【人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊】レポート

【人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊】
井上 智洋 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4166610910/

○この本を一言で表すと?

 技術に強い経済学者が人工知能の発展した近未来を論じた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・技術的に楽観的な人工知能の未来と、その技術発展が経済に与える影響と、その未来に必要な社会制度について述べられている本でした。
この本の未来予測は数ある前提の一つでも崩れると実現しなさそうですが、技術の方向性とその影響について論じる一つの意見として興味深い内容だなと思いました。

第1章 人類vs.機械

・未来予測本、特にAIに触れた本ではシンギュラリティとその点に触れたカーツワイルに対して批判的でしたが、そのカーツワイルいついてあまり述べられていませんでした。
この本ではカーツワイルが受け入れられている理由や、カーツワイル自身が発明家であること、当たった予言などについて述べられていて、なかなかすごい人だなと思いました。
カーツワイルが2030年代後半には寿命を延ばす方法が確立されると信じていて、それまで生き延びようと毎日250粒のサプリを飲んでいるというのは面白いなと思いました。

・コンピュータの処理速度が、2030年頃に人間に追い付き、2045年に全人類の総和に追い付くという話は興味深いなと思いました。
処理速度だけで「人間を超えた」というのは先走り過ぎだとは思いますが、コンピュータにできることが幅広くなることは間違いなさそうだと思いました。

第2章 人工知能はどのように進化するか?

・ディープラーニングによって、AIを進化させることができ、言語の壁を超えることができる、など技術的に楽観的な考え方でAIの進化について述べられていました。
特化型AIから汎用型AIに至ることも、芸術的なことができることもこの本の著者は否定していないようです。

・脳の仕組みを区分して各機能を達成して統合することで汎用型AI、脳型AIを完成させるという考え方は、その実現の難度はとてつもなく高そうですが、まだありえるのかなと思いました。

第3章 イノベーション・経済成長・技術的失業

・第一次産業革命、第二次産業革命を例に出してAIの発展による技術的失業について論じられていました。
サービス業など、人間でなければ困難であった分野まで機械・AIで代替できるようになれば、確かに技術的失業に繋がりそうだと思いました。
各種のAIに仕事を奪われそうな仕事を挙げ、「AIは雇用を奪う」ということに対して正しいとしていました。
この章で述べられていることが実際に可能だとすると、代替可能な業種に就いている人は職を失いそうだなと思いました。

第4章 第二の大分岐―第四次産業革命後の経済―

・AIの発展による第四次産業革命により、現在の機械化経済から純粋機械化経済に移行し、労働と機械の協業で担われてきた生産活動が機械のみによって担われ、人が関与するのは技術の研究・開発だけになる、という構造変化はその通りになったら大いに雇用構造も変えそうだなと思いました。
著者の考えでは全体の1割しか職に就けないそうです。就労者の数が減っても機械・AIがより高い生産性を示すため、経済全体としては発展していくそうです。

・過去の産業革命がそうだったように、第四次産業革命で先陣を切れるかどうかで国家間のパワーバランスが変わることについても触れられていました。

・働けない人間の激増、国家間のパワーバランスの変動は、どちらも世界に対してかなりのインパクトがありそうだなと思いました。
楽観的に考えると、労働が義務ではなく、働かなくても豊かに暮らしていける世界になる可能性があるのかなとも思いました。
悲観的に考えると著者の考えた未来のように1割の就労者になれなかった人たちが死に絶える未来になりそうですが。

第5章 なぜ人工知能にベーシックインカムが必要なのか?

・職に就ける人が1割しかいない世界でのベーシックインカムの必要性と、ベーシックインカム自体についての説明が述べられていました。

○つっこみどころ

・著者がマネタリストを支持しているからか、お金を発行して回せば貧困層を救えると単純に書かれていてかなり違和感がありました。
確かに貧富の不均衡の是正には繋がりそうですが、「物価・経済に影響を与えない」というのは別問題ではないかと思えました。

・「機械との競争」についてところどころで触れられていますが、この本に書かれていた「機械との協業」という楽観的な視点の考え方には触れられておらず、悲観的な点のみの一方的な引用だなと思いました。

・第5章のタイトル「なぜ人工知能にベーシックインカムが必要なのか?」は人工知能自体にベーシックインカムを与えるべきという主張なのかと思い、なぜそういう意見になるのかと楽しみに読み進めましたが、「なぜ人工知能(が発展した時代)に(全国民への)ベーシックインカム(制度)が必要なのか?」という意味だったようで、がっかりしました。

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