【世界最終戦争 新書版】レポート

【世界最終戦争 新書版】
石原 莞爾 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909447091/

○この本を一言で表すと?

 近代以降の技術と戦術の関わりと変化に関する解説と、戦争の大規模化で1勢力対1勢力の最終戦争に至る近未来予測の本

○よかったところ、気になったところ

・中央から遠ざけられた立場で、昭和15,16年の太平洋戦争開戦前の時期に、それなりに鋭い分析がされているように思いました。
自身に分かる範囲で空軍の重要性や原子力の威力などについても検討されていているのはすごいなと思いました。
当時の外交や資源、戦力等については情報がなかったからか、直ぐ後に太平洋戦争の開戦になるとは思い至らず、まだ日中戦争以外の戦争に参戦するまで時間があるような記述が多かったですが、情報が制限されている中での考察が興味深いなと思いました。

・石原莞爾の自身の考えへの執着の強さが伝わってくるようでした。
人とうまくやることより自身の考えを通すことに固執しそうで、後付の考えかもしれませんが、板垣征四郎と組めたからこそ満州事変を起こせたのであって、そういった物事を実際に主導する人間と組めなければ当然に排除されていく人物だったのかなと思えました。

第一部 最終戦争論

・戦争を決戦戦争と持久戦争の2種類に分類し、どちらが主流になるかが時代とその背景によって変わってきたという考え方は妥当だなと思いました。
持久戦争について、直接的な軍事力だけでなく、経済的な要因等も絡んだ複雑なものになるということも妥当ではないかと思います。

・西洋の近代以降の戦争とその背景について分析し、その傾向から規模が拡大し、主体が収斂して最終戦争に至るというのは、述べられた当時の状況からするとそう思えそうかなと思いました。
その収斂先がソ連・アメリカ・ヨーロッパ・東亜として、決勝に残るのがアメリカと東亜だとするのは、当時の状況からしても東亜、ひいては日本を贔屓目で見過ぎなようにも思えますが。

第二部 戦争史大観

・日露戦争について、日本が危うかったと当時に主張できるのは冷静だなと思いました。
ドイツの第二次世界大戦序盤における勝利についても、ヒトラーの軍事的成果を称賛しつつも、批判的な視点でも検討されていて冷静だなと思いました。

・決戦戦争と持久戦争の区分だけでなく、会戦を第一線決戦主義と第二線決戦主義に区分してそれぞれの特徴と適用された戦争が説明されていてなるほどなと思いました。

・近代の西洋の戦争の代表的なものを採り上げて解説されていましたが、横から縦、縦から面、面から体という技術や戦術の発展から戦争の中身が変わっていったことがうまく分析されているなと思いました。
空軍の登場で立体的な戦闘になり、空軍が重要であること、空軍が主力になると軍隊以外も攻撃の対象となるより広い意味での総力戦になること、原爆の開発について知っていたからかもしれませんが兵器の強大化で一撃で大規模な被害を及ぼす戦闘になることなど、当時の状況に即した分析もなかなかのものだなと思いました。

○つっこみどころ

・同じ出版社から出ている「潜行三千里」でもそうでしたが、序文を書いている東京国際大学の福井雄三氏のコメントが滑稽なまでに壮大に著者を持ち上げすぎていて、明らかな事実誤認もあり、読み始めに笑いそうになりました。

・東亜を日本が征服するのではなく、まとめ役になるような考えが前提で、東亜とアメリカの最終戦争になるという内容でしたが、東亜をまとめるやり方が八紘一宇で天皇を代表とするというのはかなり非現実的な構想だと思いました。
仮に日米開戦がもっと先で日中戦争で勝利を収めていても、この形でまとまることはあり得なかったように思います。

・日蓮宗の考え方と最終戦争論を同じ流れで語るのは、付章「世界最終戦論」に関する質疑回答で、信仰を伝えたいという思いと戦争論の論旨とは別だと弁明されていましたが、やはり強引だなと思いました。
日蓮宗の終末思想ありきで戦争論の結論を出したのではとも思えました。

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