【経営者 日本経済生き残りをかけた闘い】
永野 健二 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4103505222/
○この本を一言で表すと?
戦後から現代に至るまでの経営者の評伝の本
○面白かったこと・考えたこと
・ある程度知っている経営者の話もありましたが、一般論として世間では良い経営者として見られている人物への厳しい指摘や、一般的にあまりよい文脈で語られない経営者をある面では評価できる内容などもあり、直接会って話した内容や、年月が経ってからの変化など、興味深い内容が盛りだくさんでよかったです。
5.中内功―流通革命と『わが安売り哲学』
・有名なダイエーの経営者中内功の松下と喧嘩してでも成し遂げた流通革命はすごいなと思いました。
・1995年の「中内さん、もしあなたが20代の若者だったら、一体何をしますか?」に「英語を勉強して、パソコンを買って、アジアに行く!」と即答した話は、70代になってもこういった考えを持てるすごい人だったのだなと思いました。
7.藤田田、「青の時代」のトリックスター
・藤田田のことは日本マクドナルドの創業者としてしか知らず、最初に銀座に出店したエピソードまでは知っていましたが、東大法学部卒で高金利金融の「光クラブ」に関わっていたりしていたのは初めて知りました。
・日本の外食産業を変えた人物として、すごい人だったのだなと思いました。
・竹中平蔵がフジタ未来経営研究所の理事長で日本マクドナルドの未公開株を取得していたという話は初めて知り、面白かったです。
9.ジョブズになれなかった男、出井伸之
・ソニーを破壊した男として評価される出井伸之が、ジョブズと同じような発想をジョブズより前に持っていたのに日本の岩盤規制のピーク時だったため、その規制を外すための戦いに終わってしまったというのは、アイデアが有り、企業にそのアイデアを実行する力があっても時を得なければうまくいかないのだなということをしみじみ考えさせられました。
・盛田一族の同族経営などから脱却するための組織変更等を行っても変えられなかった、失敗した人物となってしまったのは残念だなと思いました。
10.“最後の財界総理”奥田碩の栄光と挫折
・同族経営が続いた中で28年ぶりのサラリーマン社長になった奥田碩が、国内シェアの拡大を就任当初の目標として、プリウスなどの環境問題に取り組んだ車の開発に舵を切り、自動運転に繋がる発想のITS(高度道路交通システム)を進めていて、トヨタの飛躍の基盤を作ったそうです。
・章のタイトルの「挫折」にあたるような内容はなかったように思いましたが、財界の経団連と日経連を統合したことで、日経連が持っていた総労働と調整する総資本の機能が無くなったことを著者は批判し、「挫折」としていたのかなと思いました。
13.日立の青い鳥、花房正義の物語
・日立クレジットの花房正義のことは初めて知りましたが、日立グループの中での金融会社という辺境の立ち位置から、様々な制度を駆使して日立グループの中で大きな位置を占めるようになったこと、日立リースと合併して日立キャピタルとなり、GEより大きなGEキャピタルを目指すような方向に替わってしまったせいで三菱UFJフィナンシャルグループの傘下におさまるようになった蹉跌まで、常にうまくいき続けるわけではないところが印象に残りました。
14.柳井正の永久革命
・ファーストリテイリングの柳井正の若い頃の思想から現在の思想までの変遷、山口県の会社であることのメリットを語った後に東京に本社に移したこと、柳井正が尊敬する中内功の晩年に似てきたことなどが指摘されていて印象的でした。
15.豊田章男が背負う「トヨタの未来」
・よい文脈で語られていることが多いトヨタの豊田章男が結構酷評されていて面白かったです。
就任当初は謙虚な姿勢だった豊田章男が、株価の変化などへの感度が弱く、イノベーションを起こすような経営者ではなく、「魅力がない」と言い切っているのはすごいなと思いました。
16.孫正義が目指すのは企業かファンドか
・ソフトバンクの孫正義がかなり酷評されているのが面白く感じました。
・なぜ記事にしない、と日経BPに押しかけてきた話、個人資産会社MACの話、野村證券出身の北尾吉孝が抑え役になっていたが決別してから歯止めが効かなくなった話など、著者がただ孫正義を嫌いなのかもしれませんが、興味深いなと思いました。
17.稲盛和夫が見つけた「資本主義の静脈」
・ワンマン経営で「盛和塾」でブラック企業を生み出すという評判もある稲盛和夫のことを著者が評価しているのが面白いなと思いました。
・自分の意志でビル・ゲイツよりも10年前に公共福祉のための財団を作ったこと等を資本主義の静脈としているのはうまい表現だと思いました。
○つっこみどころ
・著者の前作に続いて「渋沢資本主義」「後期渋沢資本主義」などの用語がでてきましたが、こじつけ感がさらにパワーアップしていました。
著者の元同僚が記事で出してきたオリジナルの造語のように自身発の造語を広めたいのか、渋沢栄一に祖父の代から世話になっていた恩返しなのかわかりませんが、この用語の頻出はこの本の評価を下げるものだと思いました。
・ヤマト運輸の小倉昌男が「経営学」に書いてあったことで労使関係などでは噓を書いていたことや、稲盛和夫の会社での振る舞いなど、著者が気に入っている人物についてはあまり切り込んでいないのが気になりました。
・著者が政治家や企業家の一家に生まれて庶民的な立ち位置に一度も立ったことがないからかもしれませんが、下から見た企業の実態などはほとんど出てこなかったなと思いました。
本の主旨としてはそれでよかったと思いますが。