【物語チェコの歴史―森と高原と古城の国】レポート

【物語チェコの歴史―森と高原と古城の国】
薩摩 秀登 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121018389/

○この本を一言で表すと?

 チェコをヨーロッパ史の流れと人物で捉えた本

○この本を読んで面白かった点・考えた点

・チェコという国をどう捉えるか、ということ自体がなかなか難しく、それをチェコを含めた周辺諸国との関係とチェコに絡む人物で描くというコンセプトは面白いなと思いました。
歴史全体を見ると、民族的にも地理的にも文化的にも共通の軸を探すことが難しく、現在の国家も他国との違いをどう表すかに困ることがある、その一例になっているなと思いました。

第一章 幻のキリスト教国モラヴィア

・スラブ民族のなかでは西端に位置する国家としてできたモラヴィアがローマ教皇とビザンツ帝国の両方にキリスト教国としての立場を求め、言語や文字の問題なども乗り越えながら導入していった話は、陸続きで複雑な情勢を思わせるなと思いました。

第二章 王家のために生きた聖女

・マジャール人に攻められてモラヴィアが崩壊した後のプシェミスル朝でチェコ大公としてドイツに対しても権威を持つようになったこと、そのプシェミスル家の中でアネシェカという娘が修道院を築き、キリスト教会で影響力を発揮しながらもプシェミスル家の政治にも貢献していたことなど、当時の国家や宗教などとの兼ね合いの難しさを思わせるなと思いました。

第三章 皇帝の住む都として

・チェコの大公が神聖ローマ皇帝になり、プラハが王都のような位置づけになるなど、ヨーロッパ全体の中でも大きな位置づけになったというのは興味深いなと思いました。
皇帝に選定された者の地場が首都のような扱いになるというのは、今でも首都を発展させたい未発展地に移したりする政策などから考えると各地域の振興策になったのかなと思いました。

第四章 「異端者」から「民族の英雄」へ

・神学者ウィクリフやフスの言うことは宗教派としては真っ当でも教会としては受け入れられず、教会の中でも似たような意見を持っていても排斥に走ったこと、そのことからフス派戦争に繋がったことなどは、既得権益を守る者と奪おうとする者という今でもよくある構造なのだろうなと思いました。

・異端者とされていたフスをチェコという国のシンボルとして20世紀になってから取り上げられるようになったというのは、これまたどの国でもありそうなエピソードだなと思いました。

第五章 貴族たちの栄華

・モラヴィアの山奥から出てきて大貴族にまでなったペルンシュテイン家の話がさらっと書かれていましたが、日本の戦国時代のように複数の流動的な要素が入り乱れていると、地域が違えどこういったことがあるのだなと思いました。

第六章 書籍づくりに捧げた生涯

・グーテンベルクが印刷技術を考案した15世紀半ばから100年経ってある程度印刷技術が成熟したと思われる頃に、チェコ語で聖書を始めとした印刷で成り上がったメラントリフは、地域を限定してそこで基盤を作ったという意味でなかなかうまい立ち位置でうまくやったなという印象を受けました。

第七章 大学は誰のものか

・今でもチェコはキリスト教徒のほとんどがカトリック教徒だそうですが、フス派の拠点だったプラハ大学がカトリック急進派のイエズス会に乗っ取られかけながらも独自の立ち位置を守ったというのは面白いなと思いました。

第八章 大作曲家を迎えて

・公立劇場の設立にかなりの費用をかけたり、芸術振興にかなりの力を割いているというのは何となく思い浮かぶチェコのイメージにあっているなと思いました。

・モーツァルトがチェコによく行っていたという話は初めて知りました。
ピカソもそうですが、生前はそれほど売れているわけではなく、裕福な生活で送っていなかったというのは意外でした。

第九章 博覧会に賭けた人たち

・チェコ人とドイツ人の国民がいてドイツ人の国民が経済的に裕福な立ち位置でいる中で、政治的な動きでチェコ人が優位に立ちそうになり、企画していた博覧会からドイツ人が撤退した中でチェコ人が博覧会をやり遂げ、それがスラブ系の民族昂揚に至ったというのは、そのすぐ後に汎スラブ主義や汎ゲルマン主義などの民族主義の思想が出てきたことを考えると、多民族国家の複雑なところが出ているなと思いました。

第十章 「同居」した人々、そしていなくなった人々

・同じスラブ民族のなかでチェコ人とスロヴァキア人に分かれ、同じ国民になったり別れたりしていることはなかなか複雑な関係だなと思いました。
政治的な動き、戦争などでドイツ人がチェコからいなくなったり、ユダヤ人が認められたり迫害されたりというのも複雑だなと思いました。

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