【国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動】
伊藤 祐靖 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4166610694/
○この本を一言で表すと?
特殊部隊創設者の自伝の本
○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
・最初に本屋で見かけた時はタイトルから右寄りの本だと思ってスルーしていましたが、何かのついでにAmazonのレビューで特殊部隊についての本だと知り、購入しました。
読んでみると淡々とした書き方ながら内容は読んでいて何やら熱くなるもので、一気に読み終えました。
・著者もかなりの覚悟を決めてきた人だと思いますが、著者の周りが更に覚悟を決めている人ばかりで、とてつもないレベルの覚悟が何度も出てきました。
・著者のそもそものスタートが「国のため」で、その理由を後から考えるというプロセスなので、思想的には自分との距離があり過ぎて共感はできませんでしたが、こういった生き方・考え方もあるのだなと思いました。
第一章 海上警備行動発令
・1999年に北朝鮮の工作船の追跡から話が始まっていました。かなり臨場感があって緊迫感も伝わってきました。
現場の人の覚悟を決める理由が「公への奉仕」というのが、妙に説得力があるなと思いました。
・著者の生い立ちで、父親が戦争が終わっても当時の命令を遂行するために研鑽を続けているという話と、「死刑になるくらいでやめるな」という教えは、実際に覚悟を決めた人の発言だなと思いました。
その父親のもとで育ちながら、教職を蹴って割と軽いノリで海軍の一兵卒から始めることを決めたことが書かれていましたが、その根底にある理由は父親の影響も大きかったのだろうなと思いました。
一つの意思決定がその時の気持ちや思いに関わらず、その先の人生を決めることがありますが、著者の海軍入隊の意思決定もその一つだったのだろうなと思いました。
第二章 特殊部隊創設
・著者が海軍特別警備隊の創設に関わり、除隊するまでの話が書かれていました。
特殊部隊が必要だということ以外に何も決まっていないような状態から、必要なスキルを定義してそれを備え、隊員を教育するまでのプロセスをやり遂げたのはすごいなと思いました。
・海外の部隊の教練の様子の話で、アメリカの分業体制が進み、特殊部隊でも専門性が低かった話や、予算がなくても工夫で目的を達成する某国の特殊部隊の話など、背景事情によって特殊部隊のあり方が違い、そこから日本独自の特殊部隊を創設するのは相当に苦労しただろうなと思いました。
・海軍と陸軍の文化の違いは他の本でも読んだことがありましたが、コントロールされた環境で活動する海軍と、不測の事態が常時発生するために現場の意思決定を委ねる傾向にある陸軍とで大きな違いがあることが書かれていました。
海軍の中で陸軍的な特性を持つ特殊部隊を創設・運用していくことは大変だったろうなと思いました。
・陸上自衛隊のレンジャー訓練経験者の身体能力を見て感心したことがありましたが、それでも入口の訓練という話が出ていて驚きました。
・自然に対する驕りについて、指摘されても自覚のなかった著者が訓練の中で命の危険にさらされてようやく気付くことができたというのも臨場感があるなと思いました。
・部隊創設から事情を理解して著者に権限を与え、その立場を守る上司が続いて、そういう考えのできない上司になった時に部隊から転任を伝えられ、退職を決意した話は、どれだけ能力があっても組織の中で結果を出すには様々な立場の人々の協力が必要であること、それがかみ合わなければ失速してしまうことがよく伝わってきました。
第三章 戦いの本質
・ミンダナオ島での体験について書かれていました。「戦いの本質」について、どこまで真剣になるか、自分の命を使ってでも目的を達成するか、ということを突き詰めるとシンプルになる、というようなことが書かれていました。
目的に対して純粋になればなるほど達成が容易になるというのは感覚的に分かるような気がします。悪用すると思想的な自爆テロ等の話にも繋がりそうだなと思いました。
第四章 この国のかたち
・この本にタイトルに繋がる、日本という国に対しての考えを、著者の体験したことを挙げて考えさせる内容でした。
アメリカの意志で動く日本というあり方、それに憤るフィリピンの弟子・アメリカ軍の黒人・ネイティブアメリカンの感情、貪欲なアメリカと満腹になったら満足する日本の話、騙されやすいが騙し続けると見境なく皆殺しにやってくるという「我慢の限界を超えたら、やっちまえばいいだけの話」の日本の行動美学などが挙げられていました。
著者の中でも結論が出ておらず、まだまだ考えていかないテーマということで、締めくくられていました。
○つっこみどころ
・前半2章はリアルな実体験が述べられていましたが、後半2章はフィクションと思えるような内容で急にトーンが変わりました。似たようなことはあったのでしょうが、かなり盛っている気がしました。