【物語 ビルマの歴史 – 王朝時代から現代まで】レポート

【物語 ビルマの歴史 – 王朝時代から現代まで】
根本 敬 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121022491/

○この本を一言で表すと?

 近現代史を中心としたビルマの通史の本

○この本を読んで面白かった点・考えた点

・この本を読んで、最近クローズアップされ出したミャンマーについて、どのような経緯をたどってきたのかをかなり詳しく知ることができました。
他の植民地にされた国との共通点やミャンマー独自の事情などについての理解がかなり進んだように思います。

序章 ビルマ(ミャンマー)という国

・「ミャンマー」「ビルマ」という呼び方の問題で、なぜ呼び方が変わったのかの背景が書かれていました。
国家としてのビルマと民族としてのビルマを別の呼び方をすることで国家として統合するというのは他の国でもあったことで、ごく一部の権力を持った立場にある者が決めたことだと知ることができました。

・名前について、ミドルネームがたくさんあるのかと思っていましたが、姓を持たない人たちで、「アウンサンスーチー」もそれだけで名前として成立しているとうのは初めて知りました。

・国土が日本の1.8倍あるというのは、何となく日本と同じかそれより小さいイメージを持っていたいので意外でした。

第1章 王朝時代のビルマ

・ビルマが東南アジアの中で強国として存在していてタイを攻め落としたことがあることは「物語 タイの歴史」で書かれていましたが、ビルマ民族より前の民族から連なっている歴史を概要だけでも知ることができてよかったです。

第2章 英国植民地化のビルマ

・ビルマがインドに近い立地からイギリスの干渉を受けやすい位置にあり、インドへの食糧供給地という位置づけになったこと、イギリスの領地としての南側と対象外の北側で元々立地上の優位性が南側にあった上に投資されて格差ができたというのは、外部からの影響に抗えなかった国の典型パターンだなと思いました。

第3章 ビルマ・ナショナリズムの擡頭

・イギリスが入ってきたことで「国民」という観念がビルマにも根付き、また初めて中間層が生まれたことで、それまでの王朝時代と大きく情勢が変わり、そのことでビルマ・ナショナリズムが生まれたというのは、形がかなり違いますが、日本やタイが外部の脅威に対抗しようとして変革していったケースと似ているなと思いました。

第4章 ビルマ人行政エリートの世界

・ICSという高等文官の立場の者が行政を運営するという仕組みがインドからビルマに導入され、ある程度根付いてからビルマ人もそのICSの立場になることができたというのは、ビルマ人が変わっていったすごさも感じましたが、それ以上にその仕組みを導入したイギリスのやり方のすごさを感じました。

第5章 日本軍の侵入と占領

・ビルマにおける日本占領期の話はあまり知らなかったですが、東南アジアで割とうまく行ったケースもある中でかなり悪い方のケースだったのだなと思いました。
泰緬鉄道の工事でほとんど後にも有効利用できないレベルの成果だったにもかかわらず、連合軍捕虜を含めて10万人以上の犠牲者を出したというのは、捕虜虐待と言われても仕方ないレベルだと思いました。

第6章 独立への最短距離

・ビルマが日本に占領されていた時からイギリスに再度占領されるようになって、そこからの独立運動が世界的な情勢が味方して進んでいったというのは幸運でもあり、自らのペースで進めることができなかったことは不運でもあったのだろうなと思いました。

・「ビルマ建国の父」と言われたアウンサンが32歳で暗殺されていたというのは、それまでの活動の早熟さと早逝も相俟ってかなり密度の濃い人生だなと思いました。

・アウンサンを暗殺したウー・ソオがビルマの首相になれるようなエリートコースを歩みながら、失脚し、それからアウンサンの暗殺に踏み切るまでの経緯も書かれていて、こちらもかなりアップダウンの激しい人生だなと思いました。

・民族問題が解決されないままに独立し、そのことが現代に至るまで問題となるのはイギリスに占領されていた他の元植民地と同じだなと思いました。

第7章 独立後の現実

・独立後、混乱した中で首相となったウー・ヌがその混乱を収拾できず、軍部の力を借りて再起するもまた安定できなかったという流れは、その状態で不安定な形でトップになったものの悲哀を感じました。

第8章 ビルマ式社会主義の時代

・ネイウィンが軍事クーデターを起こしてトップに立ち、開発独裁を狙ったというのは韓国などの他の国でもあるケースですが、その運営の失敗ぶりを見ると、トップに立ったグループの能力に左右されるかなりリスクのある方法なのだなと思いました。

・国際連合の第三代事務総長がビルマ人のウー・タンだということは初めて知りました。

・1988年に大規模な民主化運動が起こり、ネイウィンが失脚するところまでいきながら、軍部にひっくり返されたというのは、勢いだけではうまくいかないという、最近のエジプト革命と少し似ている事例だなと思いました。

第9章 軍事政権とアウンサンスーチー

・アウンサンスーチーが「ビルマ建国の父」と言われたアウンサンの娘だったということを知ってから、親の七光り的な立場の人だったのかと思っていましたが、その活動を具体的に知り、かなり心の通った活動家だったのだなと思い直しました。
ガンジーの思想を学び、実践しようとしている人は数多くいると思いますが、アウンサンスーチーほど徹底している人はそれほどいないのではないかと思いました。

第10章 軍政後のビルマ

・大統領が軍人ながらもバランスの取れたテインセインになってから民間との対話が生まれ、うまく回って国際的なイメージを回復しているというのは、やはり独裁的な体制ではトップに立つ人間次第で大きく変わるということをかなり体現しているなと思いました。
既得権益者がいれば対話の方向に反対するでしょうし、良い方向に向かって安定するかどうかはまだ分からないのだろうなと思います。

終章 ビルマ・ナショナリズムの光と影

・「ビルマ」がビルマ民族を表すようなビルマ対非ビルマの構造や、従順さと暗記がメインの教育問題などはかなり根が深く改善までの道のりは長そうだなと思いました。

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