【試験に出る哲学―「センター試験」で西洋思想に入門する】レポート

【試験に出る哲学―「センター試験」で西洋思想に入門する】
斎藤 哲也 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4140885637/

○この本を一言で表すと?

 センター試験の倫理の問題を深掘りする形で西洋思想を説明する入門本

○面白かったこと・考えたこと

・センター試験の倫理の問題を挙げ、その背景を説明することで西洋思想入門としていて、読みやすくて面白い本に仕上がっているなと思いました。

・それぞれの哲学者の考え、主な概念を簡単な挿絵で説明していて分かりやすくなるように工夫されていてよかったです。

・高校教科書を要略した「もういちど読む山川倫理」を読んでも分からなかったこと、気づかなかったことをいろいろ知ることができました。

Ⅰ 哲学は「無知の知」から始まった

・ソクラテスの「無知の知」から「イデア」論まで発展させたプラトンの考えは今までに読んだ本で何となく理解していましたが、「哲人政治」の中身は初めて知りました。
魂の三分説(イデアを知る「理性」、物事を決断する「意志」、感情にかかわる「欲望」)の正しい働き「知恵」「勇気」「節制」が国家の三階級「統治階級」「防衛階級」「生産階級」に繋がり、哲学者が統治者でなければ理想国家は実現しない、という考えはシンプル過ぎる気もしますがそれなりに説得力があるようにも思えました。

・アリストテレスが「万学の祖」と呼ばれ、様々なことを学び、整理していたというのはすごいなと思いました。
その上で世界は「形相」と「質料」でできていて、「形相因」「質料因」「目的因」「作用因」の四原因から物事が成り立っているとし、過不足ない中庸こそ重要としたのは、様々なことを学んだうえで物事に共通することや因果関係を見たからかなと思いました。

・当時の神学と衝突するアリストテレスの考えを、神の恩寵を理解するためのものとして統合し、神学を強化するものとして扱ったトマス・アクィナスは巧みだなと思いました。

Ⅱ 「神」が主役の座を譲り、退場していく

・何かの本でフランシス・ベーコンの考えが科学革命のスタートだったと書かれていましたが、自然の因果関係を知り、自然に服従して支配する、帰納法で一般法則を発見することを述べていたというのは、確かに科学的な考え方だなと思いました。

・スピノザの名前は何度も聞いたことがありましたが、「神=自然」の汎神論を唱えた人だったというのは初めて知りました。
汎神論は論理的に導かれたものらしいですが、結論がアミニズムのような自然崇拝に立ち返っているのが面白いなと思いました。

・ジョン・ロックの「市民政府論」は読んだことがありますが、自然権や社会契約論について述べていた人物が、物事のあるがままの一次形質と感覚器官を通じて得られる二次形質に区分する考え方を別の本で提唱しているのは面白いなと思いました。

・西洋思想でも大陸合理論、イギリス経験論、ドイツ観念論のようにそれまでの考えを批判的に考えて発展させていっているのは興味深いプロセスだなと思いました。

Ⅲ ひねくれた哲学者たちが「当たり前のこと」を疑いはじめた

・ニーチェの神の死から生きる価値や意味を失うニヒリズム、弱者の恨みでありキリスト教道徳の起源であるとするルサンチマンの指摘とそれを超えて生きることから充足をえよ、という超人思想は具体的な内容はまだよくわかりませんが壮大な考え方だなと思いました。

・ハイデガーの存在論やキルケゴールの実存主義で、死を見つめること、向き合うことが重要としているのは初期仏教の考え方とも似ていて興味深いなと思いました。

○つっこみどころ

・3-3で「プラグマティズム」が実用主義のことである、というのは自分もそう思っていたので、それを否定する内容は興味深かったですが、解説を見ると広い意味でやっぱり「実用主義」で合っているように思いました。
陽明学の「知行同一」や問題解決学習など、いかにもアメリカっぽい考え方に発展していることが分かって面白かったですが。

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