【イケナイ宇宙学―間違いだらけの天文常識】
フィリップ・プレイト (著), 江藤 巌 (翻訳), 斉藤 隆央 (翻訳), 熊谷 玲美 (翻訳), 寺薗 淳也 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4903063291/
○この本を一言で表すと?
難しいこともわかりやすい説明と例で理解できるようになる社会人向け科学本
○よかった点、興味深かった点
・元々知っていた知識は補強され、知らなかったことが新たに身につく良い本だと思いました。
・この本を読むまで信じていた(信じたかった)ことが違うということをはっきりと認めることができました。
・思ったより映画やマンガに影響されていろいろなことを信じ込んでいた自分に気付かされました。
第1部 イケナイ宇宙学は家庭から
・春分の日に卵が立つという迷信は小学生の頃に聞いたような気がしますが、日本ではほとんど流行りもしなかったのだろうなと思いました。
その説の誤りよりも卵の生成過程や反証のための著者の努力の話が面白かったです。
・コリオリの力については、北半球・南半球の渦の巻き方についてはウソだということを聞いたことがあり、私もそう思っていましたが、去年気象学の入門本を読んでコリオリの力が台風の進路に大きな影響を与えていることを知り、「コリオリの力はやはり凄かったのか!」と渦の話を信じ直してしまっていました。
この本で改めて何がウソで何が本当かをようやく整理できました。
ケニアの赤道上で北半球・赤道・南半球で渦の向きが違うことを実験してみせて観光客からチップを得ているマクレアリーの話は、そう信じたいものを見せられて追認する、人間的な話がでているなと思いました。
・「何光年」という距離を表す単位の誤用は小学生のころからたまたま距離であることを知っていて「○光年って距離の話だぞ!」とツッコんでも理解もされなかったことを思い出しました。
第2部 地球から月へ
・空が青いのは空気の色が積み重なってそうなっているのだと思っていました。
青色の光が乱反射することで真っ直ぐ届く赤などよりも目に映るというのは不思議な話だなと思いました。
同じ原理で朝日や夕日が赤い理由にもなっていて、光が差し込む方向が違うことで色が全然違うように見えるというのは面白いなと思いました。
・太陽との距離が夏の暑さや冬の寒さに影響がありそうな気がしますが、北半球の冬は地球が最も太陽に近づく時であること、地軸が傾いていることで太陽光線の密度が異なり、暑さの違いに繋がることは、これまたいろいろ頭の中で整理されたように思います。
・月の満ち欠けは地球が遮っているわけではなく、太陽の光が月に当たっている状況を見ているだけというのは、これも小学校か中学校の理科の授業で出てきた気がしますが、それでも違う説に触れると「そうだったけ?」と疑うようになり、何が正しいのか曖昧になってしまっていて、この本で整理されてきました。
・月の潮汐力が大きな影響を与えるというのは聞いたことがありますし、潮の満ち干きに関係していることはしていましたが、地球と月の間の重力の均衡点の動きであることや、その働きで固体としての地球も曲がったり伸び縮みしたりしているというのは初めて知りました。サイズが全然違う2人がダンスをするように小さい方が振り回されるという例えが分かりやすかったです。
・月が大きく見えたり小さく見えたりすることの原因が、遠近観を測る視覚の機能の錯覚だというのはなるほどと思いました。
何となく地上にあると比較対象があるので大きく見えるということで納得していましたが、「なぜ、比較対象があると大きく見えるのか」ということにはモヤモヤした思いがあったのでスッキリしました。
第3部 夜空は広大で明るい
・煙突を通して空を眺めれば昼間でも星が見えることがある、ということが迷信ではなくて光の来る方向を遮ることによって実現する事実だというのは驚きでした。
・何となく北極星という、空に見える星の開店の中心にある星が一番強く光る星であるように思っていましたが、実際には違うということを改めて知りました。
・地軸がたまたま北極星に向けてずれただけであって、今後また変わっていくというのは、だいぶ先でありながら、今見えている星空は今だけという気がして感慨深かったです。
・日食を目で直視したら目に悪いというのが明暗反応の順応に関する本当の話だったというのは驚きでした。
私も直視したことがありますし、それで視力が弱くなったのかなとも思いました。通常の太陽を見てもなかなか視力が悪くなったりしないというのは何となく納得でした。
・流星と隕石の定義の違いは知っていましたが、まだ大気圏に突入していない流星になる可能性のある宇宙の物質を流星物質と呼ぶことは初めて知りました。
第4部 人口無能
・アポロが本当に宇宙に行ったのかどうか、陰謀説の方しかほとんど知らなかったので、「本当は行っていないということもありえるのかな」と疑っていましたが、その疑問はこの本で氷解されました。
かなり丁寧にアポロが月に到着していない証拠とされる写真の分析結果が書かれていてなるほどと思いました。
・ヴェリコフスキーの木星から金星が分離して地球に大きな影響を与えた(自転を止めたりした)というのはもはやマンガの世界観だなと思いますが、それを信じている人が今でも数多いというのは興味深いなと思いました。
・私が高校生の頃、ほとんど電灯もない道路で寝転がった時に観たUFOを観た時の体験談、それも私だけでなく私の友人も観ていた体験が、これも月や太陽が大きく見える視差による錯覚であってUFOでないということがはっきりと説明されていて個人的にはがっくりきて、また納得できました。
第5部 スコッティ、妄想してくれ!
・ハッブル宇宙望遠鏡の名前は聞いたことがありましたが、地球周回軌道に打ち上げられた望遠鏡だったというのは初めて知りました。
ある程度のサイズになるとレンズで像を拡大することができず、鏡を使った仕組みになることも初めて知りました。
SFマンガだとどこまでも大きなレンズが登場したりしていた気がします。
・星の命名ビジネスが存在することは知っていましたが、そのビジネスがそれなりの大きな収益を上げ、そのビジネスを否定する立場の人が訴えられるようなことになっているとは初めて知りました。
・ちょっとした映画のシーンを抜き出しただけでも事実と異なることだらけということが逐一説明されていて、事実との違いがよく分かりました。
○つっこみどころ
・邦題の「イケナイ宇宙学」は、原題の「Bad Astronomy」をうまく表現できていると思いますが、邦題のイメージと内容のイメージにかなりのギャップがあり、この本については邦題をもっと売れそうなつけ方をしてもよかったのではないかと思いました。