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【バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史】レポート

【バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史】
マーク・マゾワー (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121024400/

○この本を一言で表すと?

 バルカン半島に関する様々なトピックを詰め込んだ本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・バルカン半島の歴史と現代に至るまでの経緯等の情報がかなり詰まった本だなと思いました。

・東ローマ帝国時代にはそれなりに中心地だったはずですが、その名残が宗教程度しか残っておらず、近代までほぼオスマン帝国の支配下にあっての歴史であり、それなりにうまく回っていたこと、バランスが崩れると一気に争いが増え、混乱に陥ったことがよく伝わってきました。

プロローグ バルカンという呼称

・「バルカン」という言葉は元々バルカン山脈を表す言葉で、そのバルカン山脈も別の呼称で呼ばれていたこと、「ヨーロッパにおけるトルコ」という呼び名が18世紀から19世紀にかけて定着していたこと、オスマン帝国衰退の時期に政治的な変化から新しい呼び名としてバルカン半島、バルカンと呼ばれるようになったことが書かれていました。

・地理的にヨーロッパに属していながらもこの地域は他のヨーロッパ地域とは明確に異なることから「ヨーロッパにヨーロッパではない地域」と見られていたこと、イスラム教への偏見などもあり、オスマン帝国衰退後はオスマン帝国に支配されていた時代を除いた古代や中世にルーツを求めるようになったことなど、ヨーロッパを美化する視点で語られることが多かったこと、今は再評価されている段階にあることが書かれていました。

第一章 国土と住民

・バルカン半島では一部を除いて降水量が少なく、暮らしづらい地域であったこと、河川も途切れていて交通の便が悪く、鉄道も敷きにくい立地だったこと、交通手段として長くラクダが主流だったことなどが書かれていました。

・農業を生業とする割合が多く、未開の地域のままであったところをオスマン帝国の進出で開放され、都市化が進んでいき、オスマン帝国から独立した後は金銭のための農業になって貧困化が進み、都市とそれ以外の対立が進んでいき、農民社会が崩壊していったことが書かれていました。

第二章 ネイション以前

・正教が中心だったところからオスマン帝国に支配されても特にイスラム教への改宗が強制されず、キリスト教内の宗派の区別どころかイスラム教との区別もつかない人が大多数で、正教会がオスマン帝国に組み込まれて支配システムの一部になっていったことが書かれていました。

・迷信も信じられ続け、他の宗教を批判せず、むしろ違いが判らないのでモスクにも教会にも行く人たちが多かったこと、イスラム教の方が縛りが緩かったので売春するためにキリスト教徒でもイスラム教徒側の慣習を利用したこと、離婚のためのツールとしてイスラム教への改宗が使われていたことなど、かなり柔軟な対応がされている事例が挙げられていました。
近代化が宗教的境界線を明らかにして18世紀半ばくらいから急激に宗教間の関係が悪化したそうです。

・オスマン帝国とキリスト教徒間を仲介して利益を上げていたファナリオティスと呼ばれる人たちがその対立の先鋒に立ち、ナショナリズムで分断していき、カトリックのローマ教皇が世界で大きな政治力を持っているのに対し、正教の大元のイスタンブールの総主教はトルコにわずかに残っている正教徒住民を管轄するに過ぎないという大きな差が生まれたそうです。

第三章 東方問題

・バルカン半島でヨーロッパの列強の介入によりオスマン帝国からの独立がなされ、不完全な形の独立や過剰なナショナリズムによる領土拡大意欲から独立後すぐに対立が激化し、第一次バルカン戦争・第一次世界大戦を経て各国の国境を争う状態が続き、オスマン帝国が崩壊してその後にトルコ共和国が成立し、ナショナリズムがより先鋭化されていったことが書かれていました。

第四章 国民国家の建設

・バルカン諸国が国民国家になっていく過程で、改宗・集団処刑・難民の流出などが相次ぎ、ナチス・ドイツに占領されていた時期は更に対立が煽られ、戦後もその対立が残ったこと、戦後は共産主義の浸透とともに都市化が急激に進み、経済政策の失敗等で苦しんでいったことなどが書かれていました。

・最後の締めとして、バルカン諸国にとっての脅威は帝国ではなく、バルカン諸国同士の争いでもなく、国際競争である、と書かれていました。

○つっこみどころ

・副題の『「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』に釣られて購入しましたが、原題は「THE BALKANS」で、「ヨーロッパの火薬庫」は本文にもあったかどうか記憶に残らないくらいで、世界史の教科書で定番のこの言葉は海外ではあまり使われていないのかなと思いました。

・巻末の「マーク・マゾワー『バルカン』解題」でも書かれていましたが、時系列で書かれておらず、また今日のバルカン諸国の枠組みでも記述されていないため、時代が前後したり地理的にも急に話が飛んだりしていて読み辛いと思える構成だと思いました。
始めの凡例で「原著には小見出しはなく、本訳書で付したものである」と書かれていましたが、小見出しがなければ更に読み辛かったのだろうなと思います。
無理につけられている小見出しなので、本文の一部としか一致しない小見出しも多かったですが、小見出しがあったおかげでかなり助かりました。

・219ページのルーマニアの面積が、単位が平方キロメートルで1兆を超えていて驚きました。地球の表面積でも5億1千万平方キロメートルくらいなので、兆が億の間違えでもまだ単位が大きすぎるなと思いました。