【北朝鮮――変貌を続ける独裁国家】レポート

【北朝鮮――変貌を続ける独裁国家】
平岩 俊司 (著)
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○この本を一言で表すと?

 北朝鮮の成立から現代に至るまでを分析した本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・北朝鮮について書いた本は他にも読んだことがありますが、それらの本と異なって国内・国外の政策の分析を中心に書かれていて違った視点で見ることができたと思います。
金日成については北朝鮮の初代トップということくらいしか知りませんでしたが、何をやってきた人物なのかを初めて詳しく知ることができました。
北朝鮮側で常に朝鮮は一つと考えていて、その考えに妥協したのが20世紀末だったということも初めて知りました。

第1章 朝鮮半島の分断

・戦後に日本の占領を解除した後の統治で割とざっくりと38度線で担当地域が分けられたことからその後の南北分断に至ったこと、共産党の勢力は最初はソウルで強かったこと、北朝鮮地域でもソ連派や中国派が強力だったこと、金日成は最初は主要勢力とは言えないグループからスタートしていたことなど、あまり知らなかったことがいろいろ書かれていて興味深かったです。

・朝鮮戦争で中国が参戦したのは北朝鮮が働きかけたことも要因であったというのは初めて知りました。

・金日成がソ連や中国と連絡を取りつつ障害となる有力者を排除してトップとしての地位を確保したのはすごい政治力だなと思いました。

第2章 金日成と主体思想

・北朝鮮と韓国で、1960年代くらいまでは北朝鮮の方が発展していたことは知っていましたが、その要因として「政治における自主」「経済における自立」「国防における自衛」「思想における主体」の「主体思想」が北朝鮮の指導方針として定まっていったことがあったというのは興味深いなと思いました。

・共産国としての連携で他国から支援を受けていたことが要因だと思っていましたが、ソ連主導のCOMECONから距離を置き、独自の経済計画を推進し、政治的にも自主性を守り、更に思想としても独自性を保てたというのは国家の規模とソ連・中国の近隣にあるという地理的な状況から考えるとすごいことだなと思いました。

第3章 劣勢に立つ北朝鮮

・マルクス・レーニン主義の解釈権を独占するというアイデアでトップを握り、世襲可能な体制を築いたというのは、どこまで意図的だったかはわかりませんが、すごい事業承継計画だなと思いました。

・朝鮮半島の統一国家を目指す中で韓国が成長することで劣勢に立っていたというのは経済力や軍事力などを総合した国力とでも言うような力の総体的な関係が変化することで状況の変化が大きく表れてくるところが出ているなと思いました。

第4章 冷戦の終焉と北朝鮮の危機

・核技術を外交上のキーとしたのがかなり早期だったこと、社会主義勢力全体の退潮に合せて資本主義国家との外交に力を入れていたことなど、特異な立ち位置にある国家として、立ち回りがかなりうまいなと思いました。

・ソ連解体など社会主義勢力の敗退と言えるような時期にあって、金正日への権力移譲を軍に関するところから始め、金日成の急死によって当初予定していたスケジュールと異なる形でトップの承継を済ませていったというのは、トラブルに遭いながらもかなりのしぶとさを見せているなと思いました。

第5章 金正日の先軍政治第6章 核とミサイル第7章 金正恩体制のゆくえ

・金正日にトップ交代してから、ミサイルの試射や核実験等で軍事力を誇示しながら一方で外交に力を入れる瀬戸際外交は、ある意味すごいバランス感覚の下で行われているのかなと思いました。

・アメリカを主要な交渉相手として、他の国も巻き込んだ六ヶ国会議に持ち込み、その参加有無も外交カードとして使っているのはこれもすごい外交手腕だなと思いました。

・アメリカの政権交代、イラク戦争などが北朝鮮の思惑から外れたところにあり、情勢が変わっていったというところは、小国にとって外部環境の変化が大きな要因であることを示しているなと思いました。

○つっこみどころ

・学者が自分の見解と自分が採用する理論だけで分析しているような内容で、少し内容が浅いなと思いました。
「トップがこういう政策を採れば国家としてこうなる」という先入観が強いのか、金日成以下三代を神聖視しているわけではないとしても、重要視・絶対視し過ぎではないかと思いました。
韓国の哨戒艦沈没や延坪島砲撃事件まで意図的だという含みで書いているのはトップの掌握力を過大視しているように思います。

・金正恩時代の「遺訓政治」とその後の動きについても金正恩が主体として動いているという含みで書いてあり、その後の動きが北朝鮮の本当の姿として締めていますが、別の本で「北朝鮮の文書上で共産党が軍を主導するという文章が消えている」と書かれていて、金正恩らが軍部を抑えきれないと書かれていました。
「遺訓政治」あたりから既に的外れなように思えました。

・金日成時代の内容は良かったですが、金正日時代になるとかなりざっくりとした内容になり、金正恩時代はかなり雑な内容になっていました。
この本を出版するように出版の10年前に言われて、その後10年の間に金正日が死んで金正恩が出てきたりしたので、慌ててその期間を埋めたのではと思いました。

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