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【日本近代史】レポート

【日本近代史】
坂野 潤治 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/448006642X/

○この本を一言で表すと?

 幕末から戦前までの各時代を区分し、その区分ごとに掘り下げて書いた本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・幕末から太平洋戦争前までを6つの時代に区分してそれぞれの時代を掘り下げ、意味づけしていくというのは面白いなと思いました。
それぞれの区分に著者が見出した意味づけもなるほどと思わせる説得力があるなと思いました。

・あえて太平洋戦争前からの崩壊期については書かなかったというのは、確かにただでさえボリュームのある本がさらに分厚くなりそうですし、他の区分に比べてかなり他の本で書かれていますし、うまい取捨選択だと思いました。

・著者本人が好きそうな人物(ダントツ1位が西郷隆盛)の描写にかなり力が入っていて、そうでない人物との差が大きくて興味深かったです。
だれを基点に描くかで同じ時代を描いた他の本を読んで感じた印象とかなり変わり、いろいろな面から一つの時代を見ることの大事さに改めて気づかされました。

第1章 改革

・西郷隆盛が他の同時代の人物と異なる視点「二つの合従連衡」に留意したことがクローズアップされていました。
藩レベルの合従連衡だけでなく、藩士レベルの合従連衡というのは、その時代の人にとって考え付きにくかったであろうことは推測できますが、間違いなく一個人の信念や感情も大きな要因だったでしょうし、そこに気付いて配慮したのはすごいなと思いました。
併せて、頑ななまでの信念や配慮で個人としての人間の魅力と、実行すべきことを断じて行う行動力もすごいなと思いました。
同時期の大久保利通も相当に活躍していたと思いますが、そこは過小評価しているような印象を受けました。

第2章 革命

・薩摩藩と長州藩が手を組むまでのプロセスはかなり苦労していたイメージがありますし、その同盟が当時はとても考えられなかったような描写は他の本でも書かれていましたが、この本では利害関係上当然のことだったような書かれ方をしていて新鮮でした。
長州藩が幕府に敵対した時のことを朝敵ではないという風に持っていくことに西郷隆盛が腐心していたというのは初めて知りました。
そのことが幕府との妥協を許さない要因になっていたというのは斬新な見方だなと思いました。
倒幕勢力と佐幕勢力で、兵数だけを見れば圧倒的に佐幕勢力が有意だったことは他の本でも書かれていましたが、改めて数字で見るとかなりの差だなと思いました。
戊辰戦争や東北戦争などにおいても新政府側の軍隊がかなり貧弱であったり、戦争後に一度解散していたりなど、中央になった勢力の脆弱さは、その後の隆盛した姿を知っていると以外で、すごい進歩だなと思いました。

第3章 建設

・「富国」と「強兵」は共に進む両輪として特に対立しているイメージを持っていませんでしたが、どちらも進めるとして、どちらを優先して進めるかについて、当時はかなり対立していたというのは初めて知りました。
当初のリソースが限られている以上、最初にどちらに優先的にリソースを振るかというのがかなり大きな争点になるのは、考えてみればそうだなと納得できました。
創立したばかりの政府の重役が年単位で海外に視察に行って学んでくるというのは、他の本でも出てきましたがものすごく冒険的な政策だなと思いました。

第4章 運用

・参政権が一定以上の税を納めた者にだけ与えられていたことは歴史の教科書にも載っていて知っていましたが、当時の税が地税メインであって有力な農民が参政権の大部分を占めていたこと、そのことから士族の団体に拮抗するほど農民の団体が力を持ってきたことなどは初めて知り、一つの取り決めがどれだけの影響を持つかということを示しているなと思いました。
納税者が参政権保有者のメインであれば、当然減税の恐れがあるということから、それを阻止するための検討が行われていたことも興味深かったです。

第5章 再編

・力を持った官僚と特権階級の民衆が既得権益者となっていった時代に、日清戦争から始まる戦争権益が追い風となって政治主導が可能になり、政党政治が始まる再編の時代、という政治勢力同士の主導権争いは、地力だけでなく外的要因も影響して複雑だなと思いました。
景気が良くなるとそれまで我慢していた規模の拡大がいろいろな場面で可能になって軍が勢力を拡大すると同時に、一時的な平和が政党政治を可能にして軍隊の者が肩身の狭い思いをするなど、当時の雰囲気の移り変わりも興味深かったです。

第6章 危機

・美濃部達吉が憲法に関わったり「天皇機関説」を唱えたりしたというのは歴史の教科書で知っていましたが、美濃部達吉が述べた意見が当時の与党である民政党の意見のように捉えられ、軍の反発を受けたり、マイナスの方向に影響力を発揮していたというのは斬新で興味深かったです。
軍の統制派や皇道派の成立経緯やその後の展開、石原莞爾等のごく一部の人間が画策した満州での勢力拡大から日本の動きが大きく変わっていったことなど、他の本でも読んでいたことが別の視点で詳しく書かれていて理解が深まりました。
五・一五事件や二・二六事件の背景だけでなく、それ以外の血盟団事件の背景など、他の本だとさらっと流されているような事件もクローズアップして書かれていて興味深かったです。