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【コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液】レポート

【コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液】
臼井 隆一郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121010957/

○この本を一言で表すと?

 コーヒーを中心に世界が廻る様子を描いた歴史の本

○この本を読んで興味深かった点・考えたこと

・歴史の各ポイントでコーヒーがどのような位置づけにあったかが物語調に語られていて、楽しく読めました。
内容もかなり充実していて、25年以上前に出版されてから20刷まで出ているのも納得でした。

・著者がドイツを専門にしているからか、ドイツのトピックが多めでしたが、それが不自然でなく時代を通じたコーヒーの位置づけを、ドイツを実例として挙げられていて分かりやすくなっていたと思いました。

第一章 スーフィズムのコーヒー

・イスラームの中でも神秘主義であるスーフィーにとって、「食欲をなくす」「抗眠作用のある」コーヒーがメッカの聖水である「ザム・ザムの水」のようなものである、という位置づけで尊ばれ、修行の助けとして積極的に飲まれていたのはある意味現代日本のサラリーマンと似ているようで面白いなと思いました。

・ワインを飲むことを禁忌としているイスラームでコーヒーもワインに類するものではないかという疑いで禁止されかけた「メッカ事件」の話も興味深いなと思いました。

・トルコで「コーヒーの家」で語り合うことが流行していたのも、その後のヨーロッパでの流行を先取りしていて、もしくはヨーロッパがイスラーム世界の模倣をしていたのかもしれないなと思いました。

第二章 コーヒー文明の発生的性格

・イエメンのモカの地のみで取り扱われていたコーヒーがレヴァント商人やオランダ商人によって大々的に取り扱われ始め、オランダが植民地でも栽培し始めたことについて触れられていました。

第三章 コーヒー・ハウスと市民社会

・今では紅茶で有名なイギリスでコーヒー・ハウスが大ヒットして、男性しか出入りできず、身分違いの者でも自由闊達に議論ができたという近代のニーズへの適合ぶりで大流行していたのが、半世紀ほどで下火になった理由として、女性たちのコーヒー・ハウスに対する反抗や、「コーヒー・インポテンツ原因説」によりあっという間に下火になってしまったという顛末は面白いなと思いました。

第四章 黒い革命

・フランスでは貴族のサロンなどで行われる高級志向のカフェと庶民向けのコーヒー・ハウスがそれぞれ流行したこと、木底のサロンは決められた日に設備が全て搬入されて一日カフェになり、高級な食器等を扱うことで財政を傾けるほどだったというのは初めて知りました。

・庶民のコーヒー・ハウスでは様々な人々が出入りして、王制に反対する人なども集まり、賑わっていたというのは、公共性のある領域で人が集まると尖った方向に進むことがあるという現代でもありそうな話だなと思いました。

・コーヒー・ハウスごとに特定の主張をする人が集まり、それぞれ先鋭化していったこと、黒人解放運動に繋がるような動きも出て、コーヒー生産地であるフランスの植民地のハイチが独立する流れにまでなる話なども興味深いなと思いました。

第五章 ナポレオンと大陸封鎖

・ナポレオンの大陸封鎖でコーヒーの入手が困難になったフランスでかなりの種類の代用コーヒーが開発されたこと、その前にプロイセンでも代用コーヒーが開発されていたことなどが書かれていました。

・「ドイツのコーヒー」が代用コーヒーの総称になるほどだというのは初めて知りました。
陸上のあらゆるもので代用コーヒーが作られ、海草でも作られていたというのはすごいなと思いました。

・マルクスが砂糖とコーヒーの欠乏がナポレオンに対する蜂起をもたらした、と言うまでの影響があったというのも興味深い話だなと思いました。

・ドイツではコーヒーと一緒に甘いものを食べる習慣が女性だけでなく軍人までもつようになり、大いに消費することになったというのも面白いなと思いました。
コーヒー・ハウスの店内にプロイセンの軍国精神が行き渡っているかのような派手な演出をしてそう仕向けたそうです。

第六章 ドイツ東アフリカ植民地

・ドイツが東アフリカを植民地にしてコーヒーを生産しようと考えたこと、他の列強諸国とは異なり、十分な就業体制と賃金を用意して現地民を雇用しようとしたこと、習慣が異なり過ぎてうまくいかなかったこと、結局うまくいかずに他国と同様に弾圧して「マジ・マジの反乱」で現地民の相当数が死亡することになったことが書かれていました。
例え良かれと考えて導入した制度でも、現状にそぐわなければうまくいかないというのは現代の企業などでも同じですが、その顕著な実例だなと思いました。
この経験から特に人種差別的な、人種の優越にまで踏み込むまでの極端な考え方がドイツで生まれたそうです。

第七章 現代国家とコーヒー

・ドイツにとってコーヒーが重要な軍需品となっていた様子が書かれていました。

・第一次世界大戦で「心痛」というタイトルの詩でコーヒーに使う生クリームが切れたことを主題としているのが面白かったです。

・世界最大のコーヒー生産国となったブラジルで、コーヒーに高値が付いた後、コーヒーが植えられてから収穫まで5年かかることが災いして大恐慌の影響が大きくなり、石炭の代わりにコーヒー豆を燃やす写真が有名になるほどに供給調整をしなくてはならなかったというのは、需要と供給のバランスによる事態とはいえ、すさまじいなと思いました。

終章 黒い洪水

・コーヒーを飲む、という行為が人工的なものであること、遠い生産地で収穫され、加工され、輸送され、供給されていることに焦点を当てて締めくくられていました。
コーヒーが資本主義の商品交換社会の産物であり、現代においてもコーヒーと世界は回っている、という話でした。

○つっこみどころ

・時々洒落や駄洒落が交えられていたのが、東大名誉教授の著作としていいのかなと思いましたが、それも含めてノリが面白かったです。