【近代日本一五〇年 科学技術総力戦体制の破綻】レポート

【近代日本一五〇年 科学技術総力戦体制の破綻】
山本 義隆 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4004316952/

○この本を一言で表すと?

 技術を中心に左よりの観点から見た近代日本150年間の歴史の本

○よかったところ、気になったところ

・技術を基準に近代から現代までを一貫して見ていくという視点は興味深く、時代を超えて続いていたものや途絶えたものなどが俯瞰でき、新たな知見を得られたように思いました。

・他の本ではあまり採り上げられることのない言説が随所で採り上げられていて、この時にこのような考えをしていた人がいたのだなとその時代に対する理解を深められたように思いました。

第1章 欧米との出会い

・欧米との出会いが蒸気機関というエネルギー革命との出会いであった側面が採り上げられ、窮理学(物理学)が読み物として流行するほどのブームとなったことが書かれていました。

・世界的にも科学と技術の結びつきがまだ弱く、科学は実用的でない学問で科学的な素養のない技術者によって技術が進展していった時代にも関わらず、日本ではそれらに触れたタイミングからその結びつきに幻想を抱いていたというのは興味深い視点だなと思いました。

第2章 資本主義への歩み

・当初は工部省と文部省のそれぞれで理系の大学を設立し、工部省の工学系の大学の権威が強かったところ、工部省廃止後に一本化され、帝大出身エリートの権威が強くなっていったという流れが書かれていました。

・日本の開国のタイミングが最良で、目に見えることを扱う古典物理学が出揃った時期で、それより遅くても早くても学び、ついていくことが困難であったことなどが述べられていました。

・鉄道や通信網の建設、製糸・紡績業の興隆、電力使用の普及など、旧技術を飛ばして導入できる優位性が働いていたことが述べられていました。
一方で、顧みられない立場の人たちが厳しい環境に置かれる女工哀史の話や足尾鉱毒事件の話なども挙げられていました。

第3章 帝国主義と科学

・アジアに見切りをつけ、欧米に続くとする「脱亜入欧」の方針から、鉄道・通信網を植民地にも広げていくことで支配を強固にする技術的な側面からの帝国主義に向かっていき、海軍に必要な地球物理学も研鑽していくという流れが書かれていました。

・日露戦争で日本海軍の無線装置に使われていたGSバッテリーや、寒冷地でも使える乾電池を日本人が発明していたというのは興味深いなと思いました。

第4章 総力戦体制にむけて

・第一次世界大戦がそれまでにないほどの近代技術戦となり、自動車・戦車等の機械だけでなく、近代化学技術による無から有を生むように見える技術の投入などが本格的な参戦はしていない日本にも影響を与えたというのは興味深いなと思いました。
とくにアンモニア生成のハーバー・ボッシュ法が注目の的になったそうです。

・土木や通信技術のテクノクラートが軍事テクノクラートと結びついて、人員の総力戦というだけでなく技術の総力戦としても検討され、総力戦体制に向かっていったそうです。

第5章 戦時下の科学技術

・戦時下になってから、それまで技術者が学閥等を作って閉じこもっていたような環境から、総力戦体制の下で集約されるようになり合理化が進んだこと、総力戦体制による合理化については右翼側だけでなく左翼側も賛同していたことなどは興味深いなと思いました。
特に左翼側はこの時期には弾圧されていて縮退しているイメージでしたが、積極的に賛成していた者もいたということは初めて知りました。

・農村の小作人たちが兵隊要員として見込めることから環境を改善していき、平等につながっていったというのは興味深いなと思いました。
その後の農地改革より前に、その下地が作られていたというのは面白いなと思いました。

第6章 そして戦後社会

・総力戦体制は戦後の占領期においても一部を除いて解体されず、特に官庁について内務省以外はほとんど手を付けられずに残されたということが述べられていました。

・様々な学者がそれぞれ責任を追求される中で、科学者はほとんど追求されず、処罰もされずに活動していたということを責める記述が書かれていました。
科学者の「似而非科学」と「真正科学」という単なる言葉の使い分けの話など、誤魔化しだったのか、本気でその区別があるものと考えていたのかも気になりました。

・太平洋戦争を「科学戦の敗北」として、戦後は「科学立国」を目指し、戦前から戦中・戦後にかけて科学についての体制自体はあまり変わらずに続いていたと述べられていました。

・戦後の公害などについて、官庁や大学の権威が企業側について公害の原因を認めずに公害問題がうやむやにされ続けてきたことについて述べられていました。

第7章 原子力開発をめぐって

・日本の原子力開発・活用についての戦後から現代までの流れが述べられていました。曖昧な根拠と主張で導入が進められ、破綻していった流れが詳細に綴られていました。

○つっこみどころ

・当時の出来事の共通事項や相関関係を、現代から見た視点で因果関係として結びつけて陰謀論や特定の誰かの思惑で物事が動いていたかのような書き方が終始されていました。
特定のものの見方ばかり拾い上げて強調される傾向にもありました。個別の事項についてはともかくとして、全体として歴史の本としてはいまいちだなと思いました。

・章が進むにつれて偏った見方が強化されていって読みづらくなっていきました。
最初の方は元号をアルファベットに略するくらいのちょっとした偏りくらいでしたが、後半は「自由資本主義経済のアナーキー」などといった極端な表現が増え、一方的な見方が多くなっていきました。善悪の判断など主観的な見方も後半になるにつれて増えていったように思います。

・ところどころで自身が関わった全共闘運動・東大紛争を持ち上げる話や、それを抑える側だった大河内一男氏を責めるような話が採り上げられていて、結構ポジショントークが交えられているなと思いました。
それ以外にも著者が好きではないと思われる人物がかなり徹底的に批判されていて、公平の見方がされていない印象が強かったです。

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