【アンドロイドは人間になれるか】レポート

【アンドロイドは人間になれるか】
石黒 浩 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4166610570/

○この本を一言で表すと?

 ロボット開発者の研究開発録と人間観の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・著者のことを知らずにこの本を読み始めましたが、かなりの規模のプロジェクトに自由な発想で取り組んでいて、こういったアプローチだけでも駄目でしょうが、通常のアプローチではできないものが出来上がりそうだなと思いました。

・著者のパーソナリティ自体が独特で、その考え方から見た物事の理解が自分とは違う視点で面白いなと思いました。

・全体として「心は想像の産物」という著者の観点から述べられていて、ロボット開発の上でも、「人間に似せる」という方向ではなく「人間がロボットを人間らしく感じる」という方向に特化して、人間の仕組みからは離れていることが興味深かったです。

第1章 不気味なのに愛されるロボット―テレノイド

・だれもが不気味と思えるテレノイドをなぜ不気味と思うかの説明で、「不気味の谷」というヒトに酷似していたり、ヒトに一定部分が似ていたりするときに起こる感覚について述べられていましたが、なるほどと思いました。
知覚の対象であるモダリティに2つ以上訴えかけることで強烈な印象を与えるということで、テレノイドが「見た目と声」、ハグビーが「触感と声」に訴えかけているという話で、テレノイドは想像だけでは不気味という印象しか持てなかったですが、ハグビーはかなり納得性があるなと思いました。

第2章 アンドロイド演劇

・「人間がロボットを人間らしく感じる」ことを、ロボットだけでなく演劇という仕組みで達成したというのは面白い取り組みだなと思いました。
ロボット自体ではなく、背景・文脈を含めてロボットに人間らしさを感じるプロセスが良く分かった気がしました。

第3章 対話できるロボット―コミューとソータ

・「対話する」ということを「相手の話したことを理解して話す」という一般的な、しかしロボットにさせるにはかなり難易度の高い前提を外して、「人間もそれほど相手の話を理解しているわけではない」という観点から2台のロボットに予めプログラミングされた他者を巻き込む対話をさせ、その他者が会話に参加していると感じさせるというのは意外なアプローチで、実際に対話している感がありそうだなと思いました。

第4章 美人過ぎるロボット―ジェミノイドF

・ロボットが人間に似ていることより、逆に曖昧な部分を残すことで見る人が想像で補完して美人と解釈するというのは面白いアプローチだなと思いました。
別の本で人の他者の認識自体がかなり曖昧で、丸と線のパターンで認識していると書かれていましたが、その意見とも一致しているように思いました。
障害者の性処理の介助をするセックスボランティアという触れにくいテーマに切り込み、その分野にロボットを使えばいいという意見などは、かなり反対意見も多そうですが興味深い考えだなと思いました。

第5章 名人芸を永久保存する―米朝アンドロイド

・落語家の米朝のアンドロイドを開発し、米朝の落語を再現するということが実際に行われたということに驚きました。
その米朝アンドロイドに米朝の弟子が緊張してしまうということから宗教の教祖に話を展開したり、遺族に生前の姿を残すものとして考えたり、発想が面白いなと思いました。

第6章 人間より優秀な接客アンドロイド―ミナミ

・アンドロイドと接することは、人と接するよりも緊張しないということ、その理由として内心何を考えているかわからない人間と内心自体が存在しないアンドロイドの違いが挙げられていました。
色の組み合わせなどのアドバイスをプログラミングされているアンドロイドの意見は、バイアスがかかっていないと判断され、その意見どおりに納得して購入してしまうというのも興味深いなと思いました。
人がロボットを信用し過ぎていることから、そのことを利用する犯罪等が考えられることも、なるほどと思いました。

第7章 マツコロイドが教えてくれたこと

・身体に似た機構、義足等や自分が操作するアンドロイドなどが受けた刺激を自分が受けたように感じてしまうということと脳の仕組みが関連付けられていて、なるほどと思いました。

第8章 人はアンドロイドと生活できるか

・人間の価値について、交通事故死の数と車の利便性が天秤で図られ、車の利便性が選択されている社会などに触れ、人間の価値が常に優先されているわけではないことに触れていました。
アンドロイドが人の代替として仕事をすることに危機感を覚えることと、「人間の価値」の感じ方の関わりについても述べられていました。

第9章 アンドロイド的人生論

・著者自身の考える人間の価値について、「人間にしかできないこと」を考えるというのは、違った方向からですが自分自身も考えたことがあり、一致しているのが面白いなと思いました。

○つっこみどころ

・著者の話した内容をまとめる形式だからか、雑談特有の話の飛躍等があって、論理的に繋がっていないまま話が大きくなったりするところなどが気になりました。
どこまでが事実か、検証されていることか、などがあやふやなのも気になりました。そういったことにこだわらないからこその内容でもあったのでマイナスだけではないですが。

・おそらく著者がそれほど興味を持っていないと思われる宗教や戦争等のかなり端的な理解を基に論じられているところが特に違和感がありました。

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