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【物語ラテン・アメリカの歴史―未来の大陸】レポート

【物語ラテン・アメリカの歴史―未来の大陸】
増田 義郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121014375/

○この本を一言で表すと?

 ラテン・アメリカ全体の大きな流れを挙げた通史の本

○この本を読んで面白かった点・考えた点

・「物語 メキシコの歴史」と併せて読みましたが、こちらではラテン・アメリカ全体の広い範囲で何が起こり、それぞれの地域がどういった位置づけだったのかを俯瞰できてかなり違った印象を受け、いろいろと興味深かったです。

プロローグ 新世界

・アメリカ大陸が現生人類が一番最後に到達した場所ということはいろいろな本を読んで知っていましたが、大航海時代に「新世界」と見られたことと比較して現生人類にとっても「新世界」だったとしているのはうまいなと思いました。

1 古代アメリカ人の世界

・他の大陸との交流がないままに独自に文明が発達したアメリカの文明と、その文明に対して感動を覚えていたヨーロッパ人の記述は、「逝きし世の面影」に書かれていた幕末・明治初期の日本を見た外国人の記述に似ているなと思いました。

2 侵入者

・アステカ帝国の宿命論的な考え方とインカ帝国のある程度現実的な考え方の対比は面白いなと思いました。その両国を数少ない人数ながら常にイスラム勢力や隣国との戦争で鍛えてきた軍隊で征服したのは、数だけではなく質と戦略で勝って勝利した現代戦ではほとんどありえない例だなと思いました。

・アステカの王モスクーマとそのアステカを征服したフェルナンド・コルテス、インカの王アタワルパとそのインカを征服したフランシスコ・ピサロの人物像が書かれていて、単なる侵略者・被侵略者ではなく、その背景が語られていて印象深かったです。

3 事業家としての征服者

・コルテスが征服したメキシコで大いに富を築き、晩年まで富豪として過ごしたのに対し、ペルーで兄弟とともに財を築きながら後の世代に残せずに副王に接収されたピサロは似たような立ち位置ながら大きな差があるなと思いました。

4 イベロアメリカの成立

・スペインのラテン・アメリカでの鉱山経営などの力の入れようはすごいなと思いました。現地の部族の首長に権限を与え、搾取の階層構造を作ったことは、「国家はなぜ衰退するのか」などで述べられている100年単位の長期でみてその発展状況がどう判断されるかは別として、利益を上げるにはかなりうまくいく構造になっていたと思いました。

・メキシコと日本の交流が400年を迎えたという話で、フィリピン総督を助けたことが起源と聞いて因果関係がよく分かっていなかったのですが、フィリピンがメキシコ副王の管轄地域になっていたと知ってようやく腑に落ちました。

5 一六世紀の変動

・植民当初に設けられたエンコミエンダ制を徐々に廃止して既存利益を副王の下に戻していく流れは支配する側としてはなかなかうまいやり方だなと思いました。同時にエンコミエンダ制でそれなりに権力を得ていた現地の部族の首長が徐々に権力を失っていく様子は何かに乗っかればその何かと栄枯盛衰を共にするという良い事例だなと思いました。

・植民者たちが本国から送られた者に反抗するというのはありがちな構図で、うまくやっていれば北米と同じとはいかないでしょうが、それなりに本国とは切り離された国家運営になっていたのかなと思いました。

・現地人の反乱としてアラウコ族が徹底的に抵抗し、最後まで屈しずに今も続く部族として成り立っているというのは珍しい事例だなと思いました。

6 成熟する植民地社会

・ラテン・アメリカにおける一七世紀の生産力の向上はすごいなと思いました。何事も土台ができてある転換点に達すれば一気に活性化するものかと思いました。

・現地で生まれたクリオーヨとスペインから来た者が対立する構造は近しい者ながら異なったインセンティブがあって、対立すれば根深そうな構造だと思いました。

・アフリカから連れられてきた黒人が逃げ出してそれなりの規模の勢力を築き、奥地の方で万単位の人口を持っていたというのは初めて知りました。

・スペインが一国で支配していた構造から、イギリス・フランス・オランダなどの勢力が手を伸ばしてきた中で少しずつ切り取られていく様子は、侵略するよりそれを維持することが難しく、その維持する土地が大きければ大きいほど難易度が上がるということのよい事例だなと思いました。

7 反乱の世紀

・一八世紀のラテン・アメリカ全体におけるメキシコの位置づけの大きさはすごいなと思いました。一八世紀の末ではラテン・アメリカ全体の人口のほぼ半数をメキシコが占めていたようです。

・現地人やメスティソによる反乱が頻発していたものの、植民地からの脱却を目指していたわけではなく、それぞれ鎮圧されたというのは目的が異なれば達成されるかどうか、その過程に至るかどうかさえも変わってくるのだなと思いました。

・ポルトガル領のブラジルがほとんど何も産しない土地であったところが鉱物の産出や農産物の生産で興隆し、イギリスがポルトガルの後ろ盾となってスペインとはまた別の勢力になっていたというのはイギリスの立ち回りのうまさが出ているなと思いました。

8 自由な空間を求めて

・イギリスが直接的な侵略を試みて大きな被害を被り、方針を変えて経済的な進出に切り替えたというのは現実的でうまい方針転換だと思いました。

・サン・マルティンとシモン・ボリバルがラテン・アメリカの独立を促したことは特定の人物が国家情勢に与える影響の大きさを感じさせました。特にシモン・ボリバルの大コロンビア構想に基づく独立闘争への貢献は、その構想自体が成り立たなかったこと以外はほぼ成功させており、すごい人物だと思いました。

9 開かれた空間における独立と従属

・一九世紀中ごろまでのカウディーヨ(私的な軍事力を備えた政治ボス)が様々な場所で出現し、独立を成功させているのは面白いなと思いました。

・パラグアイのドクトル・フランシアがほぼ個人に権力を集中させて24年治めたというのはすごい実力だと思いました。懐疑主義でノイローゼにもなったそうですが、暗殺もされずに自然死だったそうです。

・アルゼンチンのマヌエル・デ・ロサスが周辺のカウディーヨと盟約を結んで反対者を制圧し、密告制度を敷いて弾圧し、パンパの狩猟民6,000人を虐殺していながらも、敵対者の軍隊に敗北してイギリスに亡命し、84歳まで生きてベッドの上で死んだというのは最後までうまくやっているなとある意味感心しました。

・ベネズエラのパエスが単純明快な牧夫的な人物としてボスになり、ベネズエラを支配し、失脚しながらも北米に行って83歳になってベッドの上で死んだというのはロサスと同様に最後までうまくやっているなと思いました。

・メキシコのサンタ・アナは「物語 メキシコの歴史」でも人物像が書かれていましたが、これまた失脚して国外に亡命してまたメキシコに戻り、82歳で自然死というのも他のカウディーヨと似たように落ち着いた晩年を迎えているなと思いました。

・4人のカウディーヨが全員天寿を全うしているのは当時の対立者、被弾圧者としては理不尽に感じたかもしれないなと思いました。

・功利主義のジェレミー・ベンサムが最大多数の最大幸福を考える時に「原住民は考慮しなくていい」と言っていたというのは、学者として公平な人物という印象を持っていましたが、やはり一般的な西欧人としての感覚に囚われていたのだと少し失望しました。

10 二〇世紀のラテン・アメリカ

・二〇世紀のラテン・アメリカの特徴は、まず北米の経済的影響下にあったこと、大衆に顔を向けた政治が行われるようになったことだそうです。前者がわかりやすいですが、後者は独裁政治すらも大衆を意識したやり方になっていて、アルゼンチンのホアン・ペロンやキューバのフィデル・カストロのやり方が一九世紀以前のやり方と異なっていて印象深かったです。