【物語 メキシコの歴史―太陽の国の英傑たち】レポート

【物語 メキシコの歴史―太陽の国の英傑たち】
大垣 貴志郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121019350/

○この本を一言で表すと?

 歴史上の人物に焦点を当てて書かれたメキシコの通史の本

○この本を読んで面白かった点・考えた点

・時代ごとに存在した人物に焦点を当てて書いていて、どんな人がどのような時代にどのような歴史を残したのかが書かれていました。今まで知らなかったメキシコに関するトピックにいくつも当たることができ、また世界史の本で登場するエピソードも出てきたのでそれらとの関係が分かったのは良かったです。

第一章 文明との出合い

・アメリカ大陸が他の大陸とほとんど交流がないままに独自の文明を築き、その中でも大規模な施設を建設したり自分たちの文字を作ったりしていることは、ある天才が存在したから発展したというよりは、長い時の中で人が集まるといろいろ編み出せるものなのだなと改めて思いました。

・マヤの数字や文字はなかなか読めるようになるまでは大変そうですが、物理学者のファインマン氏はこのマヤの数字や天文学に興味を持ち、大学で講義ができるようになったそうで、すごい話だと改めて思いました。ある意味パズルみたいで解析が面白いかもしれませんが。

第二章 搾取と布教の時代

・いろいろな本で知りましたが、改めてスペイン人の侵略ぶりはすごいなと思いました。16世紀に先住民のほとんどが死んだ第一の原因は免役を持たない病原菌のせいかもしれませんが、搾取や搾取的な強制労働などの相乗効果でもあったのだろうと思いました。そんな中で、ラス・カサス神父のように良心的な人物が何人も存在したのはキリスト教などの宗教の良い一面かもしれないなと思いました。

第三章 独立記念日

・フィリピンでもそうでしたが、カトリックは現地の土地や人物が聖地化されたり聖人化されたりするところが面白いなと思いました。

・クリオージョ(現地生まれの白人)のイダルゴや、メスティソ(白人と現地人の混血)のモレーロスがそれなりに大きな動きを作りながらも挫折したこと、軍将校のイトゥルビデがイダルゴやモレーロスのあとでクーデターを起こし、あっさりと成功させてしまって皇帝になること、アグスティン一世となったイトゥルビデがあっさりと失脚し、亡命したのちにメキシコに戻って処刑されることなど、誰かが動いて失敗しながらその屍の上を次の者が続くような歴史の積み重ねが興味深いなと思いました。

第四章 憎き星条旗

・軍人として成功してトップまで上がっていったサンタ・アナの時代に起こった米墨戦争による領土喪失が今のアメリカとメキシコの領土を確定しているのだと思うと、ある人物の失態が国家にとって後々まで響くというのは日本でも言えることだなと思いました。

・サンタ・アナの扇動者としての能力はヒトラーを彷彿させるなと思いました。

第五章 先住民の勇ましさ

・フアレスとオカンポのような先住民が法律系の方面で頭角を現して政治上の実績を残すというのは、法律に関することは知識や能力以外のことが求められにくい領域だからなのかなと思いました。

・レフォルマ戦争が保守派、自由主義の対立で国内の対立が起こり、オカンポやデゴジャードのような自由主義派の人物が保守派に暗殺されるなど、国内の人材を失う争いになったというのは、どの国でも起こりそうな話だと思いました。

第六章 白昼夢をみた皇帝

・オーストリア帝国の皇帝の弟であるマクシミリアンとベルギー王家の娘のカルロッタの夫婦がフランスの支持を得てメキシコに乗り込み、ついには皇帝となりながらフアレスの反抗でついに追いやられてマクシミリアンは処刑、カルロッタは発狂したという話は、出来過ぎた悲劇のようだなと思いました。

・フアレスもまた自分の権力を固めようとして共に戦ったディアス等を不遇な位置に置き、急死してディアスが台頭するという流れもすごい権力闘争の渦を見るようで、ちょっとした要因の変化があれば結果が異なるような混沌とした状態だったのだなと思いました。

第七章 族長の功罪

・ディアスが長期政権を築いて独裁者でありながらもそれなりに支持されていたこと、ディアス以降続くメディアの自由を許す文化のようなものがあり、新聞等が独裁者の批判をできたことは、それないに閉塞的な環境でありながらどこか空気穴のような逃げ道のある、完全に閉じた環境ではないメキシコの雰囲気のようなものが感じられました。

第八章 革命精神は死んだのか

・ディアスの独裁政治が終わった1910年からまず強力なトップを追い落とした後にマデロ政権と農地改革を求めたサパタ派の農民集団の対立、その隙を縫って旧勢力がウエルタ反革命政権を築き、立憲主義のカランサがウエルタ政権を打倒してトップに立ち、1917年にその後に大きな影響を与える憲法を施行しながらもそのカランサが革命勢力を反政府勢力として弾圧して逆に追い落とされて1920年に暗殺される、という流れは10年の間にいろいろな動きがあり過ぎだなと思いました。

・メキシコにキリスト教が入ってきてきてからずっと勢力を保ち続けていた教会勢力を政治と分離したことはかなり大きな転換点だなと思いました。

・ほとんど盗賊団の親玉のようなことをやっていたビージャが戦争には強くても政治に弱い人物で乱世では活躍しながらもある程度世の中が落ち着いてくるとあっさりと暗殺されているのは、わかりやすい構図だなと思いました。

第九章 現代メキシコ

・第二次世界大戦や石油危機などの時代の流れで、どちらかと言えばメキシコは流れを作る側ではなくて流れに乗って良い波、悪い波にそれぞれ流されているイメージがあります。「100年予測」では2050年以降に地域覇権国化すると書かれていましたが、仮に大国になったとしてもなぜか流れを作る国にはならない気がします。アメリカの隣国という特殊な環境がその要因になっているのかもしれないなと思いました。

○つっこみどころ

・物語的な記述と歴史的事実の記述が混ざっていて、妙に読みにくく理解しづらい印象を受けました。

・人物に焦点を当てていながら、一人に焦点を当てている時はいいのですが、複数の人物が登場したときにどの人物が残した業績なのかが分かりづらかったです。

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