【日清・日露戦争―シリーズ日本近現代史〈3〉】レポート

【日清・日露戦争―シリーズ日本近現代史〈3〉】
原田 敬一 (著)
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○この本を一言で表すと?

 社会史的側面に重点を置いた1890~1910年の歴史の本

○面白かったこと・考えたこと

・日清戦争に関する記述が薄く、日露戦争は戦争自体にはほとんど触れないくらい、という内容の本で意外でした。
当時の社会風俗はどうなっていたのか、どのような自由を味わっていたのか、文化人はどのような動きをしていたのか、労働運動や平和運動はどこで生まれてどうなっていったのかなど、社会史的な側面の強い本だったと思いました。

第1章 初期議会

・1890年に、トルコのように白人以外の憲政が成り立たないと言わせないという意気込みのもとで総選挙、第一回議会が行われ、衆議院は予算削減をメインに議論されて終わり、政府は議会運営が困難であることを思い知らされたそうです。

・ロシア皇太子が襲撃される大津事件が起き、司法権独立が示される判決があったりする中で、松方内閣の積極政策に反対する衆議院の大幅な予算削減に対し、衆議院解散から2回目の総選挙が行われ、この選挙でかなりの選挙干渉が行われて批判を受けるなど、混乱が続いていたそうです。

第2章 条約改正

・ロシアのシベリア鉄道建設計画に対し、山県有朋が長年懸念を表明し続けていたことが述べられていました。
一方で、ロシアのシベリア鉄道が貿易振興に繋がるとして歓迎する者もいたそうです。

・松方内閣は選挙妨害で民党の批判を受けて辞意を表明し、伊藤内閣が組閣され、自由党と提携して海軍拡張が認められる方向に動いたそうです。

・日清戦争開始直前にイギリスとの条約で治外法権が改正されたというのは、日清戦争勝利後に初めて交渉の土台に乗ったものと思っていたので意外でした。

・戦争のたびに天皇に感謝して議会が全会一致とする流れが日清戦争からできたという話が印象的でした。

第3章 日清戦争

・朝鮮で東学が広まり、農民軍が蜂起して、居留民保護の名目で混成旅団として8,000人を超える軍を朝鮮に送り込み、農民軍が全州和約で解散した後も駐兵を続け、清からの撤兵要求だけでなく欧米列強の調停の介入があったものの、清が否定したことから日清交渉を打ち切り、開戦につながったそうです。

・朝鮮王宮を襲撃し、豊島沖海戦で英国船籍の高陞号を撃沈したものの国際法上問題ないとされるなどが序盤戦であったそうです。

・平壌陥落後は朝鮮から清国内に戦場が移ったものの、朝鮮でも東学農民が放棄し、それを朝鮮政府軍と日本軍が弾圧・殲滅していったそうです。

・戦争で朝鮮、清に渡った兵士は、現地の不潔さや臭いから文明の差を感じ、それがまた差別感情に繋がったそうです。

・黄海海戦では日本が完勝したものの、日清両側に武器を売っていたアームストロング社がその後更に旨味が大きくなっていくことが述べられていました。

・下関講和条約が想定より早く締結されそうになったことと、それまでに台湾と澎湖諸島を押さえて置きたい事情があって、台湾占領がかなり急がれていた事情が述べられていました。

第4章 台湾征服戦争

・台湾割譲後、台湾民主国として日本の台湾総督府に対して大規模な反抗が行われ、台湾総督府は民政から軍政となって北守南進政策を進め、台湾割譲の翌年にようやく台湾全土を収めることができ、実質的に台湾征服戦争は日清戦争の次の戦争と言える規模になったそうです。

・台湾は外地として、実質的に植民地として憲法が適用されない領地という扱いになり、台湾神社を設立したり林業を振興したりして支配を進めていったそうです。

・日清戦争、台湾征服戦争が終わったあたりで、漢文から国語として日本の文化を確立する運動が活発になったそうです。

第5章 日清戦後と国民統合

・日清戦争後は近代化が進み、財政も拡大したままで、財政支出が戦争前の数倍規模が通常になっていったそうです。
拡大する歳出に対応するために増税や新税で歳入拡大が図られていったそうです。

・進歩党が合同して勢力を増すと、大隈重信に組閣させることになり、すぐに失墜したそうです。

・日清戦争後は沖縄以外の各道府県に聯隊区が置かれ、徴兵制度が本格化したそうです。

・1900年には伊藤博文主導で立憲政友会が設立され、政党政治に元勲側も参画するようになっていったそうです。

・日清戦争後には労働争議が増加し、労働運動に関する運動や大会なども増加していったものの、山県内閣が治安維持法を成立させてストライキ等を重罪とみなすようにして労働運動を縮小させたそうです。

第6章 民友社と平民社

・日清戦争後に民友社で「国民之友」という雑誌が創刊され、社会小説などの分野や言文一致の文章を書く人が出始めたそうです。
また社会の底辺の人たちを描く小説や記事も出始め、様々な出版社が取り扱うようになっていったそうです。
特に戦争反対派の人達が集まって平民社を結成し、世の中に論陣を張るようになっていったそうです。

・活字文化が広がり、またその基本となる中等教育が日本中に設立されることで活字を読む能力を有する若者が増え、文化水準が上がっていったそうです。

第7章 日露戦争と韓国併合

・三国干渉により山東半島を無条件変化させられた後、ロシアが満州に進出し、朝鮮でも利権の確保を狙っていたことから対露感情の悪化がより進んでいたそうです。

・ロシアが満州で権益を得て日本は韓国で権益を得るという「満韓交換論」が日露間で取り沙汰され、それなりにうまくいきそうだったのにも関わらず、すれ違って開戦に至ったそうです。

・日本が自国でもロシアでもヨーロッパ諸国でも予想しないほどに勝利を収め、アメリカの仲介でポーツマス条約を締結し、日露関係はすぐに回復し、日本はまた軍拡の方向に走り出そうとしていたそうです。

・伊藤博文暗殺から1910年に韓国併合が実施され、帝国主義としての道を順調に歩んでいったそうです。

○つっこみどころ

・日清戦争・日露戦争について詳しく学んでみようと考えて購入した本でしたが、タイトルとは異なり、戦争自体についてはかなりあっさり書かれ、それほど文章も割かれていない本でした。

・当時の日本の立ち位置に批判的であろうという姿勢を感じましたが、行き過ぎて偏っている印象も受けました。

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