有意というのは面白いなと思いました。

・足の構造が歩くこと、走ることに力学的にも向いているというのは、人間以外の動物だけでなく、人間も含めてそう言えるというのは、人間の運動能力(足の速さなど)は他の動物に劣っていると思っていたので意外でした。

第五章 樹木や森林の背後を見通す

・樹の構造が根・幹・枝等のどの部分をとっても効率的な構造になっているということ、水を吸い上げて拡散させるシステムとしての効率が実現されているということなどは、樹を生命として見るよりスプリンクラーのような水を動かすための複雑なホースとして位置付けられているようで、自然讃美者に反論されそうですが興味深い考え方だなと思いました。
その流れで森林全体もその効率に即した配置になっているというのも、森林は日照の関係で植生が決まる絵を理科の教科書で見ていたので不思議な気がしました。

第六章 階層制が支配力を揮う理由

・人の組織が階層構造になること、王制や民主制などそれぞれの段階の国家や軍隊などで部署の長ができることを「コンストラクタル理論に基づく」と書いているのはかなり論理の飛躍が見られますが、樹木の所で書かれていた1つの本流に対し4つの支流の話は軍隊の五人部隊で一人が伍長、四人が部下という仕組みや、江戸時代の五人組で一人が組長という仕組みと一致しているなとも思いました。

第七章 「遠距離を高速で」と「近距離を低速で」

・コンストラクタル理論の基本的な主張「遠距離を高速で」と「近距離を低速で」の組み合わせで、最も効率的な構造が選ばれるということが、犬が走りと泳ぎを併用して目的に向かう場合と空港の徒歩と鉄道の利用とローマ帝国時代のローマを例に書かれていました。
幹線道路と支道の関係などは考えてみれば納得できるところもあるなと思いました。

第八章 学究の世界のデザイン

・大学の序列や高校のバスケットボールの序列について「コンストラクタル理論」で説明していました。理論が妥当かどうかはともかくとして、説明に使われている統計の結論は興味深かったです。

第九章 黄金比、視覚、認識作用、文化

・縦と横の比率が3:2に近い状態になっているときになぜ「心地よさ」を感じるか、それを縦・横に視線を動かす時の負荷が、目が横に並んでいる以上横向きの方が強いことなどが説明されていて面白いなと思いました。

第十章 歴史のデザイン

・地球の環境全体が太陽エネルギーを循環させる仕組みと考えて「流れ」で現在を見ることや進化の歴史を見る視点は前の章でも解説されていましたが斬新だなと思いました。

○つっこみどころ

・紙と鉛筆で樹上構造になることを導き出したり、物理的な要素を検討したコンピュータのシミュレーションで樹上構造が導き出されたりしたとところどころで書かれていますが、そのシミュレーションの具体的な内容が示されていないのは「一般的」な内容の本だからでしょうか。

・ダーウィン進化論とその流れにある自然選択や適者生存を否定していますが、「コンストラクタル理論に沿うように変化していく」というのも経過を見ればそういった理論に沿ったものが生き残るということで、進化論の系譜に組み込まれそうな理論だと思いました。

・解説でこの本が一般向けに書かれた本だと書かれていましたが、かなり難解な本であったように思います。
一般向けじゃない著者の論文等はどれだけ難解なのか怖くなりました。
あと、その解説自体が一般向けではなく、理系じゃない読者に優しくない内容でした。

・第六章で社会階層の成立自体がコンストラクタル理論に基づくと書かれていて、その例として会社組織や政府などが例に挙げられていましたが、強引過ぎて説得力が感じられませんでした。

・第六章の「ランク」など、用語の説明がされないままに図に使われ、本文でも使われていているところがいくつかあり、かなり分かりづらかったです。

・コンストラクタル理論自体の具体的な説明がないままで「全てはこれで説明できる」と断言していて、物理学・生物学から離れた分野についてはほとんど同意できない内容が多かったです。