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【アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で】レポート

【アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で】
渡辺 将人 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4004316162/

○この本を一言で表すと?

 アメリカ政治が紆余曲折する要因について述べた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・アメリカ下院議員、ヒラリー・クリントンの選挙に関わった後でテレビ東京に入社し、オバマ評伝を書いた若手の著者の内部で経験した者に分かる空気、感覚に少し触れられたように思いました。

・「利益の民主政治」「理念の民主政治」という2極と言えるほど異なる民主政治について、それぞれの特徴やミックスされた状況などが述べられていて、読み解くのが困難なアメリカの政治について考える軸が一つ得られたように思えました。

・コラムでアメリカのテレビ番組や映画などを取り上げて、その中で何がクローズアップされているか、表現されているかを通して本書の主題である民主主義について触れているのは面白い視点だなと思いました。

Ⅰ 揺れ動くアメリカの民主政治

・著者はアメリカの政治に重要なのは「玉・風・技」の3要素と考えているそうです。
「玉」は候補者の資質・経験・物語、「風」は政治環境の条件、「技」は周囲のブレーンや資金を表すのだそうです。
候補者の特徴や主張がかなり大きな要素で、その要素が選挙時の環境にマッチしていない限りは当選できない、というのはその通りだなと思いました。

・建前と本音の問題で、表明しやすい内容(有色人種の大統領でも女性の大統領でも構わない)と実際の投票が大きく異なること、その本音部分に配慮するようにイメージ(黒人だが熱心なクリスチャン、女性リーダーだが母性的)を作っていくことが重要で、オバマが成功してヒラリーが失敗した点などが直接的ではないですが、触れられていました。

Ⅱ アメリカ政治の壁<1>

・自動車産業等の特定の業種、労働組合や消費者団体等の特定の団体などが、貿易自由化・保護貿易化などの論点で自分たちの利益が実現される方向に政治を動かそうとすること、キリスト教内の宗派による考え方の違いや「プロチョイス・避妊」や同性愛の容認・否認等の問題にひっかかりを覚えると他の点で賛成でも反対派に回ることなど、大統領・政党選択が容易でないことが述べられていました。
あくまで複数の選択肢の組み合わせである政策ミックスであり、単独の選択肢をそれぞれ選べない二大政党制の特徴が逃れられない困難な壁を築いていて、政策ミックスである限り選挙結果・政策実施結果に100%満足できる者がほとんどいないことが、問題を難しくしていそうだなと思いました。

Ⅲ アメリカ政治の壁<2>

・オバマが受賞したノーベル平和賞が、アメリカの他国への人道的介入を避けえない枷となっていることは、なかなか興味深い話だなと思いました。
そのせいで他の実施したい政策を進められなくなるのはある意味で外圧に妨害されていることと同様で、直接的でないことですら政治に影響を与えてしまうというのは、思い通りに政治を執り行うことの困難さが伝わってくるように思いました。

・ハワイで沖縄系の日系人「オキナワン」が多く住み、そのオキナワンのダン・イノウエが、年次が進んでいる者が優位である上院で要職についてハワイ州に利益を与えていたことは初めて知りました。
そのダン・イノウエが亡くなった後に後継者として指名された者がその後継につけなかったことなど、州においても政治の複雑さがあるのだなと思いました。
ハワイ出身のオバマがその状況に介入できなかった(しなかった)ことの理由として、「アフリカ系の大統領」というアイデンティティを「太平洋出身の大統領」というアイデンティティで塗り替えることが立場上許されなかったと考察されていて、それだけが理由ではないとしても、政治上重要なイメージというものがあり、多くのものに優先されるという不自由さは、確かに政治の「壁」だなと思いました。

Ⅳ リベラルの混迷と出口探しの行方

・封建制が存在しなかったために、その対抗として生まれる社会主義が生まれなかった、という考えは初めて知りましたが、なるほどと腑に落ちるものがありました。

・政治思想的に左に右にと行き過ぎると、穏健な思想が生まれてくるという今までに何度もあったであろう流れでニュー・デモクラット運動が生まれ、更に妥協的なポピュリズム路線にオバマ政権が向かうという流れも、支持されるために苦慮する政権担当者のやむを得ない状況にも思えてきて、本当に大変そうだなと思いました。
結論としても、すぐに結果を出すのは難しいということが述べられていました。

・オバマが広島に来たことが一時期ニュースになりましたが、オバマがどれだけそれを望んでいて、そのことにどれだけの意味があったのかということはあまり考えたことがなかったので、かなり重要視してそのための準備がなされていたというのは驚きでした。

○つっこみどころ

・つらつらと書かれている文章で、「要は何が言いたいのか」が捉えづらい本だと思いました。

・ところどころに出てくる「玉」「風」「技」という表現が分かりづらく、著者がそれらに意味づけた内容がより感覚的に掴み辛くなったように思いました。

・所々で、本の内容にかかわる人物の写真が載せられていますが、写真から受ける印象とその思想や行動があまり一致していないように感じるのは、この本で述べられている典型的な思想・行動以外の複雑なバックグラウンドがあるからかなと思いました。
もちろん限られた文章で掘り下げることが難しいのだとは思いますが、ステレオタイプとして紹介されていることに違和感があるところもありました。
そういう違和感に気付けるように配慮したのかもしれませんが。