【塩の世界史(上) – 歴史を動かした小さな粒】
マーク・カーランスキー (著), 山本 光伸 訳 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4122059496/
【塩の世界史(下) – 歴史を動かした小さな粒】
マーク・カーランスキー (著), 山本 光伸 訳 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/412205950X/
○この本を一言で表すと?
塩にまつわる世界史と、塩そのものの位置づけの変化の歴史の本
○面白かったこと・考えたこと
・「塩」というものが何を指すか(塩化ナトリウムか塩化物全般か)、「塩」の人類にとっての位置づけ(生存に必要なもの、保存に必要なもの、数多ある調味料の一つ、道路の凍結防止剤、等)、「塩」という物資をめぐる世界史など、「塩」を複数の視点から見た歴史が述べられていました。
・著者の他の著作が魚関係ばかりだからか、魚についての記述がかなり深堀りされていたように思いました。
・「塩」の生産手段、立地の世界史における影響の一端を知ることができてよかったです。
第一部 死体、そしてピリッとしたソースにまつわる議論
・紀元前から塩が食物の保存用に使われていたこと、塩と魚で作るソース「ガルム」も紀元前から使われていたことなどが述べられていました。
・ルネッサンス時代のイタリアでも塩の生産と交易が重要な位置を占め、塩の生産地と川や海を利用した水運が各都市の地位に影響したことが述べられていました。
第二部 ニシンのかがやきと征服の香り
・神聖ローマ帝国、フランス、イギリス、オランダなど、ヨーロッパ内や大航海時代での海外進出において、保存食としての塩漬け食品が重要になり、その生産量や品質が争われていたそうです。
・塩に関する税「ガベル」もフランス革命の原因の一つで、塩の扱いが国家の存続に係る内容だということが各章で述べられていました。
・奴隷貿易でも塩と塩漬け食品が重要な交易品だったことが述べられていました。
・アメリカの南北戦争で、北部では塩の生産ができていたものの、南部では輸入に頼っていて、そのことが戦争の勝敗に大きな影響を与えたと述べられていました。
第三部 ナトリウムの完璧な融合
・「塩」が何であるかが解明され、製塩技術が向上するとともに、塩鉱の街の建物が地盤沈下で傾いたりしたことも述べられていました。
・有名なガンディーの塩の行進について一章が割かれていました。
インド独立の分岐点だったと書かれている本が多いですが、イギリス視点での塩の行進の見方なども載っていて面白かったです。
・小規模の製塩業者が多かった中で、大規模生産を始めた製塩業者があっというまに市場を独占していった流れが書かれていました。
・現在日本のスーパーで売られている食塩と同様に炭酸マグネシウムを添加してサラサラにしたモートンの話は興味深かったです。
家に置いてある食塩の瓶を見ると原材料に炭酸マグネシウムと書かれていました。
・食卓塩が塩の利用で占める割合は小さく、道路の凍結防止等の利用が大部分になったと書かれていました。
それ以外にも、塩鉱の自然修復作用などが注目され、核廃棄物の保管場所として検討されたりもしたそうです。
○つっこみどころ
・参考文献の一覧が巻末になく、他の本で知った内容と相違することもあり、記述内容の正確さが不明確だなと思いました。
そういった方向の本ではないからかもしれませんが。
・「世界史」というよりは「西洋史」といった内容で、中国についての章がいくつかあるくらいで西洋の歴史についての話がほとんどでした。
原題も「SALT:A World History」なので、翻訳の問題ではなく、著者が調べやすかった範囲での世界史かも知れませんが。