【物語 スイスの歴史―知恵ある孤高の小国】
森田 安一 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121015460/
○この本を一言で表すと?
20世紀までのスイスの通史の本
○この本を読んで面白かった点・考えた点
・ヨーロッパの中央に位置する地理的な背景における各国との関係だけでなく、スイス国内においても戦国時代のような合従連衡が続く関係という安定のしない国・地域だなと思いました。
ほのぼのしたイメージのスイスだけでなく黒いスイスについてもある程度知っていたつもりでしたが、思っていたよりも国内外の状況の変動の波が大きく、大変な地域だなと思うと同時に、その困難な状況を様々な形で切り抜けて今に続いているというのはすごいなと思いました。
第1章 カエサルからカール大帝へ
・カエサルが「ガリア戦記」を書いたことは知っていましたが、その舞台となるガリアがスイスの辺りの地域だったことを初めて知りました。
「ガリア戦記」の内容は全く知りませんが、その戦争の流れをざっとでも知ることができてよかったです。
第2章 神聖ローマ帝国
・狭い国土の中で都市国家や貴族などが勢力争いをしている流れはどこか日本の武士台頭の時期くらいに似ているなと思いました。
同じように都市貴族マネッセが恋愛歌謡を集めていったところは後白河法皇が今様を集めていたことと似ているなと思いました。
第3章 スイス盟約者団の成立
・13世紀後半に農村が同盟を結び、それが都市も巻き込んで近代に至るまで続いていく元になっているのは面白いなと思いました。
信義より利害関係が強い同盟関係が何百年も続くというのは、戦国時代が終わらなかったと仮定した日本みたいなものかなと思いました。
第4章 対外膨張の時代
・スイスの兵隊・傭兵が強く、神聖ローマ帝国やフランス王国にも大きな影響を与えていく過程は興味深かったです。
主要な産業がない中で他国の「国家の大事」となる戦争の重要な利害関係者となっている立ち位置は特殊だなと思いました。
第5章 宗教改革と対抗宗教改革
・宗教改革の流れがかなり早い段階からスイスを巻き込み、またスイス国内でも言語や文化が異なった地域でその宗教革命の進み具合も異なり混乱していく過程は、微妙なバランスで成り立っている多様な文化が同居する地域に大きな変化を持ちこむと大きく混乱するという縮図だなと思いました。
第6章 アンシャン・レジームの時代
・事実上も名目的にも独立したスイスが、門閥支配のベルン、企業家支配のチューリヒ、闘争が続くジュネーブ、直接民主制の農村邦と様々な状況の異なる地域の集合体だったというのは興味深いなと思いました。
第7章 変転するスイス
・森信三の「修身教授録」で何度も書かれ、教育界における最高の人物のように書かれていたペスタロッチがどのような時代背景で、どのようなことを成し遂げたのかを知ることができてよかったです。
意外と自身の考えを貫き続けたわけでなく、決まった体制側に従って他方を説得しに行ったり、割と柔軟だったのかなと思いました。
・スイスの永世中立がナポレオン失脚後にうまく立ち回ったことで成立したというのは興味深いなと思いました。
第8章 連邦国家への道
・連邦国家になるにあたり、賛成派と反対派に分かれて争うというのはありがちな話だなと思いました。
デュフール将軍が電撃的に反対派を各個撃破して短期に少ない被害で戦争を終わらせた話は前に何かで読んだことがありましたが、その背景が分かって良かったです。
第9章 すべては国民によって
・「国民のため」に「国民によって」が加えられ、直接民主制に近付いていくというのはすごい流れだなと思いました。
レファレンダム(住民投票)とイニシアティブ(国民発議)によって、実際に法律が定められたり否決されたりするのはかなり進んだ民主主義だと思いました。
第10章 戦争と危機
・スイスが中立の立場を守って第一次世界大戦や第二次世界大戦を乗り切ったのはすごいなと思いました。
第二次世界大戦で枢軸国側とも一定の距離で貿易等の付き合いをしながら敗戦国側に入らなかったのは、中立国としての経験や外交力の結果かなと思いました。
○つっこみどころ
・地理関係や人間関係が説明がないか荒い説明で登場することが多く、よく分からないまま読み流したところがいくつもありました。
もう少しページ数が多くなってもいいのでその辺りの説明があればよかったなと思いました。
・かなり細かく歴史的なできごとに触れられていますが、その数が多すぎて各できごとの記述が浅くなってしまっている気がしました。