【イランはこれからどうなるのか―「イスラム大国」の真実】
春日 孝之 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4106103842/
○この本を一言で表すと?
現実主義な国「イラン」の実態を描いた本
○この本を読んで面白かった点・考えた点
・ニュースで知るイランが極端な一面をクローズアップしただけだと分かる、イランにおける常識や実状を知ることができる本でした。
著者が実際にイランで見聞・体験した出来事を中心に主観的な視点で書かれていて面白かったです。
第一章 現代イランの生活をのぞく
・厳格なイスラム国家というイメージのイランで激しいダンスや音楽が暗黙の了解で許されたりしていた時期があり、その時期が政権の方針によってコロコロ変わる様子がよく分かりました。
2005年のアフマディネジャド大統領の当選で解放されたり、2009年の再選でいきなり締め付けが厳しくなったり、状況に応じて国民も臨機応変に対応しているのが強かだなと思いました。
・女性服飾家のザマニ氏が明かした敬虔なチャドル姿で有名な女性初の副大統領エブテカール氏も王政時代はミニスカートを履いていたという話も、その時その時の要請に応じてうまく切り替えている人たちの強かさが感じられます。
・イスラム革命体制と自由を求める方向性のギャップとその反動の話は今なお微妙なラインに乗っていそうだなと思いました。
第二章 「ペルシャの誇り」をひと皮むけば
・「イスラム」とイスラム以前の「ナショナリズム」という相反する属性の両立てで国民意識を醸成するイランはある意味では強かで、ある意味ではその場しのぎなやり方をしているなと思いました。
・ペルシャ語に「反省」という言葉がないということと、民族的に主観的な分析はできても客観的な分析が苦手ということの結びつけは面白いなと思いました。
・イラン人とアラブ人の対立、イスラエル人とアラブ人の対立、その中で親米体制だった時はイランとイスラエルが友好関係に近く、今もある程度近いというのは、中東という民族的に複雑な地域の特性が出ているなと思いました。
・ペルシア湾とアラビア湾の名称の争いと国益の関係は日本や中国と近隣国の関係も同じようなものかなと思いました。
第三章 イランは本当に世界の脅威なのか?
・シーア派を「イラン化したイスラム」と見る視点は初めて知りましたが、シーア派人口の比率を考えると納得できるなと思いました。
・「自爆テロ部隊」を結成し、参加表明している者が何万人というレベルでいても実際に自爆した者は一人もいないというのはいかにも「ノリ」で参加している雰囲気が出ていて面白いなと思いました。
・核開発と政治体制等のあいまいさの合わせ技でアメリカなどから警戒されていること、その警戒がある程度重要であることなど、なかなか外交関係が複雑だなと思いました。
・イランが宗教的にも民族的にもタリバンやアルカイダと対立していることと、それにも関わらずその支援国とみなされていることは、そういう立ち位置においておきたいという思惑を感じました。
第四章 嗚呼アメリカよ、もう一度……
・親米国家だったイランがモサデグ政権をCIAの扇動でクーデターを起こされて失脚させられたり、悪の枢軸国と指名されてさらに関係が悪化したり、いろいろとすれ違いがあって今に至っているのだなと思いました。
・ブッシュ大統領の一般教書演説で悪の枢軸と指名される経緯でイラン側でもそう解釈されるに至る行動を起こしていたというのは初めて知りました。
・アメリカを悪魔と指定したイラン側で、「悪魔も態度を改めれば悪魔ではない」という論法で解決の道を残しているのは、強かとも言えますし、どこか女々しいものも感じてしまいます。
第五章 イランが抱える爆弾
・なんとなくイランは大部分がペルシャ人だと思っていましたが、半数を少し超える程度で多民族国家だというのは初めて知りました。
その中で「ペルシャ」を前面に押し出すことで半数近くのペルシャ人以外の民族の反感を買うというのはナショナリズムで国民意識を醸成する大きな障害になりそうだなと思いました。
アゼリ人、アラブ人、バルチ人、クルド人という隣接する他国にも存在する民族を抱えているというのはなかなかリスクが大きそうです。
・ホメイニ氏の後継者と目されていたモンタゼリ氏が人道主義的な行動をとっていて政治的に失脚させられたというのは、どの国でもありそうな政治の黒い一面だなと思いました。