【韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌】レポート

【韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌】
木村 幹 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121019598/

○この本を一言で表すと?

 韓国歴代大統領の各歴史的ポイントの立場や行動について書かれた本

○この本を読んで面白かった点

・最初から最後まで様々な人間ドラマが展開されていて面白かったです。

序章

・1945年8月15日を各歴代大統領がいろいろな立場(日系企業、亡命政治家、日本軍など)で迎え、その日を境に人生が大きく変わっていったことが、環境変化の人生への影響の大きさを物語っていて面白いなと思いました。

・建国の父と呼ばれる李承晩がこの時点で70歳と高齢で、オーストリア人と結婚していたのは驚きました。

第1章

・終戦後に様々な「自称政府」が乱立したのは面白いなと思いました。独立運動などを経て独立した国であれば、現政府が1つ、反政府が1つというのがほとんどですが、外的要因で突如独立となるとこのような事態になることが興味深かったです。

・後に軍事政権を築いた朴正煕が師範学校で落第生ながら卒業し、一度先生になりながらも元々憧れていた軍人になったという経歴だったのは面白いなと思いました。

・金大中が20代の時に日系企業で日本人がみな帰国した中で成り行きのままその経営者となり、さらに独立して手腕を発揮していったというのはすごいなと思いました。

第2章

・朝鮮戦争で韓国自体はほとんど戦えず、「北朝鮮軍にやられまくり⇒アメリカ軍が押し返す⇒中国義勇軍が押し戻す」というプロセスになったことは知っていましたが、その頃の韓国政府の動きなどは初めて知りました(ソウルにいた李承晩がこっそり脱出していたり、その後何度も処刑されかける金大中が処刑場に送られていたり。)。

・金泳三が自分の部屋に「未来の大統領金泳三」という張り紙を中学の頃にしていたというのは後に実現することになることを考えるとすごい実現力だなと思いました。

第3章

・独裁政治を行っていた李承晩が憲法を改正して直接選挙制に替え、対立候補が相次いで亡くなる暗殺疑惑などの元で四月革命のデモ等に圧されて辞任し、戦前と同じくまた亡命することになり、二度と韓国の地を踏むことがなかったというのは、老子の「功成り身退くは、天の道なり」という言葉を思い出しました。
老いて権力にしがみついた人の末路は「晩節を汚す」ことになりやすいのだなと思いました。

・20世紀後半ずっと競争相手となり続ける金大中と金泳三が、前者は朝鮮戦争の時に母親が餓死寸前となり、後者は母親が北朝鮮のスパイに殺されるなど、相反する点と共通する点があって興味深いなと思いました。

第4章

・朴正煕が軍で不遇な立場の中でクーデターを起こし、単独では成立しえない規模ながら陸軍参謀総長を甘言で利用し、大統領の尹潽善の協力を得て成立し、「政治活動浄化法」で4373名の政治家が活動を禁止されたという流れは非常にスムーズにいったなと思いました。
朴正煕がその後の開発独裁でうまく舵を取ったことを考えると、根回しなどの政治工作もかなりうまかったのかなと思いました。

第5章

・(書籍出版当時の)大統領の李明博が日韓国交正常化への反対運動に参加して当時の朴正煕に睨まれ、政治活動に参加しないように現代財閥の会長に面倒を見るように伝えたというエピソードは、その後の流れを考えると面白いなと思いました。
李明博が大阪で生まれ、貧乏な中で優秀な兄の李相得を家族全体で支える生活の中で、個人の努力で学費免除などを勝ち取って進学し、高麗大学で学生会長になった、というのはとてつもない努力の人だなと思いました。

・朴正煕が李承晩政権時に日本に請求した額を10分の1にして日本との国交正常化に踏み切り、外資導入を狙ったというのはすごい政治力だと思いました。

・この時代に金大中、金泳三、尹潽善がそれぞれ不遇を味わっていたというのは、時代によって明暗が分かれるその一つかなと思いました。

第6章

・朴正煕が自らの基盤が揺らいでいたことから、政権の側から「維新」を起こしたのは面白い手だなと思いました。
その中で金泳三がハーバードからの帰国を決意し、ライバルの金大中が暗殺未遂事件で負傷した後東京で亡命しながら政治活動を行うとしたことは対照的だなと思いました。

第7章

・東京で金大中が拉致されて自宅軟禁される事件が起き、その金大中がライバルの金泳三と連携を取るという方策を採ったというのは面白いと思いました。

・在日朝鮮人が大阪府警の派出所から盗んだ拳銃で朴正煕暗殺を企み、大統領夫人が殺された事件、それをきっかけとした人事異動で車智澈が警護室長となり、この車智澈が失策を繰り返し、その失策を押し付けられた金載圭が朴正煕と車智澈を暗殺するという流れは、人間は完全ではなく感情の生き物なのだなということを改めて考えさせられたような気がします。

・現代建設の社長になっていた李明博が朴正煕に意に反する進言を強制されて葛藤したときに、前の老人が進言内容を忘れてしまったおかげで発言しなくてよかったというエピソードはまるでドラマのようだなと思いました。

第8章

・盧武鉉が李明博と同様に貧乏な家庭に生まれ、また優秀な兄を支える生活の中で努力した人で、李明博とは違って兄が挫折して自身が家族を支えないといけないという状況で、徴兵などで勉強できない状況になったりしながらも努力を続けて弁護士になったというのはすごいなと思いました。

・朴正煕の死で民主化への期待が大きくあり、金泳三・金大中・金錘泌の三金時代到来となるなかで、「十二・十二事件」で軍の実権を握った全斗煥がクーデターを起こし、金大中や李明博などを一斉に逮捕し、また軍部が実権を握った流れは軍国主義からの脱出が困難なことを思わせるなと感じました。

・金大中がまた死刑判決を受け、減刑嘆願書を書かされ、また亡命される流れは、この人物が艱難辛苦に見舞われまくっているなと思いました。

・金泳三が断食をして海外メディアの注目を集めたり、登山を名目に仲間を集めて会合したりする手法は、かなりこの人物が柔軟な思考を持っていたのだなと感心しました。

第9章

・金泳三が政敵の盧泰愚と組んで与党のナンバー2となる「ウルトラC」により、その後大統領となったこと、通貨危機による経済低迷のせいで韓国人が最も低い評価を与える大統領となったこと、一度政治からの引退を宣言した金大中が復帰し、大統領となること、この流れは苦労人が勝ち、小細工を弄した方が負けるという勧善懲悪的な話ではなく、まさに「時の運」というものだなと思いました。

・李明博がソウル市長選のために国会議員を辞任したこと、盧武鉉がその補欠戦で国会議員になれたこと、李明博が選挙法違反で訴えられて5年間の選挙権を失うこと、盧武鉉が無謀な挑戦による落選により逆に支持者を増やすことなど、直近の2名についてもいろいろなドラマがあるなと思いました。

終章

・地域主義を打開しようとしたせいで強い支持基盤を築くことができなかった盧武鉉が政策の実行で躓いて急速に支持率を低下させたこと、李明博が選挙権が復帰していない中でソウルの「清渓川復元構想」を発表し、選挙戦の主導権を握ってソウル市長に当選し、さらに「韓半島大運河計画」「七四七政策」「非核・開放三〇〇〇構想」などを打ち出して大統領選にも勝利したこと、は第9章のエピソードと真逆の展開でこれまたドラマだなと思いました。

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