【万葉集の起源 東アジアに息づく抒情の系譜】レポート

【万葉集の起源 東アジアに息づく抒情の系譜】
遠藤 耕太郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/412102592X/

○この本を一言で表すと?

 万葉集と中国の少数民族の歌垣との比較から万葉集を分析した本

○よかったところ、気になったところ

・万葉集を東アジア共通の恋歌と挽歌であるとして、万葉集の歌と中国の少数民族の歌垣を比較し、その共通点から歌としての側面が分析されていました。

・万葉集以前にも歌はあり、それがどういったものかの考察と、文字として残される自民族の歌という自身の言語と漢字を使った文書ということも中国少数民族の研究から結論を導いていました。

・歌垣を現代の中国少数民族も当時の日本人もレクリエーションとして、既婚者同士でも恋歌を歌い合ったりする共通点があるそうです。

序章 万葉集の成立と東アジアの声の文化

・万葉集の中の歌でも時代を経て後期の歌になると多様化し、中国の詩文を参照した繊細な内容等になっていったそうです。

・万葉集が書かれた歌であることに対して、それまでにも声の歌があり、声の歌にこそ万葉和歌の抒情の起源があるとして、雲南省の少数民族が今なお残している声の歌との類似点から探ろうというこの本のコンセプトが述べられていました。

第一部 万葉恋歌の基層

第一章 歌垣とはなにか

・万葉集編纂以前の地方の風土記でも歌垣に関する記載があり、歌の韻を踏む勝負の話なども残っていること、日本だけでなく東アジア各地でそのような話が残っていることが述べられていました。

第二章 対詠的恋歌と歌垣

・万葉集の恋歌は独詠的恋歌、対詠的恋歌、物語的恋歌の三種類に分類できるとして、それぞれについて説明されていました。万葉集の恋歌は万葉集以前の歌垣歌から流れを継承しているそうです。

・雲南省のペー族で現代に至るまで行われている歌掛けと万葉集初期の対詠的恋歌が比較され、その共通点が示されていました。

・有名な大海人皇子と額田王の歌の駆け引きについて解説されていました。
人妻との恋を君臣の和楽に意味づけて、その宴を主催する天智天皇とその御代を寿ぐ歌になる、という意味があるそうです。

第三章 独詠的恋歌と歌垣

・妻問いの母系社会であるモソ人の独詠的恋歌と坂上郎女の独詠的恋歌を、それぞれ相手を前にしない立ち位置での恋歌は自嘲の意味合いをもたせる共通点があるとしていました。

第四章 物語的恋歌と歌垣

・リス族の駆け落ちをテーマにした歌掛けと、古事記や風土記の駆け落ちをテーマにした物語と、万葉集の物語的恋歌を比較して、類似したストーリーが場所や時代を超えて存在することが示されていました。

第二部 万葉挽歌の基層

第五章 喪葬とはなにか

・「喪葬」の「喪」は招魂、「葬」は送魂を示しているそうです。
亡くなってすぐは魂が驚いたり弱っていたりする状態なので魂を呼び戻すための招魂の儀式を行い、これは現在の通夜にも繋がっているもので、蘇生可能な期間が過ぎると霊を送り出すための送魂の儀式が行われることが説明されていました。

・古事記のイザナキ・イザナミの話、古代中国の喪葬儀礼、中国西南部のイ族の哭き歌で、それぞれ共通する抒情が見られるそうです。

第六章 歌垣と喪葬歌舞

・古代日本では喪葬儀礼を取り仕切る技能者として「遊部(あそびべ)」という人たちがいて、養老令の注釈書である令集解に遊部について定められた記載があり、遊部から野中古市の歌垣にその役割が移っていったそうです。

・モソ人の送葬の歌舞と遊部の歌舞には予祝儀礼としての共通点があるそうです。

第七章 哭き歌から女の挽歌へ

・モソ人の哭き歌と亡くなったヤマトタケルを呼び戻そうとする古事記の歌、天智天皇に対する万葉集の挽歌に共通点があるそうです。

第八章 専門歌人の挽歌

・ペー族の祭文と柿本人麻呂の万葉集の歌には、自身のためでない代作としての歌としての側面が共通しているそうです。

終章 声の歌から万葉和歌へ―継承と飛躍

・声に出して読む和歌、五言絶句から五・七の語数などの音数律、漢字を使うことで言語も地域も異なる場所で同じような音・韻律が使用されること、そして恋歌や挽歌に込められる抒情、という共通点が東アジアで見られるということで締めくくられていました。

○つっこみどころ

・中国少数民族の文化と万葉集を無理に結びつけているような印象もありました。
前者が専門の著者だからか、タイトルと異なり、万葉集より中国少数民族の文化がメインと思える本になっていました。

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