【米中海戦はもう始まっている 21世紀の太平洋戦争】レポート

【米中海戦はもう始まっている 21世紀の太平洋戦争】
マイケル ファベイ (著), 赤根 洋子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4163907939/

○この本を一言で表すと?

 21世紀の米中間の温かい戦争の経緯や背景について述べた本

○面白かったこと・考えたこと

・海軍担当記者という立場の著者が様々な海軍関係者にインタビューした話を基に米中間の衝突や力関係、動きなどについてまとめ、考察した内容が述べられていました。
現場で起こっている出来事を拾い上げ、ボトムアップで考察しているのが印象的でした。

・オバマ政権の対中融和政策を基本的に批判し、そのせいで中国が力をつけ、アメリカに対抗しようと行動を起こし始めた、という内容でした。
他の本でも、海軍の人が書いた本では基本的にオバマ政権が対応を誤っていたと批判されている論調が多いのが興味深いなと思いました。

第1章 中国空母<遼寧>に接近せよ

・2013年12月、中国の空母「遼寧」の出航に合わせてけん制するために派遣された巡洋艦「カウペンス」が古いシステムと新人ばかりの乗組員によって動いていたこと、対中融和論と対中強硬論が争う中での中途半端な指示の下で動いていたことなどが述べられていました。

第2章 アメリカ一強時代の終わり

・アジア太平洋地域における各国(ロシア・北朝鮮・韓国・日本・台湾・フィリピン・オーストラリア・インドネシア・マレーシア・シンガポール・インド・タイ・ベトナム)の海軍力が比較されていました。

・アメリカは太平洋域に海軍を集中しており、その戦力の配備や訓練状況が述べられていました。

・中国がここ十年、十五年でかなり挑戦的になっていて、アメリカ一強時代に挑んでいるような態度を取っていることが述べられていました。

第3章 中国海軍の野望とトラウマ

・1995年の台湾危機で中国はアメリカ海軍との差を見せつけられ、それから戦力開発や人材開発に注力し、中国海軍の軍人はアメリカに勝てると本気で思っていること、アメリカ海軍は中国海軍の軍人を過小評価していることなどが述べられていました。

・海軍が脆弱であったことがアヘン戦争以来の屈辱の百年間を招き、市場経済転換後はアメリカ海軍に海上交易路の保護を委ねていて台湾危機で屈辱を味わい、人民解放軍将軍の劉華清が「第一列島線」「第二列島線」の打破を唱え、十二年間で軍事費を四倍に増加させ、アメリカを排除して西太平洋の覇権を握ることができると考えられているそうです。

第4章 海南島事件の衝撃

・2001年4月、国際法上は中国の排他的経済水域であり、公海である地域でアメリカの哨戒機が中国の戦闘機に追われ、3メートル以内にまで接近され、衝突して海南島に不時着し、機密情報を事前に廃棄したものの機体は接収されて搭乗員は捕虜になったという事件があったそうです。
この時期はそれほど開発されていなかった海南島は以降軍事基地として開発され、原子力潜水艦等まで配備されるようになったそうです。

・2009年3月に海南島の120キロメートル南を航行していた海洋調査船「インペッカブル」は中国にここは中国の領海であると警告を受け、中国の船舶に囲まれて身動きを取れなくされたそうです。

・「インペカブル」の事件と同じ時期に別の海洋調査船は中国の監督船に強力なサーチライトで照らされ、飛行機が頭上すれすれを11回通り過ぎるような挑発を受け、その2ヶ月後には中国のトロール漁獲船2隻に追いかけられ、その1ヶ月後に南シナ海を航行していたアメリカの誘導ミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」に中国の潜水艦に衝突される事件が起こるなど、中国は対話からアメリカ海軍に対抗する行動へとシフトしていることが述べられていました。

第5章 米軍艦見学ツアーへようこそ

・オバマ政権が推し進めた「太平洋重視政策」は対中融和政策が基本となっていて、米中両軍の交流等が基本だったこと、合同演習への参加を勧めていたこと、米空母「カール・ビンソン」に人民軍海軍大将の呉勝利が見学にくることになったこと、最新の沿海域戦闘艦も見学し、能力が低いと見てとられたことなどが書かれていました。

第6章 緊急停止!

・第1章で紹介された巡洋艦「カウペンス」が遭遇した事件について述べられていました。
中国の空母「遼寧」の周辺の艦隊が「カウペンス」の進路をふさぎ、「カウペンス」を緊急停止させたそうです。
この緊急停止は「クラッシュバック」と呼ばれ、艦長の責任となってしまい、中国から見て公海上のアメリカ海軍に対して勝利を収めた、ということになってしまったようです。
中国の呉海軍大将は「海軍は関与していない」ととぼけ、「カウペンス」の艦長グレッグ・ゴンバートが体調不良で表に出なくなり33歳の女性少佐が臨時副艦長となり、艦長と副艦長のスキャンダルになり、両者とも解雇されることになったそうです。このカウペンスの姿が現在のアメリカ海軍の姿を映し出している、と著者は警鐘を鳴らしていました。

第7章 対中強硬派の逆襲

・2014年7月のアメリカが主催する世界最大の合同海軍演習「リムパック」に中国を招待し、参加した中国が予定外のスパイ船をリムパック展開中に「ロナルド・レーガン」空母打撃群の数キロメートル先に差し向けるなどの挑発行為に出て、そのス週間後にはアメリカの偵察機「ポセイドン」の周りを中国の戦闘機がバレルロールで一回転するなど、挑発を続けているようです。

第8章 「空母キラー」がすべてを変えた

・中国が開発した「空母キラー」と呼ばれる弾道ミサイル「東風」が、アメリカ海軍の戦略に大きく影響していることが述べられていました。
アメリカではミサイル開発が停滞していて、これを撃墜できる能力のあるミサイルは現時点では存在していないようです。

・対抗する策として、「浮かぶ船なら全て軍艦」戦略で、沿海戦闘艦などを数多く投入する策、ノルウェー製攻撃ミサイル「NSM」を導入する策、「レーザー兵器」「レールガン」で撃墜する策などがあり、大電力を賄える艦船の開発も進められているそうですが、「空母キラー」に対抗できるのは2020年代半ばくらまで待たないといけないそうです。

第9章 軍事要塞と化した南シナ海

・中国が軍事力を背景に南シナ海の環礁を次々と略奪し、埋め立てて軍事施設を建設していっていること、国連海洋法条約では中国に領有権は発生しないが気にせず実効支配を進めていること、それらのことを批判したハリス上院議員が中国では極悪人扱いされていること、ハリス上院議員がCNNの取材班をつれて南シナ海を航行する偵察機「ポセイドン」に行って中国を晒し者にしたこと、オバマ大統領は変わらず中国への接近政策を維持したこと、中国大使が国際常設仲裁裁判所の裁決を「紙切れ」と言い放ったこと、アメリカが西太平洋でのプレゼンスを失いつつあることなどが書かれていました。

第10章 ドナルド・トランプという選択

・トランプ政権になってから、突如対中強硬路線に変わり、アメリカ海軍の強化に舵を切り、潮目が変わったと著者は見ているようです。
ただ、中国を屈服させようとすることは、中国指導部が国民から軽視されることになるため最も恐れており、それを目的にしない方がいいということが述べられていました。

○つっこみどころ

・原題は「Crashback」で第6章で紹介されている緊急停止の事で、邦題とは全く違っていて、邦題は本の内容ともあまり一致せず、売れる名前をつけようという意図が感じられ、不満に思えました。

・米中間の事件が時系列に述べられておらず、「カウペンス」に関する話が第1章と第6章に分かれていたりして、若干分かりづらい構成になっていたなと思いました。

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