【VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学】レポート

【VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学】
ジェレミー ベイレンソン (著), 倉田 幸信 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4163908846/

○この本を一言で表すと?

 VRで何ができるのか、何が変わるのかを事例と研究を基に述べた本
 

○よかったところ、気になったところ

・VR技術の可能性、他の技術と何が違うのか、何が変わるのか等を事例を基に学べてよかったです。

・以前読んだ「日経テクノロジー展望2019 世界をつなぐ100の技術」に載っていたVRの事例が結構出ていました。
「日経テクノロジー展望2019」はこの本やこの本に出てきた事例を基に掲載していたのかなと思いました。

序章 なぜフェイスブックはVRに賭けたのか?

・フェイスブックのマーク・ザッカーバーグが、オキュラスを20億ドルで買収する数週間前に、著者の研究室を訪れてVRを体験したそうです。
著者の研究室はVR設備では世界一の水準を誇っているそうです。

・SNSであるフェイスブックと、VRのハードとソフトを開発するオキュラスの結びつきが、買収のニュースを聞いたときにはイメージできませんでしたが、この本でVRがコミュニケーションに与える影響について学ぶと、なるほどなと思えるようになりました。

第1章 一流はバーチャル空間で練習する

・NFL(全米フットボール連盟)のアリゾナ・カーディナルのQBが、VRを活用して練習したことでかなりの結果を出せたこと、他者の息遣いなども含めて再現することで、効率的な練習ができたことが書かれていました。

・災害体験のVRで、VRだと知っていても、体験したTVキャスターが全速力で逃げ出し、危うく壁に激突するところだったことなどが書かれていました。

第2章 その没入感は脳を変える

・VRが脳に与える4つのリスクとして、「暴力の行動モデリング」「現実逃避」「過度の利用」「注意力の低下」が挙げられていました。

・VRは再現度が低いとすぐにVR酔いになるそうです。
ハードの性能が追いつかない場合はフレームレートが落ち、すぐに酔ってしまうようです。

・25時間連続でVRをプレーした者が現実とVRの区別がつかなくなり、現実が上っ面に見えてしまうようになったそうです。

第3章 人類は初めて新たな身体を手に入れる

・難民や高齢者のアバターを使ったVRで、ニュースや文献などで知るよりも没入感を伴う共感を得ることができるそうです。
ダイバーシティ研修などでも活用できるそうですが、VRの実験で人種的先入観を強化してしまう結果が出たこともあるそうで、導入に注意が必要だと思いました。

第4章 消費活動の中心は仮想世界へ

・リサイクル紙の利用による資源の保全、シャワーを使うことによる石炭の消費についてVRでそのダメージを体験してもらうソフトや、すぐには結果のでない目に見えない海洋酸性化問題を実際にダメージを受けつつある環境の動きを見せるVRなど、環境問題を体感させることでそれまで無関心だったり反発していた人たちが共感するようになったそうです。

・VR上のツーリズム等による消費、VR空間での購買消費などは、今後かなりの速さで増加していく可能性があるそうです。

第5章 2000人のPTSD患者を救ったVRソフト

・9・11同時多発テロで多くの人々がPTSDに苦しみ、なかなか治療されなかったそうですが、9・11同時多発テロを追体験するVRソフトで忘れていた記憶を取り戻し、回復していく人がでてきたそうです。

・PTSDに苦しむベトナム帰還兵やイラク帰還兵に対し、1990年代に戦争ゲームを現地の映像に改良したソフトで治療を試みて成功した事例が既にあるそうです。

第6章 医療の現場が注目する“痛みからの解放”

・VRで「うわの空」状態になることで、苦痛を和らげる実験で、様々な年代の患者が、苦痛を伴う治療やリハビリで痛みを忘れてVRを楽しんだり、通常は痛みで達成できないタスクをこなすことができたそうです。

・人間と構造が異なるロブスターになって体を動かすソフトや、第三の腕を動かすソフトなども開発され、訓練でこれらを問題なく動かせるようになったそうです。

第7章 アバターは人間関係をいかに変えるか?

・ビデオチャットだと、情報量が多すぎるため、どれほど通信速度が向上しても限界があるそうです。
人だけでなく、周りの物等も同じ精度で流すため、どうしても情報量の増加は避けられないそうです。

・アバターによる通信だと、通信する情報量をかなり制限することができ、アバター作成ツールが必要とする情報のみを流し、基本はローカルのソフトが形成することで成り立つため、こちらが主流になると書かれていました。
あるべき姿だけを見せられる、という効能もあり、コミュニケーションツールとしてはアバターを介するほうが好ましいとも書かれていました。

・通信される情報量が大きすぎるZoomも含めたビデオチャットは近いうちに廃れるであろうと書かれていました。

第8章 映画とゲームを融合した新世代のエンタテイメント

・VRはゲームでも映画でも、ストーリーを表すのには向いていないため、別の技術とのすみ分けがされるだろうと書かれていました。

・映画でもゲームでも、VRだと費用がかかりすぎ、また没入感を味わうことと全員が同じ時間で体験することは両立しないそうです。

第9章 バーチャル教室で子供は遊ぶ

・セサミストリートはテレビを教育ツールにするという画期的な試みでもあったそうですが、同様の効果を発展的に狙う趣旨でバーチャル社会見学、バーチャル歴史体感などが考えられているそうです。
しかし、それらのツールの開発には膨大な資金・時間・労力が必要になるのだそうです。

・没入型VRがユーザーの動作を読み取り分析できる能力を使い、1対多でも生徒の反応に応じて対応するVRを介して1対1のように行う授業なども考えられるそうです。

第10章 優れたVRコンテンツの三条件

・VRコンテンツの3つの指針が述べられていました。

・「それはVRである必要性があるのか」と自問することが重要だそうです。
その経験を実際に行うことが「不可能」「危険」「高価」「望ましくない結果を生む」のどれかに当てはまる場合はVRを使うのが適切ではないかと述べられていました。

・「ユーザーを酔わせてはならない」ということが重要だそうです。
急激な視点変更や体感覚とVR上の間隔の乖離が酔うことにつながるため、そうさせないこと、その解決策を検討するべきだと述べられていました。

・「安全を最優先する」ということも述べられていました。
著者の研究室では著者やスタッフがVRを体験中の人にずっと付き添っているために事故が起きていないそうですが、一般家庭に普及したVRにそうした監視役をつけられないこと、数件の事故でもVR革命を潰すことにもなりかねないことが述べられていました。

○つっこみどころ

・翻訳本あるあるで、それほどひどくないものの、邦題が副題も含めて内容と一致していないように思いました。
原題を直訳すると「経験オンデマンド:VRとは何か、どのように機能するか、何ができるか」でしょうか。
邦題の「VRは脳をどう変えるか?」は第2章の中の一つの節で出てきていますし、副題の「仮想現実の心理学」は著者が心理学の教授で、心理学の内容も扱っていますが、邦題も副題も本の内容の一部しか表していませんでした。

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