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【平和主義とは何か – 政治哲学で考える戦争と平和】レポート

【平和主義とは何か – 政治哲学で考える戦争と平和】
松元 雅和 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121022076/

○この本を一言で表すと?

 平和主義と他の考え方を対比させて深く考えている政治哲学の本

○面白かったこと・考えたこと

・「平和主義」という誰もが知っていて、かつ人によって理解している意味が違ったり印象が違ったりする考え方について頭の中でかなり整理されました。自分の中にあった平和主義に対する偏見もかなり修正されたように思います。

第一章 愛する人が襲われたら―平和主義の輪郭

・平和主義を強度の面と範囲の面で分けて分類していて、いろいろ混同してしまってここで言う「絶対平和主義」が平和主義なのだと考えてしまっていましたが、強度の面では無条件平和主義と条件付き平和主義(正当防衛、侵略戦争への抵抗など)の区分があり、範囲の面では普遍的、公的、私的の区分があること、大別して「絶対平和主義(パシフィズム)」と「平和優先主義(パシフィシズム)」というように分かれていることなどを知ることで頭の整理ができてきました。

第二章 戦争の殺人は許されるか―義務論との対話

・強盗犯に対する対抗暴力と強盗犯が連れている娘への対抗暴力で前者が免責されて後者が免責されないのは責任の所在で考えるから、という話は感情的な話と実際の理屈をうまく結び付けていてなるほどと思いました。

・戦争における民間人の責任、兵士の責任の話も簡単に決められるわけではないこと、戦争における殺人も戦争以外の殺人も同じ殺人であり、どのような殺人であれば許されるのか、という話に繋がることなどは、理屈で突き詰めていく哲学ならではの結論だなと思いました。

第三章 戦争はコストに見合うか―帰結主義との対話

・戦争が割に合わないからやめるべきであるという帰結主義および広義の功利主義の話と、侵略戦争への対抗などの場合には戦争すべきであるという結論になることがあるということ、この辺りと「平和優先主義」が整合的なのは、平和主義といっても原理主義的なものだけでなく、現実的なものもあることに気付かされます。孫子の「兵は国の大事」とあることとも整合的だなと思いました。

・功利主義の「最大多数の最大幸福」を分解し、「最大幸福」の面と「最大多数」の面で個別に戦争がコストに見合わないことを導き出して平和を選ぶというのはなかなか説得力のある議論だと思いました。

第四章 正しい戦争はありうるか―正戦論との対話

・正しい戦争と不正な戦争の二種類があるという考え、それを自衛戦争と侵略戦争に分ける考えなど、大枠で考えると納得しやすい考え方を、そもそも国家を個人から類推して正当防衛を認めてよいのか、コミュニティの存在保全の意義をどこまで認めるのかと深く考えるとすんなりいかないというのは興味深いなと思いました。まず「正しい/正しくない」を決めることができるのかどうかという話、社会的恩恵と社会的負担のバランスで平和主義が無責任とは言えないという話もなるほどと思いました。

第五章 平和主義は非現実的か―現実主義との対話

・現実主義の四つの見方「世界は中央政府が存在しない無政府状態」「国際関係における行為主体は国家」「無政府状態において国家安全保障が最優先課題」「パワーは重要かつ必要手段」というのは、性悪説的に考えると妥当に到達する結論だなと思いました。

・安全保障に注力することによるジレンマ(相手も強化することでさらなる強化が必要)、思惑やイメージ(A国は強国である、等)によって保たれる平和はイメージが崩れることで同時に崩れ去ることなど、現実主義的な政策を採ることのコストもかなり大きなものだなと思いました。

第六章 救命の武力行使は正当か―人道介入主義との対話

・冷戦終結後に発生している「人道的介入」は国際法的にも定義されていない、「他国の平和のための戦争」という扱い辛いもので、「介入したことによる被害」と「介入しなかったことによる被害」のバランスなど、なかなか難しい側面があるなと思いました。「無危害原理」と「善行原理」のどちらを優先するか、どのようにつり合いをとるかもなかなか難しい話だなと思いました。

終章 結論と展望

・著者が推す「民主的平和主義」で「国内的な変革が国際的な協調に繋がる」ということから説明していて、国際的な変革より国内的な変革の方が当然容易で、かつ成果を出せるというのは確かにそうだなと思いました。

・政治哲学という冷徹な思考で平和主義について考えることで初めて考えを深めたり比較衡量したりできたという著者の意見は本人の専門意識の高さと自負があり、自分の専門を活かして議論可能にした点を評価したいなと思いました。